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英雄殺しの勇者  作者: 紀春


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温め合う二人

ニコがリーダー会議へと向かっていくと、半月(ハーフムーン)のテントにはライズとアスラが残っていた。


「私たちはニコに頼ってばかりじゃないか?そもそもリーダーはお前だろ。ライズ?」

「はっ?そもそも俺はなりたくてなったわけじゃないぞ、ニコが勝手にリーダーにしただけだ。

それに、どう考えても俺よりニコの方が向いてるだろ?」

 

ライズはそう言いつつ自分で虚しくなるが、適材適所というものだ、ニコは人の懐に入っていく力が優れている。さらにさまざまな情報を仕入れてくるのも得意だ。

変な話、戦闘を除けばすべて負けている。そう思ってしまうほどライズの(ニコ)はすごい。

 

アスラも「まあそうだな……」と言っているあたり他人からの評価も似たようなものだろう。


「まあでも確かにニコはすげえよ。知ってるか?影のニコの話」

「ああ、あの武術大会の」

「それだ。正直本気(マジ)で戦ったら勝てるかわからん。なんであいつが斥候なんてやってんだよ」

「それだけ器用なのかもな」


かつて剣だけで戦っていた頃には負け無しだったライズに今。剣はない。


あの日から……


目線が腰に携えている「赤黒い剣」に移る。ライズの手は自然とその剣に触れてしまう。あの日の光景がまた蘇る。その時、アスラの声で現実に戻された。


「大丈夫か?」


気づけばアスラの顔はライズの目の前にあった。もう少しでキスをする程の近さで彼女の心配そうにこちらを伺うどこか憂いた表情に心臓が止まりそうになる。


「だ、大丈夫だ。つーか近ぇよ!」


そう言って彼女を押しのける。彼女の表情を思えば、自身がやっていることが正しくないことは分かっている。だがライズの心臓は壊れるかというほどに暴走していく。


「悪い。お前が俺を心配してんのは分かる。だがな、急に目の前に来るのはやめろ。」 

「そ、そうか。それはすまなかった」


二人の間には少し気まずい空気が漂っていた。アスラは少し悩むように目を瞑り、ライズも彼女を責めたいわけではないので、どうしていいのかわからず。下を向いていた。


その後しばらくはその時間が続き、自然と各々が装備の点検をしたり、道具類の整理などをして過ごしていた。全ての確認も終わり、いよいよ明日に備えてそろそろ寝るか。そんな時だった。


「……い」


ライズの耳にアスラのつぶやきが聞こえた。なんと言っているのかよく聞こえない。


「寒い」


その声にハッとし、彼女へ視線を移すと、小刻みに体を震わし、唇も若干青みが刺したアスラの姿が目に入る。


「ほらよ。こうすれば少しはマシか?」


そう言って彼女の両手を己の両手で覆った。子供の頃、母親からされたことを思い出し、優しく包み込むように彼女の両手に熱を入れる。


「あ、ありがとう」


少し良くなってきたのか頬に赤みを刺しているアスラにライズも柔らかな笑みで返す。先ほどとは違い二人の間に和やかな時間が流れていく。

しばらくしてライズは自身が今。()()()()()()のかという事に理解が追いついてきた。

先ほど自身が顔を近づけられただけで動揺したというのに今、己の両手は彼女の両手を握っている。

その認識が脳まで及ぶと途端に恥ずかしくなってきた。

だが彼に握られている両手を持つアスラの幸せそうな顔を見れば外せようものがない。ライズはそっと視線を外し、意識を別のものへ向けようとするが視線を移しても狭いテントの中にいる。ということに改めて気づかされ、さらに動揺が激しくなってくる。そんな時


「な、なあライズ。私良いことを思いついたのだが、やってもよいか?」

「あ、ああいいけど」

 

突然話しかけてきたアスラに天を見ていたライズは慌てて答える。目線を戻した時には既に彼女の方から手を離されていた。あれだけ動揺していたのにもかかわらずその温もりが離れていくことに若干の名残惜しさを感じざるを得なかった。


手を離したアスラはスッと立ち上がる。軽装のためか彼女の身体のラインや揺れる白銀の髪がライズの視線を奪う。

 

静かに立ち上がるその姿はとても神々しく。少し覚悟を決めたようなその瞳の力強さも相まってライズは一瞬しか見ることができない。あまりの彼女の美しさに直視することができないでいた。

 

ふと気づけば彼女は自身の目の前まで来ており、その表情を少しだけ緩ませると、その場でくるりと背を向けライズの前に座る。


状況の掴めない彼は、一度その場から離れようとするも、彼女の身体が彼の方へと倒れてくる。

まるで小さな子供がするようにアスラはライズの正面を覆い尽くすように背中を預けてきた。


突然の接触に驚き戸惑いながらも、条件反射でアスラの肩を包み込むように抱く。


「やはり手を触れ合うだけで温かいのなら全身を触れ合わせれば温かいな」


そう言ってアスラは血色が良くなり赤くなった顔を向け、ニッと笑った。その表情がとても子供っぽく。ライズも毒気を抜かれ彼女の髪の毛を優しく解いていく。

 

きっとアスラは純粋に好意を寄せてくれているのだろう。そう思うとライズの心も次第に穏やかになってくる。


「お前本当に子供だな」


そう小さく呟くライズだった。

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