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英雄殺しの勇者  作者: 紀春


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じゃじゃ馬姫

「それで、合同依頼は参加するってことでいいよね?」

「おう」

「もちろんだ」

 

ニコの改めての確認に二人は合意する。なんで自分がこの立場なんだろうと思うことはもうやめている。そういうものだ。適材適所ということでニコは納得している。

 

「ところで街道まではそこそこ距離があるわけです。歩いても行けるけど、まあそれは行くだけで疲れちゃうので、できればやめたい。ですよね?」

 

そう言葉を二人に投げかけ、ギルドの外へ促す。


「はい。ということで馬車を借りてきました!」

 

アスラから緊急依頼の話を聞いたとき。おそらく使うことになるだろうと思い。早めに借りておいたのだ。

 

「御者は僕ができるし、騎士のアスラさんもたぶんできるよね?兄貴は?」

「もちろんだ」

「まあ出来ないことはない。あんまし好きじゃねーけど」

 

ということで、交代でやればそこまで負担にならないな。と結論が出た。

 

「ついでにこのお馬さんはホープくんです。しばらくの間よろしくね。ホープくん」

 

ホープくんもご機嫌のようで鼻先を擦り付けてくる。


馬車に必要なものを入れ、街の外へ向かうとすでに数組の冒険者たちがいた。

その中には一際大きく豪華な馬車もあり、おそらく辺境伯が乗っているのだろう。

全体の出発までまだ時間がありそうなので三人は馬車を停め、辺境伯のもとへと向かった。


大きな馬車の前まで来ると、辺境伯が何やら女の子と揉めている。

 

「私も!戦えますわ。この土地の危機に立ち上がらないなんてありえません!」

 

まだ少女といった感じの大きな杖を持った女の子はどうやら自分も出陣したいと言っているらしい。

 

「あのくらいの子でも戦いたい。なんてすごいね。いったい誰なんだろう」

 

そう呟くにニコに

 

「あれはおそらくロナルド様の娘。セレナ様だ」

 

とこういう時は頼りになるアスラが答える。

 

「お嬢様なのね。思ったよりお転婆そうだけど?」

「杖を持ってるってことは魔法を使えるのか?」

 

そんなニコとライズのやり取りに

 

「辺境伯家は魔法というよりは武闘派のイメージだが、ことセレナ様においては魔法の才が抜きん出ていてな。今は王都の学園に通っていたはずだったんだが……さすがはじゃじゃ馬姫といったところか。」

 

噂に聞こえる「じゃじゃ馬姫」なのは間違いないかもな。とアスラも頷いている。


そんな彼らを見つけた辺境伯がすがるような目線をこちらに向けてきた。

 

「おお、半月(ハーフムーン)の諸君。先ほどぶりだな」

 

わざとらしく大げさに挨拶をしてくる。おそらく娘の扱いに困ってこちらに助けを求めに来たのだろう。

 

「お父様?そちらの方々は?」

 

娘の方もこちらへ顔を向ける。金色の髪を肩のあたりで切りそろえてあり、その顔がはっきりと分かると、思わずニコも「うわっ可愛い」と唸ってしまうほどだった。

 

ライズに「お前ああいうのが好みか?」とニヤニヤされ、ニコは無言で肘を食らわせた。


「セレナ様。以前一度お会いしております。アスラです」

 

そんな事を言いながらアスラが前に出て、自分が半月(ハーフムーン)のパーティにいること、そして、ライズとニコについても紹介してくれている。ニコを見たセレナは我が意を得たり。と目を輝かせる。


「お父様?そちらにいらっしゃるニコ様もずいぶんとお若いと思いますが、なぜ私は駄目なんですの?」

 

ある意味爆弾発言をする。ニコにとって年齢を言われるのは好ましくない。ニコが訂正しようと一歩前に出ると、スッとセレナが腕を絡ませてくる。

 

「ね?ニコ様。私も戦えますわ。そうおっしゃってください」

 

そう言ってニコに笑顔を向け、縋り付いてくる。突然の接触にニコは顔を真っ赤にすると、しどろもどろになりながら

 

「ま、まあ魔法使いなら後方からだし、誰かが守れるなら大丈夫なんじゃないですか」

 

と先ほど年齢を訂正しようと意気込んだニコの気持ちは彼女の体温を感じた瞬間に過去のものへとなっていた。今は何故かこのじゃじゃ馬姫の援護をしている。 


「……」

 

無言でこちらを睨みつけるように見る辺境伯の視線に、改めて自分が今どういう状況かを確認する。

背中が少し寒くなりながらそーっとセレナの腕を身体から離そうとする。だか、逆に強く握られてしまう。


思わずそちらを見れば少女とは思えないほどしっかりとした目でこちらを見ている。その瞳の奥にはしっかりとした戦士の志が宿っているのを感じた。


「辺境伯様。もしセレナ様を戦場に立たせるのが不安なら僕を使ってください。必ず守ります」

 

気づけばそう宣言していた。

 

「なっ………影のニコと言われるニコ殿から見ても我が娘はそれほどか?」

「もちろんです。セレナ様の瞳にはしっかりと戦士の志が宿っています。決して簡単な覚悟はされていないと思います」

 

そう言ってしっかりとセレナを見る。興奮しているのか少し顔を赤くしながらも、彼女の瞳に宿るその意思は固そうだ。


「うむ。ニコ殿。二言はないな?」

 

低くとても圧力のある声だった。しかしニコも今さら引けない。ニコは潰されそうな圧力を受け止める。

 

「はい。お任せください」

 

そう口にするとその圧力は離散した。

するとどこか挑発的な笑みを浮かべながら辺境伯は言う。

 

「……面白い。口だけかどうか見せてもらうとしよう。ニコ殿、酷いじゃじゃ馬だがよろしく頼むぞ?」

 

そう言って馬車へ引っ込んでしまった。

 

「お父様!!」

 

じゃじゃ馬姫もそのまま父親に続いて馬車へ入り、あたりが急に静かになる。


ニコは思う。あれ?これってなんか変な感じになってない。そう思って後ろを振り返るとニヤニヤした二人組(ライズとアスラ)が見える。


どうしてこうなった!そう頭を抱えて前を向くが、

その後二人にめちゃくちゃからかわれることになった。


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