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第81話 彼を好きすぎる呪いの姫と、拗ねがちな雷神

星が――落ちた。


「……あぁ、もう」

ネクレオスが小さく呟く。

「やってもうた」

国が、音もなく死んでいく。

人々から、動物から、

全ての生きる者から魔力が根こそぎ奪され、

残った体が砂のように砕けてゆく。

砂と化した大地の中心で、焦げた羊皮紙が、ついに限界を迎える。

封じられていた頁が、静かに裂けた。

溢れ出したのは、白銀に冷えきった呪詛と、雷鳴を孕んだ漆黒の闇。

セラフィスの呪いと、ネクレオスの雷を抱く闇が、互いを反発させながら螺旋を描き、膨張する。

それは魔術ではない。

神力――かつて世界を砕くために切り出された、純粋な破壊の衝動だった。

ツィグナトの前で、空間が軋む。

地平が歪み、距離と方向の概念が溶けていく。

このまま解き放てば、国だけでは済まない。

波紋のように、世界そのものが引き裂かれる。

「……」

ツィグナトは、砂に埋もれかけた羊皮紙の束を拾い上げた。

掌に触れた瞬間、かつて自らが書き、封じた構造が鮮明に蘇る。

――これは、閉じるための書だ。

解くためのものではない。

「……ここまでだ」

低く、揺るぎない声が落ちる。

次の瞬間、彼は神力に手を差し入れた。

破壊へ向かう流れを押さえつけず、ただ進路を――ずらす。

白銀と漆黒が渦を巻く中心に、彼の意思が刻まれる。

「崩れるなら――世界から外れろ」

その言葉と同時に、国境線に沿って亀裂が走った。

見えない線が、見える形で引き裂かれる。

山脈が割れ、川が途切れ、

霹靂とともに、紫電が空を裂いてゆく。

国の輪郭そのものが、世界から切り離されていく。

亀裂の内側では、光が陰り、音が遠のく。

外側では、世界が踏みとどまり、崩壊を拒んだ。

災厄は閉じ込められ、

星は、それ以上落ちなかった。

白銀の少女は、その光景をしばし呆然と見つめ――

はっと我に返ると、両頬に勢いよく掌を当てた。

「……ちょ、超絶テクニシャン ……」

声が、完全に裏返る。

耳まで真っ赤に染まり、膝が震え――

「ナ、ナトは……ナトは……っ」

言葉が続かない。

腰が抜けたように、ぺたり、と地面にしゃがみ込む。

「ナトは世界一……ふ、ふしだらな男じゃ……!

 余の呪いを……あれほど……あれほど優雅に、

 しかも、あのように気品ある手つきで扱うなど……っ」

金の瞳が潤み、きらりと光る。

怒っている様子の彼女は、どこか誇らしげで、どうしようもなく照れている。

「……まったく……っ

 余の力が至高であるのは当然として……

 それを、あのように……あのように……っ」

言葉にならず、肩をすくめてぷるぷると震えた。

その隣で、ネクレオスは雷鳴の残滓を映す空から視線を落とす。

口元は引き結ばれ、瞳は深く暗い。

「……さすがに、これは」

低く、湿った声。

「いくらナトでもや。

 あそこまで自在に扱われるんは……

 オレの立つ瀬があらへんわ」

肩を落とし、ため息が一つ。

「雷を孕んだ闇やぞ?

 暴れてなんぼの神力を、あない器用に“道具扱い”て……

 それ、普通はもっと事故るやろ」

「……オレ、な」

続く声は、さらに沈む。

「オレ、わりと本気で機嫌悪い」

その会話の中心で、ツィグナトは砂と化した大地に視線を落とし、

崩れ落ちる写本の残骸を静かに見送っていた。

「当時は、出来なかっただけだ」

淡々とした声は、慰めでも、弁解でもない。

「制御できる構造を、初めから想定していなかった。

 それだけの話だ」

ネクレオスが、じとりと睨む。

「……それ、今言う?」

ツィグナトは肩をすくめもしない。

ただ、灰となった頁を風にさらしながら、続ける。

「お前の雷は狂暴だ。

 お前以外に制御できる者はいない。

 だが器が大きいからな、

 流れを整えてやれば――分かったうえで、応じることもある」

「……ナト、それ褒めとる?」

「事実だ」

ネクレオスは、しばし沈黙し、がくりと首を垂れた。

「はぁ……あかん。

 ナト、ほんま性格悪いわ」

その様子を見て、セラフィスがふふん、と胸を張る。

「――ほら、もう拗ねるでない、見苦しい」

「誰が拗ねとんねん……」

ネクレオスはぼそりと呟き、しかし否定は弱い。

ツィグナトの手の中で、写本は最後の塵を落とし、完全に消えた。

終章を迎えることなく。

彼はそれを見届けると、何事もなかったかのように踵を返す。

背後で、白銀の姫が上機嫌に笑い、

雷を宿す闇が、ため息をついた。

世界は、すでに次の瞬間へと進んでいた。

78話 ”暴神の軽い神罰タイム”をアップロードし忘れていたので修正しました。

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