009-静かなる嵐の前に
あの時以来、彼の額にはひとつの傷跡が残った。
私はそれが裂けるのを見つめ、また癒えるのを見守った。まるでその傷が自分の身体に刻まれたかのように。
祖母は婚期を急かし、ついに結婚の日取りが決まろうとしていた。
渡辺家の方では、坂本家の態度が急に揺れ動き始めたのを感じ取った。私、渡辺の娘を軽んじているのだと、苛立ちを隠せなかった。返事は遅れ、外出も許されなくなった。
私は理光を恨んでいた。心の底から彼のことを思わなかった。普段は本を読んだり、部屋で静かに編み物をして過ごしていた。
すべては静かだったが、壁に掛かる洋時計の「カチカチ」という音が以前にも増して耳障りに響いた。
母が時折話した。中山川合が外で転んで腕を骨折し、病院で骨をつないだ後、慌ただしく大阪へ帰ったという話だった。
私は母に真相を言えなかった。理光の悪意が隠れていることを。町内で我が家の店を借りて絹織物を扱う店主に、大阪に行く際に中山川合の様子を聞いてもらうよう頼んだ。
お礼に菓子を用意した。寺町に住んでいた頃、中山川合はその絹織物店で力仕事もしていたので、店主は快く引き受けてくれた。
理光はやはり来た。
車は玄関に止まり、たくさんの贈り物を携えていた。まるで祭りのように華やかだった。
私は二階の部屋で扉に耳を寄せて声を聞いていたが、ぼんやりとしか聞き取れず、理光の低く沈んだ声だけがうっすらと響いた。
ふと、あの洋館で彼が私の上に覆いかぶさり、ゆっくりと息をついていたあの声を思い出した。
頭の中で「ドン」と音が響き、我に返ると自分の頬を叩きたくなった。心の中で自分を罵った――どうしてこんなに愚かなんだ。あんな彼にあれほどされておいて、もうとっくに彼を殺していなければならなかったのに。
怒りに心を制御できず、もう扉に耳を当てて隠れて聞くことをやめ、布団にもぐり込み、赤く腫れた目で涙を流した。
父は杖をつきながら半眼で周囲を見回し、理光に対して厳しい顔つきを崩さなかった。
母は理光の訪問を最大の誠意と受け止め、何度も父に目で合図を送った。
父がそれに気づかないはずがない。今の理光の傲慢さと気性を思えば、彼が不服なら、こちらが折れることなどありえない。
父は冷たく言った。
「美恵は女の子だ。大切に育ててはいるが、分別もわきまえている。無茶はしないはずだ。」
その言葉の裏には、今回は理光に非があるという意味が込められていた。
理光はうなずきながら答えた。
「はい。」
渡辺の老爺は厳かに言った。
「お前が自ら来た以上、渡辺家も信義を重んじ、約束を破るわけにはいかない。だが、二つ質問がある。答えよ。」
理光は答えた。
「どうぞ、お聞きください。隠し事はありません。」
老爺は杖の柄を握りしめ、ゆっくりと尋ねた。
「文を捨てて商に走ったが、どこを目指しているのか?」
理光はためらわずに言った。
「東京です。」
老爺は少し間を置いて、さらに訊いた。
「煙草の商売をするのか?」
「煙草以外は、何でもやります。」と彼は答えた。
「良い心意気だが、命を大事にしろ。東京に行っても美恵をしっかり守れ。もし夫婦の情がいつか途絶えることがあっても、私の面子を思って、彼女に苦労をかけるな。」
理光は厳かに誓った。
「肝に銘じます。」




