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英雄殺しの勇者  作者: 紀春


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ここで倒れるわけには……

ライズの号令を皮切りに魔物の波が一気に押し寄せる。

 

迫りくる敵に対し、皆の先頭に立つライズは大盾を地面に突き立てながら魔力のこもった咆哮を上げる。その魔力に従い、向かってくる魔物たちの注目は彼に一身に注がれる。

 

人として、とても大柄なライズも、まるで波のように迫る魔物たちと比較すると、これまでどんな敵が来ても安心だったその背中が少し頼りなく見えてしまう。


それでもライズは大盾を巧みに操り、時折彼自身の身体を使いながら敵の流れをなんとか食い止めてみせる。

そんな姿を見てセレナも、どこかおかしい自身の身体を奮い立たせ魔法を放とうと魔力を練っていく。


あの不気味な声が現れてから、いや正確にはその少し前から、この場の魔力はどこかおかしい。本来であれば自身の身体の一部であるように扱える魔力の「質」が変わってしまっているように感じる。


それでも、あの背中を見せるライズを援護しなければ。そう思い。この場の異質な魔力を自身の魔力へと変換する。


「爆ぜなさい!」


そう叫びながら爆裂魔法をライズの前方へと放った。

その爆発はいつも通り多くの魔物を巻き込み、ライズへと迫る魔物を蹴散らし、彼へと至る攻撃を無くす空白の時間を作ることができた。


やれる。この魔力だって自分にかかれば扱うことができる。そう思いセレナは再び魔力を練り上げていく。

   

アスラやニコが、近距離の敵を屠っていくなかで、セレナは魔力を再度練り上げると、再びの爆裂魔法を放ち多くの敵を巻き込んだ。


戦況は安定してきた。ライズが止め、動きの止まった敵をアスラとニコが斬り捨てる。そこにセレナが魔法放ち、多数の敵を蹴散らす。

 

だが、問題はやはりその数だった。


ただでさえ強化された魔物が相手である。次々に現れる敵に対し、アスラも魔力を込める事が出来ず、ただ斬ることしか出来ない。そうなれば一撃で倒せる敵は多くない。

ニコも本来急所を突いて倒す戦い方のはずが、魔物たちは首がなくても、心臓が止まっても止まらない。四肢を奪い、首を飛ばして初めて無害になる。そんな状況だった。

その中で唯一セレナが使う爆裂魔法だけが、文字通り魔物たちを殲滅させていた。


しかし、そんなセレナも次第に自身に起こる変化を騙せなくなってくる。最初は少し頭痛がするだけだった。

それが周囲の魔力を集めれば集めるたび、魔法を放てば放つたび、その頭痛は酷くなる。それでも自身の魔法こそがこの戦場の生命線だと彼女は分かっていた。


(はぁ……はぁ……思うように、魔法が……撃てません。それでも、私が……やらなければ!)


前方で敵を前に一歩も引かないライズと比べれば安全地帯から魔法を放つだけの自分がここで倒れるわけには行かない。自身の抱える問題など大したことではない。セレナはそう思い自身の身体に鞭を入れる。


しかし、彼女の身体はすでに限界だった。もう何度目かわからない魔法を放ったあと、急な目眩で倒れそうになった。

なんとか杖を支えにして持ちこたえると、再び痛む頭を押さえながら必死で魔力を集め出す。

 

すでに己の頭が割れるように痛い、それでもまだセレナの瞳に映る敵の数は多い。彼女は唇が噛み切れるほど強く結ぶと少し血を流しながら何とか気合いで魔法を放った。


再び起こる目眩に今度は持ちこたえることができなかった。杖を支えに倒れはしないが、一瞬意識が途切れそうになる。 


(どうして?私は、こんな時に……!)


再び魔力を集めようとするも集中が乱れ魔力を紡げない。

そんな時、自身を呼ぶ声が聞こえる。


「セレナ!」


最も愛しく、最も大切な人から名前を呼ばれているのにセレナはそれに気づくことすら数泊の時間を要した。

そのことを認識して顔を上げると、心配そうな眼差しを浮かべるニコに自身の身体が優しく包まれた。


「もう……無茶だ!君が死んでしまう。もう、やめてくれ!」

「ですが……!このままでは……ライズさんが!……皆が……死んでしまいます!」


あんなに多くの魔物を前にして身体中を傷だらけにしているライズに比べれば自身の身体のなんと()()()()()()。そう思えばこんな頭痛など、こんな目眩など言い訳でしかない。

この時ばかりは最愛の人の言葉に逆らって再度魔力を紡ごうとニコを跳ね除けようとする。しかし彼女の身体は思うように動かなかった。


「ニコ!セレナを連れて辺境伯のとこへ行け!早くしろ!ここは俺とアスラでなんとかする。応援を連れてこい!これは、リーダー命令だ!」

「兄貴……!」

 

セレナの耳にもライズのその声が聞こえる。


四人で戦っていた今まででさえ何とか凌いでいたのだ。そこを二人で持つかなど考えるまでもなかった。だからこそ、そんなリーダーの命令など無視をしなければ、そう言葉を発しようとするも口が上手く回らない。


だがその言葉を紡ぐ前に自身の身体がふわりと優しく、しかし力強く抱き上げられた。


「絶対!絶対に、連れてくるから、死ぬなんて許さないから!」


そうニコが言葉を発するとセレナの視界はあっという間に戦場から離れていく。

彼女にはニコ声に悲痛の色が混ざっているのを感じていた。それでも納得することはできない。だからこそ彼に言わなければ。

 

「ニコ様!戻ってください!このままでは――」


抱きかかえられている自身の顔を上に上げ、ニコの表情を見れば、セレナはそれ以上の言葉を続けることなど出来なかった。



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