第4話 グレゴリー様、まさかの進化!?先生って職人なんですか!!
歩きながら、小さく息を吐いて、あたしはあらためて辺りを見渡した。
今までにも、魔術遺物やら古代道具やらを探して、いろんな遺跡や封鎖区画を踏破してきたけど――
ここは、桁違いだ。
踏み込んじゃいけない場所だって、本能が騒いでる。
なのに今さらだけど……あたし、完全に迷子だ。
≪理想収斂の灯≫は、本来なら持ち主の理想に沿って進むべき道を照らしてくれる、ナビ型の魔術具。
でも、いまはもう反応しない。
あたしじゃ、今のシアを起動できないから。
道を示してくれるはずの光が消えたら……進むべき方向すら、もうわからない。
ほんとにこのまま、無事に帰れるの……?
怖い。
怖すぎて、足がすくみそうになる。
――だめだ。
帰り道のことなんて考え出したら、ほんとに歩けなくなる。
……気をそらそう。
何か別のことを考えなきゃ――。
ふと、さっきのことが頭に浮かんだ。
先生の、魔術具の起動速度――
……異常だった。
速さも威力も、まるで神話の中の話みたいで。
正直、あれが神話級の魔術具だって言われたら、あたしは即うなずく。
だって、あたしの|《紅蓮の牙》《グレゴリー》様じゃ、たぶん間に合わなかった。
あんなふうに、即時展開できない。
グレゴリー様……。
お願い、あたしを守って!
あなたしかいないの!
「炎の奔流、起動!」
ヴゥン……。
(……ちょっと遅い)
「炎槍!!」
ヴゥン……。
(……だめっ)
「貫け !火矢っ!!!」
ヴン……。
(もっと……早くっ!!)
ぶつぶつと呟くたびに、周囲に紅い魔術陣が現れ、
炎の槍を召喚しては、散っていく。
……決まらない!
これじゃ次も、間に合わない――!
そんなときだった。
前を歩いていた先生が、ぴたりと足を止めて、振り向いた。
「……起動が遅いな。貸してみろ、調律してやる」
「へ?」
何を言ってるんだろう、この人。
先生はあたしの右腕を掴んで、そのまま地面に座り込む――
「先生!?」
「ちょっ……、ダメ! グレゴリー様にさわらないでっ!!」
「やめてぇぇぇぇっ!!!」
叫んでる間に、あたしの大切な腕輪型魔術具――グレゴリー様は
テキパキと分解され、清掃され、
部品を二つ、三つ、取り替えられる。
そしてまた何事もなかったかのように組み立てられていった。
この人、どんなにあたしが腕を引っぱっても、ビクともしないの!
なんで―――――っっ!!!
「起動してみろ」
作業が終わった先生は、ようやくあたしのグレゴリー様を開放してくれた。
右腕には――何も変わらないように見えるグレゴリー様が、鈍く輝いていた。
いや、ちょっとだけ……紅玉が黒っぽくなってる……?
「……炎槍、起動」
しょうがないから、お付き合いのつもりでちょっとだけ唱えてみる。
……正直なんの期待もしてないけど。
ヴォン!
……は?
召喚された紅蓮の炎槍が、風を切って一瞬で顕現する。
しかも、前より太くて、燃え方が違う。
「貫け、炎槍っ!」
ヴォン!!
え、威力も上がってない!?
っていうか、音が違うんだけど!?
なにその低音、重み増してない!?!?
「燃えろ、グレゴリー様っっ!!!」
ヴォン!!!
三発目、明らかに火力が跳ね上がってる!
これは……これは――!
「ふおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!」
思わず叫んだ。
目が、勝手に、きらっきらになっていくのが自分でも分かる。
「すっごいすっごいすっごい!!! なにこれ、すっごい!!!」
跳ねる。回る。右手突き上げて、あたし、爆発寸前の喜び!
炎槍の輝きが、いつもよりまぶしく見えた。
グレゴリー様、あなた、本当に覚醒したのね……!
そしてその横で、何事もなかったかのように立っている先生を見て、あたしは思った。
(たぶん)
神話級の魔術具を使う先生は、
たぶん超すごい魔術具クリエイターだった。
……あれ?
魔術師じゃなかったの???