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第22話 それ、洗脳!  ブラックご主人様から従者を救え!?

エリセの右手が、崖の上に届く――寸前!

そこで、あたしは見てしまった。

あたしが掴もうとしてた岩のすぐそばを、しゃって走った黒い蛇。

うわっ、ムリ!! 

蛇ムリ!!!

心の叫びと同時に、あたしの手は反射的に岩から離れていた。

え、あっ……!

……やばい。

落ちる。

あたし、落ちる!!!

崖、登ってたの、今、真っ最中――

体が、岩から離れていく。

手も、岩に届かない。

どうしよう、どうしよう、って、そんなの間に合うわけ――

――死んだっ!?


\ あっぶな!? /

……次の瞬間、小さな手が、ガシッとあたしの腕を掴んでいた。

「うおっ!? えっ、えええ!? ありがとうっ!?」

「引き上げたるわ」

小さな手なのに、あたしの体はするすると軽々と持ち上げられていく。

(ど、どこにそんな筋力が……!?)

登りきったところにいたのは――

ふわふわの黒いくせ毛が風に揺れて、

ぱっちりとした大きな黒目がまるで夜空の星みたいにキラキラ輝いている。

小柄で柔らかな頬はほんのり桃色を帯びていて、まるで上質な絹のように滑らかな肌。

(推定15歳くらい……?)

品の良さがにじみ出ていて、

まるで小さな貴公子のような気品をまとっている。


「ねーちゃん、あんなとこで手ぇ離すとか、アホか?」

かわい……いや、口悪ッ!?

その口の悪さと愛くるしさのギャップ、どうなってんの!??

「いやいや、本当に助かったよ! 

ありがとう! 

君、すごく力持ちね!? 

びっくりした!

ねぇ、ここでなにしてたの? 

もしかして……親御さんと一緒?」

辺りをキョロキョロ見回すけど、ほんとに誰もいない。

「アホやな。

親と来るような場所ちゃうやろ。

それに、オレ子供ちゃうし」

「……えっ?」

「オレは、その……ご主人待ってたんや」

ご主人!? 

えっ主従関係!?

(見た目とちがいすぎるセリフ!)

なにそれ、召使い? 

貴族の使用人?

っていうか、子どもなのに!?

(まさか、この小さな子を奉公に出すとか……いや、それって完全に児童労働じゃ!?)

「君!、絶対にだまされてる!」

「へっ?」

少年が目をぱちくりさせたのをよそに、あたしは勝手に正義感を燃やしていた。

でも――見た目はどうあれ、あたしを助けてくれたのは確かだし……

「あ、えっと……あたしもね、ここで人を待ってるんだ!

一人で待つの不安だから……一緒にいてもいい?」

(主人だか何だか知らないけど、その人、あたしが絶対説教してやるからね!)

「……怖いんか?」

「あ……う、うん! 

だいぶ……怖かった……(ほんといろんな意味で)」

「……うーん……」

少年は腕を組んで、やけに真剣な顔で考えこみ始めた。

(え、こんなとこで倫理会議!?)

ふと対岸の崖に視線をやると、完全に崩壊。

(何あれ、隕石落ちた後?)

川に飛び込んだときの、先生の魔術が脳裏をよぎり、あたしは無意識に口元をひきつらせる。

「……まぁ、しゃあないな。

一緒におったるわ」

にかっと笑う少年。

(なんかもう、いろいろと追いつかない……!)

「ほんと!? 

よかった~……!」

「あ! 

あたし、エリセって言います!」

「オレは――深淵の静寂"ネクレオス”や」

「し、深淵!?」

「レオって呼んでええよ」

ニカッと笑う、レオ少年。

……ま、まぶしいっ……!!

(小さいのに何このカリスマ!!)

「レオ、よろしくねっっ!!」

あたしはレオくんの両手をガシッとつかみ、そのまま上下にブンブン!

「うおっ!? 

ちょっ、ねーちゃん、手、もげるっ!!」

「ごめんっ! 

でも、でもね、すっごく嬉しいのっ!

久しぶりに、人とこんなふうに話せて……なんかもう、感動が……っ!」

涙ぐむあたしに、レオくんは目をパチパチさせたあと――

ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、耳が赤くなった気がした。

……いや、気のせいか?

「でな、エリセ」

「ん?」

「お前、ずっとこの調子なんか?」

「えっ、どういう意味?」

「……いや、なんでもない」

(あかん、これ、ほんまに予想外や……話しかけ魔獣か、こいつ)

――それからしばらくの間、あたし達は岩の上に並んで座って、それぞれ待ち人を待つことにした。

「あのね、あたしが待ってる人、ちょっとだけ……

いや、すごく――、

うん、……絶望的に変わってるけど、とってもとっても頼りになるんだよ。

たぶんもうすぐ来ると思うんだけど……、

レオの主人って人はどんな人?」

「……め、めちゃくちゃ……」

「めちゃくちゃ?」

(ああ……あかん……それ聞いたらあかんやつや。

けど……誰かに聞いてほしかってん……!この数百年、積もりに積もった、オレの叫び……!)

「そ、……そ、その人な……

感情ってもんが抜け落ちとって……。

喜怒哀楽? 

何それ食えるん?みたいな顔して……

た、たまに笑ったら、隕石落ちてくるんや、ほんまの話!

めったに怒らんけどな……、

怒ったときは空間が凍る。

怒らなくても空間が凍る。

てか、あれは基本、空間が凍っとるんや。」

「えっ?」

「それに、命令がやばいんや……

この前もな、

『ついてろ』――

“何に?”とか“どうやって?”とか“どこまで?”とかないんや。

何も言わんと、泡立つ濁流のど真ん中にポンって

落とされて、

霧と、叫び声と、得体の知れん気配に囲まれて、

前も後ろもわからんようなとこやで?

ええ!?って思っとる間に、

あの人、視界から――ふっ、と消えとった……」

(ああっ!!言うてもたぁぁ!!!)

「ふーん……?」

エリセは首を傾げた。

自分では想像もつかない、どこか遠い“魔境”での話に聞こえたからだ。

「つまりな、もう……もうアレや……

感情の温度が絶対零度以下。

人間性は概念の墓場に置いてきた。

指一本動かさずに十里先の敵を燃やすし、

“……ほぉ”って言葉に“殺す”“封印”“記憶抹消”の全部が入っとる……

――究極生命体や……!」

「究極……!?」

「しかもな……優しさの解像度が終わっとるんや!

前にオレが“暑い”って言うたら“そうか”って、

……惑星全体に凍った隕石 ドカドカ落として、涼しくなっただろって……!」

「えぇぇっ!?」

「オレ、暑いなぁって話しかけただけやったのに、本人は“気温を下げろと言われたから”って……

ほんま、泣きたかったわ! 泣かへんけどな!!」

(……こいつアホそうやし、星が冷えて水ができて生命が生まれたって話、知らんよな?)

(――そう、これはアイツの最大のやらかし。

ただの顛末書が、後になって“創世記”なんて……。

たいそうな名前つけられとったけど!!)


レオは両膝にぎゅっとこぶしを置いて、俯き、肩をふるわせていた。

「……ねぇ、レオくんはその、ご主人って人とどういう関係なの?」

「うっ……そ、それは……まぁアレや……いや……理想の上司みたいな!!!」

(理想って言わなやばい空気になるタイプの上司や!!)

「理想……」

(おかしい……こんなブラック上司、聞いたことない……)

「……わかった」

「な、なに?」

「レオは貴族に拾われて、下僕として忠誠を誓わされてるのね」

「……いや、別に拾われてへん、

オレは……自分の意志で従っ…」

「それ洗脳だから!!」

「さっきからちょいちょい顔が固まってるけど、大丈夫?

緊張してるのかな?かわいいね~」

「か、か、かわいくないわっっ!!!」

←思わず自我漏れ

(ああぁあ!!!

地が出た! "深淵の静寂”ネクレオス様が!かわいい言われて動揺しとる!!)


エリセは何かを悟ったように小さくうなずいた。

(……これは――救わなきゃ……)

(レオの主人はとんでもない暴君に違いないわ!

あたしの恩人よ――、相手が貴族だったとしても、今の環境から絶対に助けてあげないと!

先生にも相談してみよう)

そして、会話の波が一段落ついたころ――

「……ねぇ、レオ」

「な、なんや!?」

「お腹すいてない?お団子食べる?

こんな場所だからさ、味はちょっと二の次なんだけどお腹は膨れるよ!」

「…………。」

(絶望)

エリセはリュックをおろして、いそいそと軽食の準備を始めた。

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