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第1話 《灯》を失う日、星を掴む夜

はじめましての方も、そうでない方も、こんばんは。

このページに来てくれて、ありがとうございます。

好きなものに真剣すぎて、

ちょっと空回りがちな少女≪ エリセ≫と、

不愛想で冷徹で、ドライで、無慈悲で…近寄りがたくて、

共感力ゼロな魔法使い≪先生≫の、

じれじれで、ちょっと不思議な関係を書いていきます。

恋愛ってちょっと不得意分野なのでなかなか距離縮まりません。

あれ?

迷走&模索しつつ、がんばります。

目標は書き続けること。

どうぞよろしくお願いします!

魔術が日常の一部になって、

もうずいぶん経つ。


魔力を計って、変換して、研究して――

それが仕事になる時代。


あたしの世界は、

そんな理論と技術でできている。


あたしの名前は、エリセ。


恋愛にむいてない女、とは思ってる。


愛して、尽くして、それでも足りなくて――


気づけばいつも、

相手の方が先に疲れていく。


今日もまた、恋人に逃げられた。


たぶん。


もう何人目かなんて、数えていない。


カウントしたら、

きっと立っていられない。


……だって、あたしの愛は

いつも「重すぎる」んだって。


そんなあたしのそばにいてくれたのが、


ランタン》だった。


見た目は小さくて、古びたランタン。

けれどそれは、特別な魔術具だった。


――願いをひとつに絞り、進むべき道を灯してくれる。


未開の遺跡でも、

霧の森でも、

迷わず導いてくれる。


それだけでも十分すごいのに……


あたしが泣けば、ひかえめに灯る。


不安になれば、優しく瞬く。


まるで、

心の奥を覗き込んでいるみたいに。


いつの間にか、あたしは

この《ランタン》に名前をつけていた。


「シア」


幸せの“シア”。


それからはずっと一緒だった。


寂しい夜も、

遺跡の暗闇も、

心が壊れそうな日も。


あたしの“相棒”は、

いつも手の中にあった。


……気づけば、

手放すことが怖くなっていた。


恋人のことを

“相棒”だと信じていた頃もあった。


でも、本当に寄り添ってくれたのは――


この小さな光だけだった。


――あの日の研究室を、今も忘れられない。


魔術炉の光がちらちらと揺れて、

壁には術式の紋章が浮かんでいた。


青白い光が彼の頬を照らし、

冷えた空気には金属の匂いが滲んでいた。


魔術と機械が共存するこの時代では、

どの研究室もこんな匂いがする。


魔力の残渣が空気を焦がす、

魔術師の街の匂いだ。


「レジット、差し入れ持ってきたよ」


エリセは紙包みを差し出した。


冷めないように丁寧に包んだスープ。


けれど彼は手を止めなかった。


ちらりと見ると——


まるでゴミを捨てるみたいに、

あたしの差し入れを捨てた。


「……え?」


何が起きたのか、理解できない。


包みがごとん、と底に当たる音が

やけに大きく響いた。


レジットはため息をつき、

眉ひとつ動かさずに言った。


「お前、まだそんなことしてんのか。

 世話焼いてる自分に酔ってるだけだろ」


エリセはかすかに震える声で、

「違う……」と呟く。


でも彼は聞いていない。


「笑ってる顔を見るだけで、吐き気がする。」


「お前さ、俺が避けてたの気づいてないだろ?」


「えっ……?」


「お前といるのが限界だったんだ」


乾いた声だった。


まるで何かの公式を確認するみたいに、

淡々としていた。


「最初は助かったよ。雑事も、手伝いも、

 誰より丁寧だった。

 でもな、エリセ。

 お前の“好意”は、束縛にしか思えなかったよ。

 お前が来るからこうしなきゃ、

 お前があぁするから、こうしなきゃ

 ……うんざりだ」


「そんなつもりじゃ――」


「わかってる。でも、窒息しそうだ。」


息が詰まる。


レジットは視線を逸らさず、

ただ冷たく告げた。


「解放してくれよ、俺の世界にお前は必要ない」


「……そんな言い方、ないよ」


「じゃあどう言えばわかる?

 俺は、お前が嫌いなんだ」


レジットの声は、

驚くほど淡々としていた。


「俺は、お前を愛してたことなんて、一度もない」


時間が止まった。


「お前は、俺の研究の“副産物”みたいなもんだ。

 近くにいて、俺を神みたいに見てくれて、

 ……気分はよかったけどな。

 でも、もう十分だ。もう、お前はいらない」


「じゃあ……私がいなくなっても、平気なの?」


レジットは一瞬だけ間を置いて、

そして言った。


「……助かるな」


その一言が、

世界を終わらせた。


扉が閉まり、

心が割れる音だけがはっきり響いた。


ゴミ箱の中で包みが少し傾き、

冷えたスープが滲み出す。


――あの日の匂いは、今も消えてくれない。



気づけば、ランタンの光が滲んでいた。


あたしの頬を照らす光が、

涙の粒に反射して歪む。


「……思い出したくなかったのに」


囁いた声に反応するように、

シアが一度だけぱちりと明滅した。


……慰めるみたいに。


「もう、いいよ」


あたしは小さく息を吐いて、

手のひらで光を包んだ。


――その時、空気の温度がわずかに変わった。


霧がゆっくり動き、

足元から静かに“別の気配”が入り込んでくる。


風でも、魔力でもない。


ただ、世界そのものが

呼吸を止めたみたいだった。


次の瞬間――


目の前に、男が立っていた。


見渡す限り、薄い霧のたなびく静かな風景。


その中で男は無言のまま、

あたしの《ランタン》に手を伸ばし——


まるで当然のように、


それを奪い取った。


(……え!?)


「か……、返して!

 その《ランタン》は、あたしの!」


叫ぶと、男がゆっくり顔を上げた。


最初、別れた恋人——レジットに見えた。


でも、見つめるほどに輪郭がぼやけて、

よく分からなくなる。


霧が、人の形を借りているみたいだった。


男が《ランタン》に触れた瞬間、

シアは沈黙した。


まるで、あたしのことなんて

忘れたみたいに――。


男は冷たい声で言った。


「魔術具に依存するな。

 魔力の代わりに情を取り込んだ器は、

 いずれ“呪具”に堕ちる」


「……は?

 そんな話、一度も聞いたことないけど?

 そんなことより早く返して、ソレ!!」


抗議を無視して、男は淡々と続けた。


「この魔術具は道を示すために在る。

 だが今――君の“欲しい像”を映している」


そして、こちらを見た。


深く落ちる視線。


口元に酷薄な笑みが浮かぶ。


「オレが誰に見えている?」


「……レジッ、……ト?」


男は、笑った。


「魔術具が欲するものさえ間違える君だ。

 他でも同じ過ちを繰り返したことは?」


淡々と、残酷に。


「人は、欲したものを与えてくれた者に

 心を開く傾向がある。

 だが――

 “レジット”とやらは、君に心を開いたか?」


胸に刃を突き立てられたようだった。


声が出ない。


息ができない。


……だって、“レジット”は、あたしを捨てたから。


その時。


彼の掌の上で、

奪われた《シア》がかすかに震えた。


――その震えは、

あたしが知っているものではなかった。


柔らかく、甘やかで、恍惚に満ちた震え。


まるで、ずっと待ち続けた誰かに

巡り会えたことを喜ぶように。


胸の奥が凍りつく。


世界が一瞬止まり、

景色から色が抜け落ちるようだった。


“相棒”だと思っていた存在――シア――が、

あたしじゃない誰かに微笑む。


――その事実を理解した瞬間、

足元の地面が崩れ落ちるような感覚に襲われた。


花びらが舞う。


ベゴニア、スノードロップ。


再会と恋を象徴する花々――

シア》が、喜びを隠しきれずに吐き出した感情の残滓。


風に乗って彼の肩を撫で、

足元に落ち、儚く空気に溶けていく。


その光景は美しいはずなのに、

あたしにはただ、痛みとして刺さる。


声が出ない。


手を伸ばしても届かない。


あたしの“相棒”は、

もうあたしのものではない。


――『彼』のものだ。


男は余計な言葉を添えず、

掌を《シア》の側面に滑らせた。


ランタンに刻まれた古びた刻印が

かすかに光る。


光が示すのは――


この人こそが《シア》の『製作者』だという証明。


本来の、主人。


理解するしかない。


あたしの手にあった“相棒”は、

あたしを選ばなかった。


次の瞬間。


シア》が吐き出していた恋の幻影は、

男の指先ひとつで不要な魔力として切り捨てられた。


花びらは音もなく霧散する。


そこに躊躇はない。


感情を慈しむでも、拒むでもなく――


ただ、邪魔なものを消しただけ。


震える声が喉から押し出される。


「なんで……《シア》も、他の人を、選ぶの……?」


胸の奥で何かがぎゅっと締めつけられる。


息が詰まって、

足元まで力が抜ける。


――知りたかった。


なんでいつも、あたしは選ばれないのか。


なぜ、あたしだけがすり抜けていくのか。


必死に、震える手で男の腕に触れようとして、

声を振り絞る。


「ねえ……お願い、教えてよ!

 魔術でも理論でもいい……何を差し出せば、

 振られないの?

 恋人に逃げられない方法、

 ……教えて……ください!」

涙がぽろぽろ頬を伝う。


言葉のひとつひとつに、

これまでの孤独と絶望が染み込んでいた。


――お願い、どうか、答えて……。


男はしばらく黙って、

あたしを見つめていた。


静かなまま、

やがてぽつりと一言だけ。


「……は?」


その目が、告げていた。


――何を言い出すんだ、こいつは、と。


「あ、でも出来れば魔術で……

 いや、なんでもいいから理論でお願い。

 そのほうが、わかりやすい、から……!」


言いかけて、言葉が詰まる。


……だって、本当はわかってる。


これは魔術なんかじゃない。


でも、どうしても知りたい。


「……ちゃんとした愛し方、覚えたい。

 大丈夫。

 教えてくれなくても、見て覚えるから……!」


その声は、もう震えていなかった。


この人のことは、何も知らない。


名前も、素性も、何一つ。


知らない誰かに踏み込むのは、ほんとは怖い。


それでも――


あたしの《シア》が選んだ人なら——


きっと、間違いじゃない。


恋愛には向いてない。


それはもう、痛いほどわかってる。


でも――恋人とかじゃなくて。


相棒とか、同行者とか、そんな名前の関係なら。


あたしにも、ちゃんと築けるかもしれない。


そう思った瞬間、気づけばあたしは、

シア》と、この人と――


わけのわからない旅を選んでいた。


だって、もう失くすものはない。


壊れかけた《シア》を、

壊さずに見てあげられる誰かになりたい。


ずっと愛してもらえる誰かに、

あたしもなれたら。


シア》はもう、あたしを見てはいないけれど、

彼が言ったことを理解して

シア》を取り戻したい。


――この日、あたしは気づかぬまま、星の祝福を掴んでいた。


けれどそのことを知るのは、

ずっとずっと先のこと。

読んでくださり、本当にありがとうございます。

まだまだ旅は始まったばかりですが、

どうかお付き合いいただけたら嬉しいです。

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