ニコの憂鬱
ニコは一人酒を飲んでいた。
最近本当に不満が溜まって仕方なかった。それというのもあの二人。ライズとアスナだ。
(誰がどう見てもあんなの付き合ってるに決まってる。兄貴があんな顔を見せるのはアスラさんだけだし、アスラさんも兄貴の前じゃ騎士ではなくただの女の子みたいになってる。
それなのに!なんで!僕は!そんな二人に挟まれていなければいけないんだ!こんなの飲まずにやってられるか!)
そんなニコを見て、話しかけてくる二人組の女性冒険者が声をかけてきた。
「あら?あなたは影のニコくん?どう?お姉さんたちと一緒に飲まない?」
そう言うとニコの許可など取らず、彼女たちはさも当然かのようにニコと相席をする。ニコがその二人組をよく見ると、どちらも美人で少し扇情的な格好をし、まるで満開の花が咲いているかのような笑みを浮かべていた。
しかし不満にあふれるニコにとって彼女たちの容姿などどうでもよかった。はっきり言ってこの不満を誰かに聞いてもらいたい。その思いが強かった。
「お姉さん方聞いてくれます?僕の話」
そう話し出すと彼女たちは自身の胸をこれでもかと見せつけるかのように身を乗り出す。だがニコの視線はそこには向かない。
少し遠い先を見ながら、しかしはっきりと話し始めていく。
とある日、ニコたち半月の三人は遺跡の調査任務を受けた。
最近新たに発見された遺跡で、様々な罠や閉ざされた扉などがあり、その調査をすることになったのだが………
斥候であるニコは、こういう依頼こそ自分の出番だと張り切り、罠の解除や扉の解錠に必要な道具類を調査し、発見された遺跡の年代から、おそらくこの辺りの道具が必要だろうと当たりをつけ、用意した。
だが、その道具類が日の目を見ることはなかった。
「罠なんてのはな!全部発動させて防いじまえばいいんだよ!」
そう言って矢が振ってくれば大盾で巧みに捌き、落とし穴に落ちそうになれば持ち前の反射神経で華麗に回避しつつ、先へ進む。
ライズからしてみればどんな罠もアトラクションのような扱いになってしまうようだ。
一方のアスラも
「道がない?そんなもの気の持ちようだ、進めると思えば進める!」
とただ聞くだけでは意味不明な理論を言いながら、実際に彼女はライズが開けた落としなの淵だけを使って渡っていくし、閉まっている扉があればニコが道具を取り出すよりも早く
「どうせ開けるなら壊しても構わんだろ」
そう言うと、剣に魔力を溜めて一閃。
扉どころか周囲の壁を壊す勢いで穴を空け、ずんずん進んでいく。
「お前、さすがにやりすぎだろ」
そういうライズは古典的な大玉が押しつぶそうとしてくる罠に引っかかり大盾で受けるとそのまま逆側に向けて思いっきり盾で打っていた。
ニコは次々に酒を注文しながら愚痴を言い続ける。
「斥候ってさ。結構重要な立場のはずなのに、兄貴たちからしたら本当に無用の長物だよ。
確かに進めるのであればそれが正しいのだろう。でも!そんな感じなら僕いらなくない?そう思いませんか?
絶対に必要だと思って!いろんな道具を揃えて!たくさんの技術を学んで、いざ遺跡に行ったら後ろからついて歩いてるだけ。
ねえ?お姉さんたちならどう思う?」
絡まれた二人組の冒険者もまさかあの伝説を残した影のニコが、僕いらなくね?と泣きながら絡んでくるとは思わなかった。
「た、大変なのね…半月は…」
「ニコくんは頑張ってると思うわよ。」
彼女たちは少し童顔で実力もあるニコにお近づきになりたいと彼に近づいたことを既に後悔し始めていた。
「それにね。」
(まだ続くの…!?)
彼女たちの表情からは満開の花がすでにしぼんでいた。
とある討伐依頼からの帰宅中のこと
ニコが偵察から戻ってくると何やら二人が揉めていた。ニコは遠巻きにその様子を伺っていると、
アスラが魔物の素材をパンパンに詰めたそれはもう重そうな荷物を抱え、ふらふらと歩いている。
それを見かねたライズが
「おいアスラ。俺がそいつを持つから、早く貸せ!ほら」
とアスラに手を伸ばすも。
「この程度で音を上げるはずが無いだろう。白銀の騎士の名を汚すんじゃない!」
と足取りは覚束ないものの決して荷物を渡す気がない。
何でもいいから早くしてくれ。そうニコが思っていると
「あのなアスラ。その素材は俺たちが取ったものだ、だから別にお前が一人で持たなきゃいけないなんてことはないんだからよ。ほら!」
「だ、だが、ライズだって持っているだろ?魔物の素材。それならこれは私の担当だ。責任は疎かにするような騎士ではない!」
と一歩も引かない。
仕方ないなここは自分が間に入ろうとニコが声を上げようとすると
「わかった半分こしような」
「え?半分こ?」
とライズが謎の提案をしだす。
「こうしてな」
そう言ってアスラが持つ荷物を横から支える。
「二人で持てばいいだろ?な」
「本当に半分こか?ま、まあそれならよいだろう…」
そう言って二人がこちらに仲良く荷物を抱えながら歩いてくる。
ニコはそんな光景を見て声をかけようと開きかけていた口がしばらくして乾燥を覚えるまでの間、閉じることができなかった。
「なんなのあの二人は!」
ダン!とグラスを荒々しくテーブルに置いた。
ニコの犠牲者である残念な美人冒険者二人組は
思わず二人で抱き合いながらも必死でニコのフォローをする。
「まああの方々は…」
「少々かわり者というか」
「ニコくんはそのままでいいと思うわよ……」
「少々?あれが?あんな変人なんて他にいないよ!
あれで!何でお互い気持ちがわかってないの?馬鹿なの!?あんなの見せられたらどう考えても。そうじゃん!
あの時塞げなかった僕の口から砂糖がでないのが不思議でならないよ!
ね?そう思うでしょ?お姉さんたち?」
そんなニコに対して苦笑いをしながら同意したり、慰めたりと彼女たちは影のニコの別の意味での恐ろしさを経験として知ることになった。
後にニコが酒を飲んでいる時には近づくなという暗黙のルールが冒険者の中で広まっていることに彼が気づくことになるのだ、それはまた別のお話である。




