第2話:「介抱と闘争」
〜前回のあらすじ〜
記憶の無い少年が1人。
薄明かりの街灯の下、雨に打たれて歩いている。
朦朧とする意識の中で数名の男と出会う。
その中の1人、身の丈2mはあろう大男に言われた。
『ついてこい。』と…
少年は気を失い…一体どうなったのか……?
ー主人公の視点ー
目を覚ますと、白い天井が見えた。
小鳥のさえずりや
風の音すら聞こえない、全くの無音。
状況を飲み込めずに
慌てて上半身を起こした。
…その瞬間、激しい痛みが
身体中を襲い悶絶した。
たまらず声が出た。
痛みを誤魔化そうとして
身体中に力が入る。
…落ち着いて目を開けると
自分の手は、包帯に包まれていた。
…いや、手だけではない。
腕も体も、恐らくは
布団の中に入っていて
見えていない下半身にも
包帯が巻かれている。
俺の頭には、様々な感情が飛び交った。
丁寧な手当、一体誰が?なんの為に?
時間にして数瞬だが
かなりの時間を考えていた様な気がする。
???
「起きた?」
驚いて声のする方を見た。
「…っ!!」
相も変わらず、急に体を動かすと痛みが走る。
カーテン越しで
声の主の姿は分からなかった。
けど…女……?
女の声がした。
コツコツと足音がする。
ハイヒールを履いているのだろうか?
先程話しかけてきた女が
こちらに向かってきている。
ーバサッ!ー
女は勢い良く、白いカーテンを開けた。
普段なら警戒して
威嚇でもしているだろう。
しかし、俺はただ黙って
カーテンを開けた女を見ていた。
体の痛みのせいだろうか?
いや、多分怪我をしてなくても
攻撃の意思は示さなかったと思う。
花の様な良い香りだ。
優しそうな顔をしている。
そして何より、自分の本能が言っている。
『治療をしたのはこの人だ』と。
聞くことは沢山あったと思う。
貴方は誰で…何の目的で治療をしたのか。
ここは何処なのか。
そして、あの大男と繋がりがあるのか。
しかし、それも一瞬だった。
カーテンに手をかけたまま
沈黙を破ったのは女の方だった。
???
「君の治療大変だったよ。
傷と泥だらけだったからさ。」
投げ掛ける質問を探すより…
今、自分がこの命の恩人に
伝えなければいけない言葉は、恐らくこれだろう。
「……ありがとう。」
???
「うん!どういたしまして」
女は満面の笑みで答えた。
近くにあった丸椅子に腰掛けながら
続けて女は落ち着きの払った声で質問してきた。
ユウカ
「私、ユウカって言うの。貴方は?」
「……わかんねぇ…」
ユウカ
「わかんねぇ…って?」
「なんもわかんねぇ…
俺が誰かも、名前も…」
ユウカ
「名前も…?君は、一体何なの?
ギアも何も教えてくんないし…」
「…ギア? 」
ユウカ
「え?知り合いじゃないの?
ギアが連れてきたから、てっきり…」
何かを言おうとした女の言葉を遮って
俺はベットから身を乗り出して聞いた。
「そうだ!あのおっさん!!
どこにいるんだ!?」
ユウカ
「ちょ、落ち着きなよ!
ギアに会いたいんだね…?」
「あぁ、あの大男だろ?
俺をここに連れてきたのは…」
女は少し考えていた。
ユウカ
「…もし私が『嫌だ』って言ったら?」
その言い方…
やっぱりこの人は知っている。
断られたら…困る。
かといって、下手に出すぎて
舐められるのも癪だ。
緊張感が走る。
少しの沈黙の後
俺が出した答えは…
「知ってんなら会わせてくれ。
知らなかったら他を当たる。」
俺が答えると
女は何故か驚いた顔をした。
ユウカ
「…すっごーい!! 顔だけじゃなくて
その言い方も"あの人"そっくり!」
俺は唖然とした。
"あの人"が誰かは分からないが
先程までの深刻な雰囲気が嘘のようだ。
ユウカ
「いいよ。ギアのとこまで案内してあげる」
「ほ、ほんとか!?」
ユウカ
「えぇ。自分で歩ける?」
俺はベッドから飛び降りた。
体の痛みなんて気にしない。
あの大男に会える。
いや、会うしかない。
右も左も分からず
自分が誰かも、やる事すらない。
そんな自分をここに
連れてきた理由を聞ける。
そしてあの夜…光?
がどうとか言ってたな。
よくわからないけど行くしかない。
女について行くと
部屋の隅に案内された。
俺が呆然としていると
こちらを振り返って言った。
ユウカ
「はい、ここの上に乗って。
ギアの所と繋がってるわ」
「ここって、この丸の上か?」
ユウカ
「そ、すぐに会えるわ。」
この上に乗る…?
部屋の隅に、マンホールの様な
大きさの円盤があった。
半信半疑のまま
円盤の上に乗った。
「ありがとう。えっと…名前」
ユウカ
「ユウカね?」
「あぁ、ユウカ。ありがとう。」
ユウカは手を振って見送ってくれた。
こっちも手を振り返そうとした。
ーその瞬間ー
視界が急に暗くなった。
何が起きたか分からなくなった。
そしてまたシーンが切り替わるように
今度は大きな部屋についた。
まるで城内の様な…
中央には大きな椅子と
それに負けないくらいの
大きな男が座っている。
大きい男...?
間違いない、あの夜の大男だ。
俺は警戒しながらも
大男の方へと歩み寄った。
男は俺が見えても動揺せず
寧ろ、『待っていた』と言わんばかりの
傲慢な態度で俺を見下ろしていた。
...座っているのに
俺より大きく感じる。
身体が大きいからか...
何も話さない威圧感か...
それとも、この男の
"人としてのプレッシャー"か。
一歩進む毎に
大きさが増しいている。
そんな気さえした。
…遂に男の目の前に来た。
目を合わせる。
あの夜と同じ、光輝く白い目だ。
変な汗が出てくる。
緊迫感...静寂を破る事への恐怖。
意を決して、俺は大男に
話しかけようとした。
...すると。
大男
「...よく来た。」
何と、静寂を破ったのは
大男の方だった。
俺が面食らっていると
男は続けて話した。
ギア
「我が名はギア。
この国の"王"である。貴様は?」
男は自身の名を名乗った。
俺にも名乗れってか?
...けど、記憶が無い。
分からないんだから
正直に言うしかない。
「...分からねぇ。
名前も、俺が誰かも。」
俺が話し終わった後の沈黙が
やけに長く感じる...
ギア
「だろうな。」
「え?」
ギア
「知らなくて当然だろう。」
知らなくて当然?どうゆう意味だ?
まさか、俺のなにかを知ってんのか!?
「ちょっと待ってくれ。
何か知ってんのか?」
ギア
「...此処に来る者は
皆、記憶が無い。」
皆って...俺以外にも
記憶が無い奴が居る?
駄目だ、話が掴めない...
「難しい事はいいからさ。
教えてくれよ、俺が何なのか。」
全くの赤の他人。
そんな奴に、自分の事を問う。
どうかしてると思うが
聞かなければ何も分からないのも事実だ。
男は俺の問に、暫く黙り込んでいた。
何か考え事か?
俺は一体どうしたら…
ギア
「ときに…闘いは好きか?」
「…え??」
唐突で予想外な質問に
俺は頭が混乱した。
この男はなんと言った?
『闘いは好きか?』だって?
ギア
「闘いは好きか?」
…やっぱり言ってる。
闘いってどうゆう闘いだ?
争い?喧嘩か?
格闘技とか、そんなやつ?
好きかどうかって
俺に記憶はない…
けど『闘い』や『闘争』って言葉は
何故か俺の中で
"特別な物"である気がした。
これに惹かれる。
何故か、ドキッとする。
最早、運命に近いものであると。
その問いに対して
俺は、静かに素直に頷いた。
俺の反応を見て
大男は、その堅い表情を崩し
ニッと微笑んだ。
…かと思うと、今度は
大きな声で、文字通り
腹の底から笑っていた。
その表情は不気味で
意味深なものだった。
大男は、ひとしきり笑った後
俺に言った。
ギア
「さて、お前の今後だったな。
付いてこい、世話をしてやる。」
そう言うと、大男は重たい腰を上げ
前へと歩き出した。
男が1歩、歩く度に
地震が起きそうな程の圧力だ。
気圧されている場合じゃない。
何も分からないから
今は、この男を頼るしかない。
男の行先は、俺が来た
マンホールの様な円盤だった。
ギア
「これは"移動盤"と言ってな。
"願う事"で、行きたい場所へと
瞬間移動する事ができる。」
瞬間移動って…
でも、現に俺は
この円盤でこの部屋に来た。
ここはそういう世界なのだろう。
…不思議な事が起こる世界。
近未来か?
未来って…俺の記憶がある時は?
ダメだ、思い出そうとしても
全然分からない。頭が痛い。
ギア
「何をしている、早く乗れ。」
男が俺に言う。
俺は急いで"移動盤"に乗った。
次の瞬間、景色が切り替わり
俺とおっさんは"ある場所"へと辿り着いた。
〜あとがき〜
ここまでのご愛読、有難うございます!
私の作品は、他の方と"書き方"が違うのは
重々承知しています。
そして、この作品は"小説では無い"と言われても
文句の言えない、酷い書き方です。
しかし、私はこの作品を愛しています。
心の底から、いつか日の目を見るのを待っています。