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英雄殺しの勇者  作者: 紀春


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11/29

二人の罪は私が預かる

ニコが部屋の外で立ち尽くしているのを知ってか知らずか、パスタを食べ終えた二人はしばらく穏やかな時間を過ごしていた


「なあアスラ」


そうライズが呟く。


「お前に、殺人者の汚名を着せるところだった。あのとき俺は死にたいとそう思ってしまった」


そう言ってうつむくライズに、アスラも少し困惑しながら。

 

「貴公が盾を捨てたとき、刃を受け入れるように立ち尽くしたとき、貴公が私に殺されようとしているとわかった。だがな!」


ライズの目を見てはっきり言う。

 

「二度と!私にあのような真似をさせるな!私は人々を守るために剣を握った。あのよう何の罪もない男を殺すために握ってなどいない!」


ライズはその言葉に心を痛める。


「それにな…あの時の貴公の表情。あの後、貴公が強かったからよいものの、あのままいけば確実に死に顔だった。

まったく、私が二度と剣を握れなくなるところだったんだぞ!」


そう言ってアスラの熱が上がってきた。彼女は視線をあの「赤黒い剣」に向ける。


「それにだ!なんなんだあの赤黒く光るおぞましい剣は?貴公の本職は剣士なのか?

そして最後!私に剣を向けることなく鞘にしまったな。苦悶の表情を浮かべて。

私に、私に剣を向ける価値すらないと言うのか!全くかなわず!剣も向けられず!

私のプライドはへし折れるどころかどこかへ飛んで行ったじゃないか」

 

ライズが恐る恐る彼女を見ると、今度は苦笑いをしていた。おそらく自分があまりにも深刻そうな顔をして聞いているので彼女なりに気を使っているのかもしれない。とライズは思う。


「本当にすまなかった。だがこれだけは言わせてほしい。

君を殺人者にしなくてよかった。君から剣を奪わずに済んで良かった」


そう言って彼女をしっかりと見る。彼女は少し驚いたような顔をして、そっぽを向いた。

このまま話を終わらせてもよかった。


だが彼女にはしっかりと話をするべきだろう。そう思いライズは言葉を紡いでいく。


「アスラ。お前は俺を《《何の罪もない》》から斬りたくなかった。そう言ったよな?」

「な、どういうことだ?」


慌ててこちらを向くアスラはその言葉の真意を伺いしれていない。


「酒場でも少し言いかけたが、俺はあの時お前が俺を裁きにきた役人だと思っていた」


あの時は綺麗に話を流されてしまってたが今は違う。


「つ、つまり。貴公は裁かれるようなことを?」

「そう。俺はかつて………」


 そう言いかけた時突然扉が開いた。


「いやー今日もいい天気ですねー。兄貴。調子はどう?」


急に呑気な声がこの場に入ってくる。長らく部屋の外で聞き耳を立てていたが、ニコからしてもこの先に話を進めさせるわけにはいかなかった。


「おいニコ!今ライズの話が大事なところだったのだが?」


そうアスラが話を戻そうとするも、ニコは荷物をドスンと置くと二人の間に割って入った。


「アスラさん。その話を聞くには、まずは僕の罪について話を聞いてほしいかな?」


そう言ってニコは敢えて自分から罪の告白を行うという暴挙にでる。

ライズの主観で話が始まれば間違いない。この先は破滅だけだ。だから敢えて二人の空気を切り裂きに部屋に入ったのだ。

 

「ニコにも罪が?二人共罪がある?二人は同郷だとは聞いていたが、その村で何があったのだ?」


アスラもまさかの状況に混乱するが、まずは過去に何があったのかを知ろうとする。そう。過去を知ってから出ないとこの話はできない。あれは兄貴だけの罪じゃない。ニコはそう思っている。


だがそれはライズからすれば認められないことなのだろう。


「いや、違う。あれは俺の罪だ!」

「兄貴!ここは譲れない。あれは兄貴だけのせいじゃない!」

「そんなはずがないだろ!俺はこの手で!」

「違う、ただ兄貴はその役目をやらされただけで、僕たちだって!」

「関係ない!俺が止めを刺した。

お前だってそれが自分じゃなくて良かったと思ったはずだろ。なら俺だけの罪だ」

「またそうやって自分一人で背負い込もうとして!そんなんだから未だに剣をまともに握れないんだろ!」


売り言葉に買い言葉でつい、言ってしまった。

昨日兄貴が見せた苦悶の表情を思い出し自分の発言を後悔する。

その刹那ライズはニコに掴みかかろうとするも両手が使えない。それを見て逆にニコの方から掴みかかる。


「兄貴は昔から僕より先にいる!剣の腕だってそう。だけど!この話ばかりは僕も引けない。兄貴だけを罪人になんかしない。あの村の人は全員そう思っていた。それなのに…」


ニコは大粒の涙を流す。


「どうして兄貴だけ先に行こうとするんだ!昨日の!アスラさんとの試合だって死ぬ気だったでしょ!」


突然始まった喧嘩にアスラは驚き戸惑う。何やら壮絶な過去があることはわかるが、この状況では正確な情報など得ることはできない。


そう思い。アスラは掴み合いをしている彼らの少ししかない隙間めがけて剣を刺した。


「一度冷静になれ!」


その刃は、僅かでもズレれば彼らを串刺しにする角度で突き立っていた。

突然表れた死の恐怖に彼ら二人は距離を取る。


「貴公らに事情があることは理解した」


そう言って彼女は二人の男をそれぞれしっかりと見つめる。


「ここは一度私に預からせてくれ。貴公らの過去については一度不問とする」


二人はそれに対し何かを発することはない。

ただお互いをじっと見ていた。


「そこでだ、しばらく貴公らを私の監視下に置きたい。それでどうだ?」


彼らはアスラ見つめ、彼女が何がしたいのかを測りかねている。


「しばらく共に過ごしてみることにしよう。さすれば見えてくることもあるはずだ」


そう言って彼女は話が終わったとパンと一つ手を叩くとくるりと背を向け、そのまま部屋から出ていってしまった。


取り残された男二人は先ほどまでとは違う意味で向き合っていた。


「監視下だと?何を考えてんだ?」

「さあね。でもさ、アスラさんってやっぱりいい人。なんだろうね」


ニコは立ち去っていった彼女のことを思い、すごく変な人ではあるが、やはり騎士なんだな。とそう感じていた。

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