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英雄殺しの勇者  作者: 紀春


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バルディス辺境伯

ある晴れた日小鳥のさえずりが聞こえてくるような清々しい朝。ライズとニコは気持ちよく夢の世界へと旅立っていたのだが、そこに慌ただしい乱入者が現れる。


「皆、ギルドに行くぞ!緊急依頼だ!」

「アスラさん!緊急依頼ですか?」


寝起きでもさすがの聴力でアスラの言葉を聞き取っていたニコが驚いて飛び起きる。

 

「ああ、何でも隣街との間にある街道に普段出現しない魔物が出ているようだ。それも複数の報告があるらしい」

「なるほどね。まあそうなると原因の調査及び可能なら討伐。そんなところ?」

「さすがはニコ。……で?ライズ聞いているのか?」


アスラは半分夢の世界の住人になっているライズを睨む。

彼は自身がしっかりしなくても自身が頑張る気はないようで、なんかヤバそうな感じか?くらいにしか考えていながった。

 

「あーヤバそうな感じだな」

「ヤバそうではない!実際ヤバいぞ。この街は辺境だ。隣街と分断されれば滅ぶのを待つだけだぞ!」


アスラの言うことは最もであり、この辺境の地から隣町までは山を越えるしかなく、その街道が今問題になっているということだ。

ライズは重い腰を上げ一言 


「よっしギルドに行くか!」

 

こういう即断即決なところは案外リーダー向きのライズである。

 

ギルドの扉を開くと、中にはいつも以上に冒険者が大勢いた。彼らの話題もやはり先ほどの話題で持ちき里であった。その中に

 

「どうやらこの後説明があるらしい」

 

そんな言葉が聞こえてくる。ニコは持ち前の情報網で色々な冒険者と話をしていたが、ライズとアスラはなるようになるだろうと適当なテーブルを陣取り続々と集まってくる冒険者たちを眺めていた。


しばらくして、ギルドマスターと質素だが質のいい服を着たやたらと目力のある男が階段から降りてきた。

皆一斉に頭を下げるので、ライズとりあえずそれに倣う。

下を向きつつアスラに囁く

 

「おい、アスラ。あのおっさん誰なんだよ」

「ばっ!」

 

アスラがいきなり大声を上げそうになるので、慌ててライズは彼女の口を片手で塞いだ。アスラが抗議の声をモゴモゴ言っているが、皆が一様に下を向いているときに声を上げられてはまずい。

 

「おい、アスラ!デカい声を出すな」

 

そう小声で注意して、塞いでいた手を外す。

赤くなったアスラも小声で

 

「誰のせいだ。誰の。そもそも、お前はなぜあの方を存じ上げない?この街にそこそこ長くいるんだろ?」

「そんなに有名なのか?」

「馬鹿か貴様は!……あの方はな!このバルディス地方を治められているバルディス辺境伯だ」

「なっ……辺境伯だと……」


アスラは小声で怒鳴るという器用なことをやってきたが、そんなことより辺境伯という単語がライズの頭の中で咀嚼できなかった。

すでに頭は上げていたので、説明を聞いているふりして辺境伯を見る。

なるほど、確かに最初は目力の強さに目がいったが、言われてみればただ者ではない。そんな感じを受ける。おそらく彼自身も相当に強いだろうとライズは感じていた。そのライズの目線を見てアスラは話を続ける。

 

「バルディス家は身分をあまり重要視しない。そのため過去に冒険者から多くの者を登用されている。

過去に数度だが、辺境伯家と婚姻を結ぶために養子縁組を組んだこともある。

閣下がそれなりの強者であることもそれを証明しているだろう。

それだけ辺境を守る為に力を求めているとも言える。そのためこの地には各地の名高い冒険者が集まってくる。

私が本来ここを目指したのはそれが理由だ。お前もそうだと思っていたがな大盾のライズ。だかその顔を見れば違うようだな」

 

そう言ってアスラはヤレヤレと首を振り大げさにため息をつく。

ライズも初めて聞いた辺境の事実に驚いていた。だがそんな二人を糾弾するように後ろからこれでもかと大きなため息をつくものがいた。


「あのさ!二人ともちゃんと話聞いてた?もう終わってるけど?」


そう言われてライズが辺りを見渡すとすでに辺境伯の姿はなく、冒険者たちも準備に走っている姿が目に入る。

 

「皆速いな」

「違う!兄貴たちが遅すぎる!ずっと二人でぺちゃくちゃペちゃくちゃ!何なの!依頼に興味ないなら宿に帰ったら?」

 

思わずライズとアスラは顔を見合わせて下を向く。

 

「辺境伯様は気にしてない感じだったけど、ギルドマスターはカンカンだったからね!ちゃんと謝っといとね」

「すまん」

「申し訳ない」

 

「で?話は聞いてたの?」

『……』

ライズとアスラは再度お互いの顔を見る。

(聞いてたか?)

(いや。まったく)


二人はニコに小言を言われながら改めて依頼の詳細を聞く。

ニコの要点を掻い摘んだ説明はわかりやすく、二人がすかさず。

「さすがはニコわかりやすい!」「やっぱお前がいると安心だわ」

など調子良く褒めていた。

 

ギルド職員から辺境伯が半月(ハーフムーン)を呼んでるとのことで三人は別室へと向かった。


「忙しいところを呼びつけてすまない。ロナルド・バルディスだ。

ここでは礼儀は気にしない。個人的に君たち半月(ハーフムーン)と知己を得たいと思ってな」

 

そう言って豪快に笑っていた。

 

「ロナルド様、ご無沙汰しております。王国騎士アスラです」

「そう固くなるなアスラ殿。貴殿が所属しているということも私がこのパーティに興味があるところなのだ。して二人を紹介もらえるかな」

「はっ」

 

そう言ってアスラによってライズとニコは辺境伯と面識を得ることになった。

 

「先ほど全体にも言ったが、此度のこと、偶々だとは考えにくい。おそらく裏で何かが。そういった匂いがする。

君たちはとても優秀と聞くが、油断すれば人は死ぬ。特に君たちのように将来が楽しみな若者には死んでほしくない。期待しているぞ!」

 

ではなと辺境伯はそれだけ言って部屋を出ていった。半月(ハーフムーン)と辺境伯の短い今後彼らの進む道を大きく変えることになるのだった。

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