幼馴染
「夏夜ちゃんおはよ〜、まぁ、もう昼休みだけど」
「おはようございます、宇佐美さん…」
反射的に挨拶を返す。あれから結局、頭の中が手紙のことでいっぱいで寝ることができなかった。
「あれ、夏夜ちゃん寝不足?いつもよりビジュわる〜」
(う…図星だ…)
宇佐美さんは私の顔を覗き込む。心配、してくれてるのだろうか…?手紙のことを誰かに話すことができたらいいのだけれど。机に伏しながら考える。いっそのこともう、宇佐美さんに話してしまおうか。
「あの、宇佐美さ…」
頭を上げ、そう言いかけたとき、
「ねぇ、夏夜ちゃん。もしかして、あの"藤 暁斗"と知り合いなの?」
「え、なんで…?」
急なことに少しびっくりした。ふと、周りを見ると皆が私を見ていることに気がつく。
「えっと…」
返事に戸惑っていると、宇佐美さんが言う。
「だって、呼んでるから。夏夜ちゃんのこと。」
彼女は教室の出入り口を指さす。そこにはあの"藤 暁斗"がいた。
(あっ…)
目が合ってしまった。彼も私に気づいて、私に向かってくる。彼の周りから人がはけ、自然と私の席までの道ができる。
彼は私の幼馴染だ。幼い頃からの明るい髪色と左耳に開けているピアスが特徴的だ。私も幼い頃から周りよりも髪色が明るく、茶色よりだった。母同士も元々仲が良く、共通点も多いことから彼とは家族ぐるみで仲がよかった。
作業着姿ということは先ほどまで実習だったのだろう。私の通う高校は普通科と工業科がある。
棟が分かれていて、普段彼に会うことはあまりない。しかし、彼の名前は普通科棟までにも広まっている。理由は一つ。不良と噂されているからだ。周りの人とは違う髪色と、左耳のピアスが校則違反だと先生方に目をつけられている。ピアスが校則違反なのは事実だが、髪色は違うことを私は知っていた。そして、私も髪色が明るい方だが目をつけられていないことも先生方の態度からすぐに分かった。違いはきっと、『男子と女子』という点なのだろう。
高校では接点も減り、噂もあったことで彼と話す機会は自然となくなった。
(なんで…)
教室は静まりかえっていた。私たちに視線が集まる。沈黙を先に破ったのは、暁斗だった。
「…。なぁ、勝手に来てなんだけど場所変えようぜ。みんなの昼休み邪魔するのも悪いしさ、な?」
「…。分かった。」
皆の表情が曇っているのが分かる。私のことを心配しているのか、もしくは自分の身を案じているのか。その気持ちは分からなくもない。
(あの噂、内容が内容だもんね…)
彼についての噂は「ガラの悪い先輩と絡んでいる」というものだ。
(ていうか、この学校は噂多すぎるんだよね…)
「お邪魔しました〜」
「ちょ、ちょっと待って…!」
重い腰を上げ、明るく挨拶をする彼に続いて教室を出た。