騎士としての心
ライズ達のパーティ半月が結成され幾日か。
今日も依頼を終え三人は酒場に集まっていた。
「そう言えばアスラ」
ふいにライズがアスラに問いかける。
「お前って騎士だったよな?」
「何を言っているライズ。騎士だったではない。今現在も私は騎士だ!勝手に過去のことにするな!」
「いや、まあそういうわけじゃねーんだが……」
そう言ってライズはどうしたものかと視線をニコへ向ける。
仕方がないな。という感じでニコが
「アスラさん最近騎士として動いてます?」
「?どういうことだ?」
「最近僕らとずっと一緒だし。いくら何でも冒険者過ぎません?」
「あっ…」
そうなのだニコの言うように彼女はここ数日半月として活動しており、いくら何でも騎士としての仕事をしていないように思える。
「そもそも騎士なら例え自由任務ってやつでも定期報告みたいなやつがあるんじゃねーのか?」
騎士の中に自由任務といって己の判断で行動するということが存在していることはライズもニコも知っていた。だが彼女はそうだとしても全く何もしていない。
「まさか…忘れてる。なんてことないよね?」
ニコが恐る恐る聞くと。
「ふっ!甘いな私をそこら辺の騎士と同じだと思っては大間違いだ」
まあ普通ではないよな。変だしというツッコミが喉から出そうになるが必死に抑えるライズ。
「どういうことですか?」
「それには海よりも深い理由があるのだ。」
王都で騎士団員としてアスラが働いていた頃。
アスラは仕事も訓練も真面目にこなすとても優秀で模範的な騎士だった。
どんな任務に対しても率先して参加し、いつも最後になって帰ってくる。
魔物の撃退ならば最後の一匹まで念入りに倒し。
救護任務であれば最後に誰もいないかを見回ってから戻ってくる。
身体はボロボロ。装備もボロボロになりながらそれでもアスラはいつも笑顔で帰ってきていた。結果として一人でも多くの者が救われるのなら。
そんなアスラを王都の民たちは
「アスラ様!いつもありがとう!」「これ持っていきなよ!」「我々の生活は白銀の騎士様のおかげです」
と言葉をかけ贈り物をあげたりと歓迎してくれていた。
そんなある日、とある村が魔物のスタンピードによって壊滅寸前との知らせが騎士団に入る。
当然アスラもそれに参加するが、その際持ち場を離れ民の救助を優先し、結果として人的被害を多く減らすことは出来たが、命令無視として叱責されることになった。
「何故です?確かに私は命令に背いたかもしれない!ですが!私はもともと人々を救うために騎士になりました。
それならば私一人が抜けても問題のない布陣にも関わらず、私がその場にいなかったことの何が間違いなのでしょうか。」
アスラはその日確かに命令無視をした。だがそれはその場で待機せよ。というある意味余剰戦力としての配置だった。
確かに待機というのは事が起こった際の援軍として、出撃できなければならないが、それでも民の救護を行うことが彼女には悪いことだと思わなかった。
「アスラ。お前の考えはわかる。確かにお前のおかげで助かった命もあり、お前の助命をする者どもも多くいる。だからこそ、逆にまずいのだ」
「……」
「今はいい。結果として何も問題ない。それどころかよりよい結果になった。
だが、それを良しとしてしまえば前例を作ることになってしまう。今後何かにつけてアスラは許されたのにとな。わかるな?」
上官の言うことは最もだ。そんなことはアスラだって分かっていた。だがあの時助けを呼ぶ民の声を無視することは自分にはできない。それを無視するくらいなら騎士などやる価値もないのだ。それならば
「わかりました。辞表を書きます」
「まあ待てアスラ。お前は正直に言って民衆の評判はすこぶる良い。そんなお前に騎士をやめられたとなったら不味い。それも分かってほしい」
「では私にどうしろと言うのです?私は民の声を無視することなどできません!」
「そこでだアスラお前に一つ任務を与える」
「任務ですか?もう私には辞める覚悟があります!お世話になりました!」
そう言ってアスラが背を向けると上官が叫ぶように言う。
「全てお前に任せる。お前の好きにやれ!それならいいだろ?」
「自由任務ということですか?」
「そう思ってもらって構わん。辞める気ならそれでもいいだろ?任務内容は魔王の残党の調査及び可能であれば討伐だ期間は設けない」
「承知しました。謹んでお受けいたします」
それが体の良い厄介払いということはアスラにも分かっていた。
そのためアスラは団員としてではなく、個人として人々の力になるべく動き出したのだった。
「ということがあったのだ」
普段変わった人扱いのアスラではあるが、やはりその本質は紛うことなき騎士だった。そんな長いアスラの話を聞いてライズはアスラの肩に手を置き
「お前のそういうところ、俺は嫌いじゃないぞ」
そう言って穏やかな顔で彼女を慰めた。アスラはそんな彼の行動に顔を赤くして少しうつむく。
「すぐ、そうなるんだから……」
と呟くニコの声は誰の耳にも届かなかった。




