等級②
続きです
等級試験会場はこんな辺境の地ではなく、船を3本乗り継いで行けるそこそこ大きめの都市である。商会の本拠地がある場所である。前一度、2年の頃に夏休みに友達と観光に来たが相変わらず凄い都市である。中央に聳え立つは昔人間対魔族の戦いで防衛の要となった摩天楼、現在は改装に改装を重ね、煌びやかな見た目となっているが、資料館で見た見た目はまさに誇張し過ぎた側防塔という感じの武骨な軍事施設という雰囲気であった。そのあまりの変わりように友達と失笑したのを覚えている。そしてその摩天楼を中心とし、同心円状に展開する街並み。摩天楼に近付くほど建物の上背は高くなる。そして離れれば離れるほど小さくなるので、結果的に山のように見える。これまた中央が高すぎて山じゃねーだと、と友達と笑い合った。
俗な都市だが、その節々からはガチガチの軍事都市の面影を覗かせている。具体的には、中央はまさに観光としたが、その外円は未だに軍事施設が中心となっている。そして、その並びに試験会場の建物はある。
試験会場には人が20人ほどいた。確か第八会場らしい。地図を見た限り、第十九会場まであるとのことだ。その後、人が何人増えるか見ていたが、結果的には僕が最後だったらしい。つまりこの試験は400人弱受けているのか。そんな事をのほほんと考えていると、監督らしき人が入ってきた。
「おはようございます、本日は商会等級2級昇格試験です。ここは第八会場ですが、受験票に書いてある受験会場は第八で間違いないですか?間違っていたら、はい、不合格です」
失笑が起る。嫌なジョークだ。
「はい、今日は第一試験、対人試験でございます。第八会場では以下の3つから選べます。一つ目、対ゴーレム模擬戦闘、二つ目、対試験官模擬戦闘、三つ目、対人口魔獣模擬戦闘、お好きなのをお選びください。細かいルールはこれからお配りする紙に記してあります。お決まりになりましたら、紙の指示に従ってください。細かい事は紙で確認してください」
そう言うと、試験官はパラパラと紙を配り始めた。軽く会釈をして紙を受け取る。
対ゴーレム模擬戦闘、等級Gクラスのゴーレム4体を180秒以内に倒す。分からない、Gクラスって何だっけ。対試験官模擬戦闘、1級相当の試験官が満足するまで戦う。ヤバそう、これは正味選びたくない。対人口魔獣模擬戦闘、悪くはなさそうだが種類が明記されていない。スライムとか来たらサレンダー一択になってしまう。という事で消去法的に一つ目のゴーレムである。
紙に書いてある事を参照すると、選んだ試験に応じた折り方でこの紙を折る、そして指定された手順で破る。そうすると試験が始まるらしい。従う。まず、縦に半分で折る、そして三角を作るように折り、そして三角形の一番大きい角をつまみ、そこから一気に破く。
体がふわっと浮く感覚を覚えた。そして気付いた時は薄暗い石室に飛ばされていた。そこには試験官と思わしき人がいた。
「ゴーレム、で間違いないですか?」
「は、はい」
「ではお名前をどうぞ」
「テイア・アコニです」
「承りました。では試験時間は180秒です」
そうすると、目の前の石の壁が一部崩れ落ち、そしてそれが再形成されゴーレムとなった。サイズ、20mくらいか。思い出した1mが最低サイズで、そっから一つ上がるたびに3mずつ多くなるんだ。だからGは19mか。にしてもまずいな、あのサイズのゴーレムの場合、多分2回魔術で吹き飛ばしたらその時点で魔力は枯渇する。そして、現在パーツごとに破壊する事は出来ない。遠隔でそう言った細かい調整は出来ない。
ならば基礎に倣い、ゴーレムを倒すしかない。
先手はゴーレムが打った。あの図体の割に異常に素早い。石の拳が僕が少し前までいた地面を穿つ。ひえー、あれに当たったら死ぬ。規約見た限り、寸前で止めてくれるとのことだがそれでも怖い物は怖い。
身体強化魔法を強めにかける。ゴーレムの対処法は甚くシンプルである。コアを破壊する事である。あれだけ大きいゴーレムだとコアの持つエネルギーも大きい。ほら、胸の辺りが赤く光っている。だからあそこを叩けばいいのである。ゴーレムの二撃目が繰り出される。それを避けて、ゴーレムの足元へと駆け寄る。
さっき、紙を破く前に使うだろうと思い装備してきた昨日買ったばかりの籠手、魔力を流すと強度が上がるらしい、殴る分には使い勝手が良い。腰に力を入れ、思い切りゴーレムの足に拳を叩きこむ。ああかったい。余りにも硬い。しかし、抉れてはいる。ダメージは入っている。ゴーレムは僕を振り払うように足を思い切り上げた。もう一度、防戦に回る。
ゴーレムの徒手空拳を避けながら、もう一度先ほど抉った方の足に思い切り拳を打ち込む。二回目の拳で完全にゴーレムの足首は破壊された。そしてゴーレムはそのまま体制を崩し、大きな砂埃を巻き上げながら地面に倒れた。これには流石の石の鉄人とは言え動きが止まる。そしてその隙に思い切り3度目の拳をコアの部分に叩きこむ。その瞬間、ゴーレムはガラガラと音を立てて崩壊していった。タイマーを見る。55秒経過、ペースが遅い。が、これで倒せると分かったのなら残りは作業である。
先ほど破壊したコアがもう一度光を取り戻し、宙に浮きそれを中心としてゴーレムが形成されていく。先ほどと同じ手順を繰り返せばよい。足に2撃入れ、転ばせる。そして転んだらその胸に思い切り拳を叩きこむ。同じ所作である。これを3度繰り返した。最後、コアが爆発したのは予想外だったが、これに対する対応として即座に後ろまで引くと言う対応は割と良い評価を貰えるのではないだろうか。
そうすると、壁の隙間にあるくぼみに張り付いていた試験官が地面にスタッと降りてきた。
「お疲れ様です。一次は合格でございます。二次試験は、今日か3日後になりますが如何されますか?場所に関しては受験票で通達した通りです」
二次試験、受験地は一次と変わらなかったはず。魔力回復薬持ってきてるし体も別に疲れていない。ここに泊まる分だけ宿泊費と食費がかさむし今日受けてしまうのが得策だろうか。
「今日でお願いします」
「分かりました。二次でも試験官を務めさせて頂きます。1級冒険者のマドと申します。では行きましょうか」
「トイレと軽食って挟めたりしますか?」
「挟めますよ。その分試験時間はちょっと短くなりますが」
生理現象で制限時間が短くなるなんてケチな話だ。
________
トイレだけ行った。食事はこんな事もあろうかと持ってきたレーションがここぞとばかりに役立った。二次試験は郊外にある山地に生息する中級上位の魔獣の討伐依頼を熟す感じらしい。依頼料は貰えるのか聞いてみたら。
「がめついですね、君」
と言われた。よくよく考えたら1級冒険者を丸一日拘束しているのである。今回払った試験料と依頼料でトントンくらいなのだろう。そう思いこの推測と共に詫びを入れたら少し彼の表情が緩んだ気がする。素直な事はやはり美徳であると思う。
山地までは列車が出ていた。但し列車の運行ルートと魔族の出没地域はずれているのでどちらにせよ山地は歩く事になった。山中はまさに原生林という感じである。人はいない、と言うのも柵があったので多分通常は立ち入れない場所のようだ。
「主に評価項目は3点です。1点、魔獣を如何に早く安全に処理するか。2点、捜索能力、魔獣を如何に早く見つけられるか。最後、ここら一帯は一応保全区域です。周囲への被害も考えられるようになったら冒険者として言う事なしですね。僕は君の数歩後ろを歩きます。いざとなったら助けますのでご安心を。試験時間は本日9時まで、では試験開始です」
続きます