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英雄殺しの勇者  作者: 紀春


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22/29

私は構いませんよ?

しばらくセレナと抱き合っていたニコは、さすがにそろそろ辺境伯の元へと彼女を返さねばと思い、名残惜しみながらも彼女から身体を離す。


「ねえセレナ?そろそろ、辺境伯さまのところに戻ろうよ」

「嫌ですわ。せっかくニコ様と思いが通じましたのにこのままさよならは寂しいです」


確かに告白まがいのことはした自覚がニコにはあった。だが相手は辺境伯の娘だ。自身がいくら二つ名付きの冒険者だとはいえさすがに身分の差を考えずにはいられない。


「あのね。セレナ。君はお嬢様なんだ。もっと然るべき家柄の人と結婚したりするべきなんじゃないの?」


そう言うと彼女はまた少し不機嫌になりプイっと横を向く。


「ニコ様はそれで良いのですか?私が他の誰かのものになっても。悲しんでもらえないのですか?」

「……」


そういう気持ちの問題ではないのだ。もちろんニコとしては他の誰かにセレナが嫁ぐなど想像したくもない。だが現実問題それだけではどうにもならないこともある。


「セレナ。僕は君が誰かに嫁ぐ未来なんて想像したくないよ。でも事実それだけでどうにかなるには僕たちの身分が違いすぎる。ただの冒険者に辺境伯の娘は無理だよ」

「それだけですか?」

「え?」


それだけ。ニコには理解できない。むしろ彼女の答えのほうが「それだけ」なのかと思う。身分の差はそれほど簡単に覆せるものではない。


「ニコ様は知りませんか?お父様。いえ、バルディス家は代々強い血を好みます。過去には英雄と謳われた冒険者の方の血を欲し、養子縁組を用いて婚姻したということもあります。ですからバルディス家は長らく武闘派辺境伯と言われているのです」

「は、はぁ」


出立前あの二人がおしゃべりにかまけているときにそんな事をアスラが言っていたことを思い出していた。


「で・す・か・ら・!それだけですの?」

「えっと……?」

「身分さえあればいいんですの?」


ニコはその時やっと気づく。武功を立てて辺境伯に取り立ててもらえば、そうしたら、彼女と本当の意味で隣にいられるかもしれない。それしかない。そう思うと彼女に向き直る。


「セレナ。僕やるよ。絶対辺境伯様に認めてもらえるような武勲を立てて君を迎えに行くよ」

「ニコ様……!」


その言葉に、今度はセレナの方が言葉に詰まる。提案をしたのは自分だがニコのあまりのやる気に嬉しいと思う気持ちはもちろんあるがその迫力にただ圧倒されていた。

 

そもそもニコは既に二つ名持ちであり、数々の英雄を輩出した武術大会を過去最速で優勝した実力の持ち主だ。そもそもあの時辺境伯既に目をつけていた。だがニコがあまりにも早く姿を消してしまったためにその話ができなかった。とセレナはニコのことを聞いていた。

 

つまりニコの気合は必要ないのだ。セレナが一言ロナルドに「ニコと結婚したい」そういうだけで事は運んでしまう。


そんな事を知らないニコは一人張り切り、ドラゴン?幻獣?魔族?何を倒せばいいんだと脳内トレーニングに勤しんでいた。そんな中、セレナから声がかかる


「あの……ニコ様?でしたら一度お父様のもとにご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」

「え……まあそもそも僕もこのまま君を一人で返す気はないから辺境伯様のテントまで一緒に行こうと思ってたよ」

「嬉しいですわ」


二人は仲良く手をつなぎ、他愛もない話をしながら暗がりから冒険者達のテントが連なるところへと戻ってきていた。二人は他愛もない話をしていた。


「ニコ様はそういったものがお好きなんですね」

「そうそう。結構奥が深くてさ」


(きゃー)

(わかったか!)

(やめろー)


何やら一つだけやけに賑やかなテントがあった。ニコとセレナは顔を見合わせ賑やかなテントへ向かう。

すると周囲の冒険者たちもみな気になっているようで外に出ていた。


当然そのテントは半月(ハーフムーン)のものであった。


ニコとセレナが連れ立って歩いているのを見つけた冒険者達は一斉にこちらへと向かってくる。

ニコは嫌な汗を流しながらセレナを守るように立った。その一人の冒険者の言葉を借りれば


「おいニコ。お前んとこの二人がおっぱじめやがったぞ!さっきまで凄い音を出しながら暴れてたと思えば今はあの白銀の悲鳴が聞こえてくる。こんなとこでやるなんてなーははは」


というようなことだった。隣にいるセレナは顔を真っ赤にしてブツブツと呟く人形と化しており、事態の収拾はニコ一人で行わなければならなかった。


「皆さん。お騒がせして本当に申し訳ありません。ちゃんと言っておきます。時と場所を考えろと。なのでこの場は僕に免じて許していただけないでしょうか。すみません。皆さんどうか各自のテントへ戻られますよう」


そう言って彼らを返していく。だが

「いい酒のつまみだった」だの「若い男女がふたりきりじゃね?」だの「俺も美人のねーちゃんとやりてーよ」だのいちいち報告してから帰る始末。


結局どんなときでもニコの苦労はなくならないのであった。


ようやく復活したセレナが一言

 

「ニコ様が求められるのなら、私は構いませんよ?」


顔を真っ赤にしながらそういうセレナに対し何を答えても正解にならない気がしてならないニコは月を見上げる事しかできず。


「月が綺麗だね」


そう発言してその場を濁すしかなかった。



 

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