どうしてお前は!
あんな状態のセレナでも、彼女がいたからこその均衡が、彼女が去り、さらにニコまでもがいなくなった。
残された二人にとってそれはほぼ絶望的な状況だった。二人になったことでライズが守る範囲は少なくはなったが、ライズはアスラを背に、アスラはその背に合わせるようにして、迫りくる敵をなんとか削っていく。
だが、やはり多勢に無勢。数の暴力の前には、いくら当千の二人だったとしても。敵わない。
「アスラ。このままじゃジリ貧だ!お前の全力で敵を斬れ!
隙は必ず。俺が作る。頼めるな?」
「ああ。だが可能なのか?」
「俺を信じろ」
その有無を言わせぬライズの瞳にアスラは口に出したかった全ての言葉を飲み込む。
ライズが言うなら、彼がそんな目をするなら、それは必ず可能なことだ。
アスラはそう思うとライズに対して肯定の意味を込め己の剣に魔力を込め白銀へと染め上げていく。
「さすがアスラ。頼りになるな」
ライズはその言葉を残すと彼自身も大盾に魔力を込め、シールドバッシュを放った。なだれ込んでくる敵が、左右に割れる。否、彼が進んだその道がそのまま空間となり、敵陣に一本の道を作る。
そんなライズの動きにアスラは思わず圧倒された。
たが、それも一瞬のこと、ライズの作った道は瞬く間に左右の魔物がなだれ込み、次第に彼の姿そのものが視界から消える。
「ライズ!」
アスラは悲痛な叫びを上げながらその光景を見ることしか出来なかった。
(この魔力を解放し、ライズの元へ向かうべきか?否。ライズは私に「任せた」と言った。
ならば彼の言う「隙」ができるまで待つべき。
……なのか?)
アスラにはどうすべきなのかわからなかった。ライズの言葉を信じれば必ずその時は来る。だが、もう彼女の瞳にはそのライズの姿が映らない。
そんな状況で冷静になんてなれなかった。
渦のように巻く思考のなかで、それでも彼女は魔力を込め続ける。そんな無防備な彼女に対し、不思議と襲いかかる脅威は現れなかった。
(何故だ?何故こちらに向かってこない。
……まさか……!)
「っ!!ライズ!馬鹿なことはやめろ!」
アスラはようやくライズの狙いに気づく、彼は、ライズは、その自身に敵を集め、それを彼女の渾身の一撃を持ってライズごと斬れ。そう示してくる。
(私は……私は……)
理屈ではそうなのかもしれない。彼の犠牲だけで済むのであれば、この魔物たちが市街へと流れずに済むのであれば。
戦場に置いてそれを、人々は「勝利」と呼ぶだろう。
(でも、それでは!ライズが!ライズが死んでしまう!)
不器用で、面倒くさがりで、いつもつまらなそうな顔をして。
それでも根っこの部分は優しくて、いつだってアスラのことをしっかりと見てくれていた。
(またしても……私に斬れと言うのか!)
最初に戦ったときとは大きく違う。
あれから短い期間ではあるが共に過ごし、様々な依頼を受け、時には色んな冗談を言い合った。アスラはそんなライズと共にいることが好きだった。
最早アスラにとってライズはただの一人ではなかった。他の誰でもなく、彼が、彼女にとってはとても大切だった。
(お前はどうして、いつもいつも。死にたがる。
あの時に言ったではないか。もう二度とこんな事をするなと、お前は本当に大馬鹿者だ!
残される者のことを考えろ!ニコだって、セレナだって、悲しむ。もちろん私だって!お前に死んでほしくなんてない!)
アスラはかつて王都にいた際に教会の神父から自身の魔力は聖魔法に近いという話をされていた。
傷だらけで帰ってきては治療されているアスラを見た神父が不思議そうに語っていたのを思い出す。
――
アスラ。何故お前は自分で治癒しないのだ。お前には聖なる魔力に近い物を感じるぞ。お前が使うあの魔法剣。あの色は聖魔法の色に近い白銀ではないか。
――
(神父様。
あなたの言葉が本当ならば、私のこの魔力は「魔」だけを倒せますか?ライズを、彼を死なせずに済みますか?)
この問いに、答えをくれる者はここにはいない。
だが、このままライズを斬ることなどアスラの選択肢には入らない。
限界をとうに超え、既に白銀からほぼ純白へと染まった己の剣に目を移す。できるかではない。やるんだ。
アスラはそう心を決めると、剣を振り抜くような低い姿勢から。剣を両手に持ち、祈るようにその剣を天に掲げる。その姿はさながら杖を掲げて魔法を放とうとする魔導師の姿のようだった。
もともと前の話と一つの話として書いたんですが、セレナとアスラの視点で書き直してみたらとても濃くなり、二つの話になりました。




