彼の意思は彼女と共に
深い暗闇の中にいる。
ここがどこかなどわからない。
ただ、そう。最後に彼女の顔が見れた。それだけで十分に幸せな気分だった。
(師匠。あなたは俺を許してくれますか……)
その言葉は口に出しているような。ただ考えているだけのような。そもそもとても不思議な感覚だった。
ただ一つ言えることは彼は十分に満足はしているということだ。
身体中の痛みは既になかった。そうか。これが死ぬということなのか。
死を救済と呼ぶ聖職者の言葉はあながち間違いじゃなかったんだな。
彼はそう思うと自身の意識が薄れていく感覚がする。
(師匠……もうすぐそちらに……)
「馬鹿者が!」
不意に誰かの声が聞こえる。
死してなおそう言われる自分に少しだけ可笑しくなる。
結局最後までそう言われる人生だったんだなと。
そんな彼の視界に少しずつ白い柔らかな光が広がっていく。
やがてその光は彼を包み込む。
――ライズ――
そう声が聞こえた気がした。
しばらくの間その光に包まれているともう一度
――ライズ、戻ってこい!――
そうはっきりと聞こえる。
この声は、アスラの声だ。
ライズはそれを認識すると、急激に意識が戻ってくる感覚がする。
(俺はまたしても、アスラに救われたのか?)
彼女と出会ってから彼の人生は大きく変わった気がする。
あの日以来笑うことのなかった自分が、ふとした時に笑っていることに気づく。
あの日以来毎晩のように一人で飲んでいた酒も、口にしなくなって久しいと気づく。
(すまないアスラ。けど、ありがとう)
その意志が引き金なのか、その光はやがてライズ自身へと染み渡っていくように馴染んでいく。
ゆっくりと、しかし確実に。
馴染んでいくその温かさを彼は受け入れていく。
やがて彼自身も自らその光を手繰り寄せるように引っ張っていく。
次第にライズは自身の体の感覚が芽生えてくる。
彼は自身の死にゆく運命が変わっていくことがわかる。
彼女に出会う前の自分ならば、この光を拒んでいただろうか。
彼はそう思うほど、今は生きたいと思った。
ライズは自身が誰かに抱きしめられていることに気づく。ゆっくりと目を開くと、長い睫毛を涙で濡らし、目を閉じるアスラの顔が目の前にあった。
ライズは彼女によって戻ってきたのだと悟ると、彼も自らの腕を彼女へと回す。するとアスラもそれに応えるかのように腕の力を強めてくる。
ふとアスラが目を開けるとライズと目が合う。
そのまましばらくの時間が経過すると彼女はその瞳から涙を流しながらライズにしがみついてくる。
「ライズ。おかえり」
「ただいま。アスラ。そのありがとな」
アスラへと感謝を伝えると、彼女の身体は次第に重くなっていきライズへと倒れてくる。
何かあったのかと思うライズだったが、彼女の顔は穏やかにゆっくりと上下する胸を見て、彼女の事を労う。
「本当にお前に助けられっぱなしだよ。ゆっくり休んでくれ」
アスラの身体を優しくその場に寝かせると、辺りを見てようやくここがどこであるのかを思い出す。
(まだ森の中か、状況は?どうなっている?)
慌ててライズが周囲を見回すと彼ら二人の周りに結界が張られていることがわかる。
さらにその向こう側にはニコが倒れ、セレナがそれに覆いかぶさるように重なっている姿と、
必死に騎士たちに指示を飛ばしながらも、自らも魔物たちに向かっていく辺境伯の姿が見える。
このまま黙っているわけには行かない。きっと彼らは自分を守るために戦ってくれていたのだろう。
そう思うとライズは立ち上がる。
すると、彼の身体の中からアスラの魔力が湧き上がってくるのを感じる。
ライズは手元に自身の大盾がないことに気づくと、その魔力に引き寄せられるのかアスラの腰に携えられた剣に目線が注がれる。
自身が剣を握れないそんな事を今の彼は考えもしなかった。
今はただその剣を振るわなければそう思い、彼女から剣を借り受ける。
「アスラ。お前の剣。借りるぞ!」
自身に流れるアスラの魔力が剣を持つことによって喜ぶように膨れ上がる。
抜き身でもった彼女の剣が次第に純白へと染まっていく。
聖なる魔力に包まれたライズは魔を遮断する結界を素通りすると、軽く地面を蹴る。前方で魔物たちを押し留めている辺境伯軍の前に立つと、白い軌跡を戦場に描いていく。
その軌跡が彼が何をしたのかを証明しなければ、その場にいた者たちは急に魔物たちが動かなくなったかのように思えたかもしれない。
それほど彼の動きは早く、またその強さは圧倒的だった。
「辺境伯様。今まで俺達を守ってくださってありがとうございます。
ここからは俺が、ケリをつけます!」
ライズは辺境伯たちが苦戦していた魔物たちをほんの僅かの時間で全滅させたあと、後ろを振り返って事も何気にそう言い、戦場全体に響くように怒鳴るように声を上げる。
「いるんだろ?意地汚い悪魔野郎!誰一人殺せないお粗末な計画だったな?」
ライズの言葉を聞いたのか、辺りに漂っていた黒い魔力が一点に収束していき、次第にその形が人型へと変わっていく。
「宴は最後まで楽しむものですよ?人間?最後まで楽しまずに席を立つ、それではせっかくの脚本が台無しではありませんか」
大げさに手を広げながら語っている。この人のような者こそ、この事態の原因である悪魔だと直感する。
ライズはようやく目にすることができた元凶に向け剣を持つ手に力を入れる。
(出てきてみれば、ふざけた野郎だ。宴だと?
悪魔というやつはどいつもこいつも気に入らない)
「さあ!フィナーレへと参りましょう!」
ヴォルガノスが語尾に力を込めると同時に、彼の細長い指をライズへと向け、巨大な黒い魔力の塊―暗黒魔法―を放った。
お待たせしました。主人公復活です。
誰が何と言おうとライズが主人公です。
(ニコの目線での話ばっかり書いている気がします……)




