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英雄殺しの勇者  作者: 紀春


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宴の主登場

ロナルド率いる辺境伯の本隊は、雨のように白い魔力が止め処無く降り注ぐ戦場へとようやく辿り着く。


あの光を見た時、セレナはあれを聖魔法だと言った。ライズにそんな力がないと分かっているニコにとって、あの魔法を放ったのは消去法的にアスラだとわかっていた。

ならば二人ともまだ生きている。


そんな希望はあの光の雨が終わると粉々に打ち砕かれる。

斥候であるニコにとって生命の息吹を感じ取ることは容易だった。

そのためこの戦場には現在、生命反応が一つしかないことがわかってしまう。


(そんな……そんなはずは……)


ニコは思わず肩を落とす。

あの魔法がアスラのものであるなら、術者のアスラは生きている。つまりもう一人はもう。この世にいない。


「兄貴っ……!」


ニコは思わず背負っていた荷物を投げ捨てる。

こんなに色んなものがあっても、何一つ役に立たなかった。そんな思いが彼の心を蹂躙する。


「ニコ様!待ってください。あれを!」


そんなニコにセレナの声が聞こえる。彼女の声のする方を見て、そのまま彼女の指し示す方向へ目線を移す。


「あれは!」


死んだように動かないライズを俯きがちに抱きしめるアスラの姿が見える。

思わず駆け寄ろうとするニコの腕は優しく、しかし強い力で阻まれる。


「セレナ!なんでなの!あそこに行きなきゃ!」

「お待ちください。今あちらに行ってはなりません!」

「どうして!」


もう既にニコの兄貴(ライズ)は死んでいる。そんなことは彼の経験上確かだった。行ってどうなるものでもない。そんなことはわかっている。それでもまだ熱のあるうちに彼にお別れを言いたかった。


「そんな顔をなさらないでください。ニコ様。あれは、アスラは今ライズさんを救っています」


アスラがライズを救っている。それはどういうことなのか。ニコには理解ができないものの、セレナがそう言うのなら、と納得をする。


「よろしいですか。ニコ様。聖魔法というのはそれこそ神の魔法と呼ばれるものです。簡単に人が行使できるものではありません。

ましてアスラは聖職者でもありません。そんな方が今

、必死にライズさんを救いたいという一心で魔法を行使しているはずです。

ですから、そこに私たちが行ってアスラの集中が途切れたら、その時こそ本当にライズさんは亡くなってしまいます。おわかりになりました?」


そうニコを諭すように言うセレナも言葉とは裏腹に、酷く表情を歪めていた。

その言葉でニコはようやく状況を理解する。


「つまり、兄貴を助けるにはアスラさんになんとかしてもらうしかない。そういうことだね」

「ええ、ですから私たちはお二方が邪魔者をされないように守りましょう」


ニコにも希望の光が戻って来る。そうとわかれば残党処理だ。

再び荷物を背負うとその中から結界を張れる石を取り出す。


「セレナこれを使って付近に結界を張ろう。魔力を込めてくれればより、強固になる。お願いできるかな?」

「当然ですわ。たとえ悪魔が来ようとも破れないほどの強固な結界を張りましょう!」


そんな宣言のもと、辺境伯の騎士にも手伝ってもらい、アスラの気が散らない範囲で結界石で囲う。

かなりの広範囲になっているが、そこはさすがのセレナの一言でより強固な結界を容易く張り終えてしまった。


「魔力は大丈夫なの?」

「ええ、ここには今、聖の魔力が溢れるほど漂っています。ですから多少の無茶は問題ありません」


それは平気ではないだろうとニコは思うも、今はそんな彼女がとても逞しい。


結界の外からだとアスラとライズの様子をはっきりとは確認できない。だが、ライズの傷が見るからに修復されていることから、アスラならやってくれるだろうとニコは彼女を信じることにする。


付近は不思議なほど静寂に包まれており、鳥や虫の声すら聞こえない。

少しだけ嫌な予感がする。

そう思った途端再びあの声が聞こえてくる


『あれだけいて、一人しか持っていけないなんて、期待外れですねー』


そんな声が聞こえる。


どこだ?また声だけか?

ニコは辺りを警戒するように結界を守るように移動する。他の騎士たちも同様に動き出す。


すると警戒していたセレナの後ろに突如、黒い球体が現れる。


「セレナ!」


突然現れた物体にセレナが気付くのが遅れる。驚いたような顔をするセレナに球体から酷く細い不気味な腕が触れる。


ニコが慌てて駆け寄り、その球体を斬り飛ばそうと宝剣を振るう。

しかし、ニコの手には何の手応えも感じない。ニコの神速の剣筋が届く少し前にその球体は謎の腕ごと消滅していた。


「大丈夫……セレナ?」

「ニコ……さ……ま……」


ニコが彼女の顔を覗き込むと彼女の目の焦点は合っておらず、顔色も普段よりも格段に赤みが無くなり、まるで雪のような白さになっている。

思わず彼女を抱きしめてみるものの、ニコには何が起きているのかわからなかった。


遅れてやってきたロナルドにセレナを託すと、ニコはどこにいるとも知らない悪魔に叫ぶ。


「影でこそこそ動くことしかできない悪魔さん?

正面からは戦えない臆病者!計画が失敗したら逃走?情けないね!」


悪魔はプライドが高く、とても狡猾だ。あの悪魔だってそうだった。だからあんな面倒な計画を遂行したんだと思うし、今回の悪魔だって、おそらく長い期間準備しているはずだ。


だからこそ、この挑発には乗ってくるはずだ。ニコはそう確信していた。


「私の計画が失敗ですって?随分と甘く見られたものですね」


いつの間にかその場に存在していた。それはニコの認識からしてもそうだった。何の揺らぎもなく、ただ最初からそこに存在していたかのように()()()()にそこにいた。


その姿は、不健康そうな細身の身体に、やけに大きな白衣を着た背の高い人間の男のように見える。だが、あれこそがこの地の元凶である悪魔だとここにいる誰しもがわかった。


「私の名前はヴォルガノス。今宵はすばらしい宴にご協賛頂き誠にありがとうございます。ここからは二次会といたしましょう!

是非に!私達に貴方方の美味しい悪感情を」


そう言って深々とお辞儀をすると顔を上げておぞましい笑顔を向けてくる。


「悪魔め。もう二度とお前たちの思い通りにはさせない!」


ニコはそう叫ぶ。宝剣を構え大地を蹴る。

ヴォルガノスと名乗る男に向け、圧倒的な速度で斬り掛かった。

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