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英雄殺しの勇者  作者: 紀春


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ニコの二つ名と待ち焦がれた姿

申請用紙を持ってギルドへと向かったニコ。

ギルドに着くとさっそく受付へパーティ申請がしたいと書類を取り出した。

 

「えっ少年?冒険者登録?」

「違いますよ。パーティ申請をお願いします」


そう言って皆の名前を入れた申請用紙を彼女に渡した。

彼女は最初は胡散臭そうに用紙を受け取ったが、記入されている名前を見ると対応が変わった。


「ライズ、アスラ、ニコ、三人で半月(ハーフムーン)

「はい。その通りです」

「ライズってあの大盾よね?」

「ええ、その大盾です」

「パーティ組むの?ライズさんが?」


受付の人からすれば兄貴がパーティに入るなんてそれほど驚くようなことなのか。とニコは思った。

確かにニコやアスラと合うまでの大盾のライズは常に一人で酒を飲んでいた。そう言えばそうだったなと思い出す。


「ちなみにアスラというのは?」

「ええ、白銀の騎士です。僕はよく知りませんが有名なんですよね?」

「本当にそのアスラさんなの?あの?」

「ええ、その方であってますよ。たぶん」 


あの?と言われてもニコからすれば戦いになれば雰囲気の変わるちょっと(大分)変な人で、でもやっぱり騎士なんだなと思う。結局よくわからない人だった。


「それにニコってあなたよね?あなたも「影のニコ」だったりしないわよね?」

「ええ?誰ですかそんな人。別に僕にそんな二つ名なんかありませんから」


誰だよ。同じ名前で物騒な事やってる人は。兄貴たちが二つ名持ちだからって自分までそう思われるとは……そう思ってニコが別人のニコに八つ当たりをしていると。


「まあそうよね。去年の武術大会で優勝し、まるで影のように消えたと伝説の人。それに決勝戦までにかかった時間は僅か数分だったという話もあるけど、さすがにそんなわけないわよね?」

「……」

 

ニコは冷や汗を垂らしながら思い出す。

旅費を貯めるために出た武術大会にて、あまりの敵の弱さに戦闘開始直後に倒すこと10人ほど、さあ次こそは強い敵を。そう思った時には優勝していた。

 

ニコは参加者が弱い地方大会という認識だったため、旅費が稼げて良かった。その程度ですっかり記憶から消去していた。

しかし幾人もの英雄を輩出した歴史ある大会でそんな事をしたニコは本人が思う以上に有名になっていた。

多くの貴族や騎士団も目を光らせていたのだが、旅費以外に興味がなかったニコはすぐにその場を去ってしまっていた。


「あー……たぶんそれは僕のことですね」


そう言って苦笑いするしかなかった。そんな物騒な名前のニコは自分だったのかよ!と内心では自分自身へのツッコミが止まらない。


ニコの発言に開いた口がふさがらないとはまさにこの事と言わんばかりに口をあんぐりあけていた受付嬢はもう投げやりになっていた。

  

「大盾のライズに白銀のアスラに影のニコ。これに誰がケチつけんのよ!承認!承認!ギルマスの許可なんていらないわ勝手に取っといてあげるから」

「あ、ありがとうございます。」

 

無事パーティが結成できたことを素直に喜びたいが、それ以上に自分の二つ名が気になっていた。そのため受付嬢の

  

「パーティが承認されるといろんな義務と権利があります。なのできっちりお話しますからね。特にこのパーティは、好きにやらせたらいけないと私の感が囁いているわ!ですので良いですね?お時間をいただきす。こちらへどうぞ」


という発言の終盤しか聞き取れず。そのまま連行されることになった。

聞いてみると確かにパーティである事の恩恵やそれによる義務など重要な事が多く、聞いて良かったと思う。だがやはり時間はかなりかかってしまった。

とはいえ、そもそもこれってリーダーの役目じゃないか?とニコが気づいたのは話をすべて聞き終えたあとだった。 


少し時は戻り医務室に残された二人はというと。

 

「パーティ結成。と言ってもこの手じゃ剣どころか盾も握れない。せっかくだが初依頼はお預けだな」

「うむ。まあその怪我については私にも責任がある。だがそんな時は無理に剣も盾も握る必要はない。そうだろ?」


ライズの包帯の巻かれた両手を見て、一瞬だけ顔を歪めさせたアスラだったが、それならばと提案する。


「そうだなライズ。時に見た目というのはとても大事な事だと私は思う。違うか?」

「あ?まあそれはそうだが、それがどうしたんだ?」

  

アスラはライズの伸ばし放題生やし放題といった髪や髭を見ながら尋ねる。

 

「ライズ。今のお前を鏡で見て、私の今の言葉を思い出してほしい」

「なっ……!別にこれで俺はパフォーマンスが落ちるようなことはない、むしろこの方が歴戦の冒険者として貫禄があるだろ?」


ライズはそう言ってみるものの、アスラの目を見ておそらく納得はしていないだろうも思う。実際彼はこれまで死ぬためにしか生きてこなかった。そのため見た目など気にしていなかったというのが正解だ。

 

「これから私達はパーティになる。ニコも言っていたがお前がリーダーなんだ。リーダーがそんな毛むくじゃらの出で立ちではその仲間の我々はどう思われる?熊か何かだと思われるだろうが!」

「そんな大げさな」

「問答無用!」

 

そう言うとどこからか様々な道具を取り出したアスラがライズを鋭い眼光で睨んでいる。これには歴戦のライズも白旗を上げた。

 

「お、お手柔らかに…」

 

ライズはそう言うしかなかった。


「なあアスラ、さすがにこれは短すぎねぇか?」

 

涼しくなった首元をさすりながらライズはアスラの方を見る。

 

「さ、さすがは私だな。見違えた。格好良くなったな!ライズ」

 

と思わずこちらが恥ずかしくなるようなセリフを平気で言ってくる。

 

「な、お前そういう事を軽々しく言うじゃねーよ」

 

そう返すもライズは恥ずかしさからかアスラの方を見る事が出来なかった。

 

「いいだろう別に花を見て美しいと思う、料理を食べて美味しいと言う。素直に称賛することの何が悪い」

 

アスラはやはりと言うべきか正論が帰ってくる。

 

「そういうところがさー」

 

と思わず短くなった頭を掻いた。

しかし、彼もそんな真っ直ぐなアスラと話すこの時間が不思議と嫌に感じなかった。


ようやくギルドから抜け出す事ができたニコがヘロヘロになりながら歩いていた。ギルドに入った時にはまだ低かった日差しが既に隠れようとしている。

 

「全くなんでリーダーでもない僕がこんな目に」


と不貞腐れながらライズたちの元へ戻ってくると、ニコにとってとても懐かしい顔があった。

 

「よっ!」

 

そう言ってこちらをはにかみながら見てくるライズはニコと一緒にいつも剣を振り、最後には微笑んでくれていたライズがそのままそこにいた。

 

「お帰り。ライズ兄ちゃん!」


そう言って彼の胸に飛び込む。帰ってきたのはこっちだって?そんなことはどうでもいいんだ。兄貴が!ライズ兄ちゃんが!やっと会えたんだ!

そう思うとニコの目からはとめどない涙があふれてくる。

 

「おいおい、泣くほど変かよ」

 

そう言いながらも優しくニコを抱きとめるライズはとても柔らかい表情をしていた。


そんな感動的な再会を演出したアスラは

「さすがは私だな!」ととりあえず納得するのだった。

 



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