化け狐と男
「お主、名はなんと申す-」
春から大学に通い始めた男はある日、運命的な出会いをするのだった。
これといった趣味もない、強いて言えば実家が小さな神社だったので、小さい頃から神社やお寺がなんとなく好きだった。頭もよくもないし悪くもない、将来やりたいことも、なりたい仕事もなく、将来に絶望してる訳では無いが、希望もない。そんなごくごく普通の大学生。
男はある日、境内の掃き掃除をしていると狐が1匹怪我をしていた。なんとなく可哀想になり怪我をしている左足の治療をしようとそっと狐に近づいた。警戒されながら左足の治療を終えると、狐は不思議そうな顔でこちらを見て、物言いたげな顔で森の中へ消えていった。男は消えていく狐を見ながら「良かった」と胸をなでおろし何事も無かったかのように掃き掃除に戻った。
狐を助けたことなんて忘れた数日後。男がまた掃き掃除をしようと神社に訪れると、本殿の賽銭箱の前に巫女服を着た女性が1人たっていた。色白でスラリとした体型。太陽に照らされキラキラと輝く長いオレンジ色のような濃い金髪。
「え...?」
頭には大きな狐耳に腰には立派なしっぽ。
男は驚き、不思議そうに女性に声をかけた。
「あのぉ...」
女性が振り返ると、後ろ姿からも分かる綺麗な容姿に男は先程の驚きが吹き飛ぶような感覚を覚えた。
「見つけた。」
男が見惚れていると狐耳の女性が呟いた。
「お主、名をなんと申す-」