白銀から純白へ
(神様。私に、もしも聖属性が流れているのなら、今だけで構いません。どうかお力を!)
アスラは普段よりも白く染まる自身の剣に目を移す。この色ならば、「できる」
両手で胸の前に剣を置き、目を閉じる。魔力の流れを感じる。「やってやる」
決意を胸に再び目を開くと、ライズがいるであろう魔物たちが集まっている一箇所を睨む。
(呪文なんてわからない。魔法の名前もわからない。
だが、今だけは!この力が聖なるものならば。ライズを護ってくれ!)
アスラは自身の可能性を信じ、必死に剣を天に掲げる。
剣から放たれた純白の魔力は魔物たちの頭上へと一直線に向かう。
その純白の魔力はそのまま弾けるように広がると、幾千の軌跡となり、まるで雨のように戦場を白く濡らしていく。
まるで質量を感じさせないほどに優しい、その純白の軌跡は、悪魔の魔力によって無理やりに動かされていた魔物たちから、その魔力をゆっくりとまるで洗い流すように剥がしていく。
一つ、二つと戦場に動かなくなる影が増えてくる。その数は連鎖的に、そして確実に。
まるで山のように膨らんだ魔物たちが大きく離開した。
目の前で起こる奇跡のような情景を見守っていたアスラは目的の影を見つけ駆ける。開かれた魔物の山の中にボロボロになりながら、片膝をつき、しかし倒れてはいない。その影を瞳に入れる。
「ライズ!」
風を置き去りにする速さでその影の横まで辿り着く、その影―ライズ―をしっかりとその身で抱きしめる。
「馬鹿、馬鹿、馬鹿ライズ!この大馬鹿者が!」
「ア、アスラ……」
「勝手に一人で早まるな!馬鹿者が!」
ライズの弱々しい生命反応はまさに限界であることを示していた。
よく見ればライズの身体はどうして倒れていないのか、千切れ飛んでいなのか。
そもそも何故生きているのか。
無理やり魔力を使って動かしていたのがありありとアスラにもわかった。
そんなライズを見て、彼女は覚悟を決める。
「お前のおかげだ、ライズ。お前が……時間を稼いでくれたから……」
確実に終わりの時間が近づいているライズは言葉を発しようとするも、言葉の変わりに血を吐き出す。
だが、その顔は優しく微笑んでいた。
倒れそうになるライズを支えながら、アスラは彼が何かを必死に伝えようとしていることに気づく、より深く抱きしめるようにして彼の口元に耳を寄せる。
「流石だよアスラ。すげぇよ」
その言葉を残してライズの身体から力が抜ける。
「……ライズ……ありがとう。皆を護ってくれて」
アスラは騎士としてライズのその働きに敬意を示し彼の遺体を地面へと降ろそうとする。
その瞬間。再びあの時の神父の声が蘇る。
(そうだ!私は先程何をした?あれは紛うことなき聖魔法だった。そうでなければ魔物たちをあんなに簡単に屠れはしない!
ならば!ならばライズに聖魔法を使えば!今ならばまだ間に合うかもしれない!
だが、どうすれば……)
腕の中でまだ暖かいライズの身体を持ちながら考える。魔力を彼に与えれば、助かるかもしれない。
アスラは再び自身の魔力を剣に纏わせるように腕の中のライズへと流していく、まるでそうであるのが自然であるかのように、純白の魔力が彼の身体を包む。
骨が見えそうなほどボロボロだった彼の身体は、次第に傷が塞がり、肌の色もくすんでいた色から明るい色へと戻って来る。
(これなら!ライズを!)
アスラにも希望が見えてくる。最早ここが戦場であることも忘れ、必死に彼の身体を慈しむ。
だが、身体はどんどん健康的になってくる割に、彼の身体は全く脈動しない。
(何故だ?何故こんなにも綺麗になったというのに?
……
そうか。内側を治せていない!)
普段からやっている魔力を纏わせるという行為は、あくまでも外側にしか効力がない。
どこから魔力を流せばいいのかわからない。ライズの身体を見回す。必死に。彼の身体を見渡す。
(どこだ……?……っ!ここか!)
そして、ようやくアスラは発見した。彼の身体の中への入り口を。
アスラはおもむろにライズの口を自身の口で塞ぐと、そのまま全力で魔力を注いで行く。
純白の魔力が彼女の口を通し、ライズの内側へと流れていく。
(ライズ!絶対戻ってこい!)
アスラはそのまま目を瞑ると彼との魔力の繋がりだけを意識し、他の全てのものから意識を手放した。




