あの半月が僕らの名前だ
しばらく顔を見合わせた二人だったがそんな奇妙な状況に二人そろって破顔する。
かつて二人そろっていたずらをしていたあの頃のように無邪気に笑った。
本音をぶつけあったおかげか、多少心の距離が戻ったような気がした。ニコはそう思うととても嬉しかった。
それに、ライズがこうして声を上げて笑っている姿を見るのは本当に久しぶりだった。それこそあの日以降初めてかもしれない。
「ねえ兄貴。やっぱり兄貴はそういう感じの方が僕は好きだよ」
そう素直に口にすると
「はっ!言うようにになったじゃねーか。ニコ!」
そう言って先ほどとは違い和やかに距離が近づく。
こんな兄貴を見ることができているのは間違いなくアスラに出会ったおかげだ。このまま彼女がライズを闇から引っ張り上げてくれるかもしれない。
あの時見た月のように白銀が次第に闇を溶かし満月になっていく。そんな未来があるかもしれない。
そんな和やかな雰囲気を破る存在が喧しい音を立てて近づいてくる。おそらく走ってきたのだろう。汗で若干髪を肌に引っ付けながらアスラは満面の笑みで、持ってきたぞ!と一枚の紙をニコたちの前に見せつけてきた。
「パーティ申請書?」
ライズがめんどくさそうにアスラに言う。
「そうだ、貴公らは冒険者だ。共に過ごすのであればパーティを結成することが必要だろう?」
さも当然かのように彼女は言う。
「あの、でもアスラさんは騎士だからさパーティなんて組めるの?」
念のためニコは確認する。
「そうなのだ。そこが大変だった」
そう言って勝手に語りだした。
アスラが二人を置いて部屋を出ると、その足で冒険者ギルドに向かった。
場所は訓練場に行く際に知っていたので迷うことなく到着すると、真っ先にカウンターへと赴いた。
「どうされました?」
「パーティ申請がしたい」
「かしこまりました。こちらの用紙にご記入ください。ちなみにお姉さんの冒険者歴はどのくらいですか?」
問題なく手続きが進んでいる様子に満足しながら受付の問いに答える。
「ないぞ」
「ゑっ!?」
すると書類に目を落としていた受付は綺麗な二度見を披露する。
「あ、あのですねお姉さん!冒険者パーティを作るんですよね!遊びで来られては困ります。その腰の剣を見る限りただの旅人ではないと思いますが、そもそもあなたは誰なんですか?」
「王国騎士アスラだ」
「はい?」
受付は訝しげにアスラを見る。その時ようやくアスラは自身が鎧もつけずこの場に来ていることに気づいた。
今の彼女の格好は腰に一振りの剣が無ければただの街娘と言っても差し支えないだろう。
「そ、そうか、ではその冒険者になればパーティは組めるのだな?」
「ま、まあそれはそうなりますけど…」
「それならまずは登録をお願いしたい」
「はぁわかりました」
そのまま冒険者登録をする流れになり、登録が終わり自分の名が刻まれたプレートを見てアスラは興奮を抑えきれずにいた。
「これで!これでパーティを組めますね!」
「いや、あのパーティって誰でも組めるわけではありません。
一応審査というか基準がありまして、少なくともそれなりの実績が必要になります」
まだピカピカのプレートを握りしめてパーティ登録ができると意気込んでみたものの、誰でも組めるというわけではないらしい。
そこでふとライズの名前を出してみることにした。
「大盾のライズのようなか?」
「まあライズさんなら実績は十分ですね。ただ彼はパーティを持ちませんからね」
「なるほど承知した」
それを聞いたアスラは先ほど渡された用紙を持ってライズたちのもとへ戻ることにした。
彼女が帰ったあと受付は騎士のアスラって白銀か!と一人驚いていたが、先ほどの様子を見てさすがに名前が同じ別人だろうと思い直すことにした。
「という事があったわけだ。これで私も冒険者だぞ!」
そう言ってプレートをこちらに見せつけているアスラにライズは
「お前な、白銀のアスラって言えば一発だったんじゃねーか?それなりに名は通ってんだろ?」
「なるほど、確かにそう言われればそうだ。
だがあまり人前でそういうことを言いふらすようなものでもないだろ?」
「いや、お前散々白銀のアスラが!とか言ってたねーか!」
ライズがアスラの真似をして右腕を掲げる。
それを見たアスラが「貴様という奴は…」と言って詰め寄っていた。
なんだかんだ仲良くしている二人は置いといて、とニコは考える。
パーティ申請か。考えてすらいなかった。だが確かに悪くはない。実際、攻めのアスラ。守りのライズ。そして遊撃のニコ。
バランスとしては最高かもしれない。ニコは一人で冒険者をしていた関係で斥候紛いのことはできる。罠の解除などはお手の物だ。
意識を現実に戻すと、怒っているアスラをライズが宥めていた。
「ところでパーティ名はどうするの?」
そう言ってアスラを見る。
「白銀と二人の戦士」はどうだ?
(本気で考えてるのか?この人)
「駄目です。僕たちおまけじゃないですか!兄貴はどう?」
「めんどくせーから俺はパス!」
わかっていた。この二人が考えてくれるわけない。そんな時ニコはふと先ほど頭に浮かんだあの丁度陰陽の別れた半月を思い出す。
「半月っていうのはどう?」
アスラは目を輝かせて
「おお!半月か、かっこいいじゃないか!なあライズ」
「俺らにはちょっとかっこよすぎな気もするが、悪くねえな」
「それじゃあ僕たちのパーティ名は半月で決定です」
そう言ってニコは申請書類に記載していく。
必要な事項を書き終える。
「それじゃあ僕が出してくるよ。リーダーは兄貴にしときますからね」
そう言うと書類を持って部屋を出た。
また兄貴と一緒に冒険ができる。それがとても楽しみだった。




