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等級①

ファンタジーゲームの昇格とかランクアップみたいなやつ何かワクワクします

それからの生活は別に今までとさして変わらなかった。とは言えこの魔術のお陰で多少の無茶は出来るようになったのでより難度の高い仕事を受けられるようになり、多少懐が潤ったのはある。生傷は増えたが、それでも懐が潤うのは良い事だ。いつ五体満足でいられなくなるか分からない、だから備えるのである。


今日は珍しくピンとくる仕事が無かったので仕事を取らなかった。休業日である。窓から差し込む陽光が瞼の上から視覚を刺激してくる。目をこすりながら体を起こし、体を伸ばす。想定よりも太陽が高い位置にある。とは言え慌てることは無い。いつも通りのルーチンに取り掛かる。


まず外の井戸から水を取って来て顔を洗い、口をゆすぐ。敢えて数値にするなら0.3斤ほどのパンを切り落とし、適当な乾物と一緒に頂く。そしてポストに日報を取りに行く。再度口をゆすぎながらそれを見るのだ。しかしここでルーチンが少しずれる。ポストには日報と、それと思い当たる節のない手紙が入っていたのだ。送り主は、商会である。


取り敢えず家に入り、封を切る。触った感じ変な魔法等はかけられていないように見える。そもそも大抵の魔法入り郵便は郵便局で自動的に検出されて弾かれるのだから、郵便局を通した形跡があるならそこまで心配する必要も無いわけだが。何だろうと思いながら取り出した紙を見て、思わず口から納得のあゝが出た。


「等級昇格試験」


魔術師、剣士、魔物と相対する人全てひっくるめて冒険者である。そして冒険者の対魔能力を含む依頼遂行能力、それらを評価する最も妥当な指標、それが商会が提供する等級というシステムである。等級は5段階、下から順に三級、準二級、二級、一級、特一級である。級が上がるとどうなるか、仕事において指名が来る。指名をするような商会の客は大抵身分が高い、そして身分が高いという事は護衛をつける、その護衛に抜擢される、そしてそこで実力を示せば近衛兵となる。僕みたいな特にギルドを作らず個人で活動している戦闘に特化している冒険者の目指すところは大抵近衛兵である。ぶっちゃけ指名は一級を超えないと現実的では無いからそこまでは遠い道ではあるが40歳頃までに上がれれば相当な上玉である。


さて、そんな訳で受けない手はない。根無し草は嫌だが縛られたくない、みたいな僕のような冒険者にとってはこのシステムはマッチしている。当然すぐに申込書に書き込み投函しに行ったわけだ。

________

昇格試験はシンプルである。ゴーレムを倒すのだ。ゴーレムと言っても、今は進化が進みそこらの魔物よりよっぽど強い軍事用ゴーレム何かもいる。そう言うのを相手にするのである。どう勝てばいいか、ゴーレムの強度にもよるが普通に破壊すればいいのである。魔法で一発である。


と思っていたが、どうも二級以上は違うらしい。準二級昇格試験は泥臭くゴーレムとインファイトをした記憶があったが、届いた要項を見ていると審査官との一緒に指定された依頼を熟す、そして別の審査官と1対1の戦いらしい。対人、殺してはいけない対人は余りにもこの魔術と相性が悪い。発動したら即死だからである。かといって、見た感じ相手にするのは一級~特一級相当、流石に使い慣れているとは言え身体強化だけでは歯が立たない事は火を見るより明らかである。となると魔術の出力に調整を加える必要がある。


かと言ってどうするか。ついこの間割ってしまった白磁の皿の欠片の山がランプに照らされている。手ごろで、そこそこの硬さがある物だから実験には最適である。欠片を持ってきてキッチンクロスに包み魔術を使ってみる。瞬間、パンと音を立てて割れた。割れた破片はクロスを破り頬を掠れる。危ない。


新太にもう一つ欠片を手に取る。次、力を抑える。どう抑えるか、それは気合である。ぶっちゃけ、汗の量を調節するような物だけど取り敢えずやってみないと始まらない。割れる。もう一度、割れる。それを時計の針が零時を回るまで何度も繰り返したが一向に進歩がない。実質的に時間を無駄にしたような物である。


遅くなると、良くない事が思い浮かんでくる。昔学校に講義に来た心理学者の先生が言っていた。学習において優先される物、それは生死に関わる物である。俗にいう死に物狂いである。そして魔力の量自体は調節できる物である。現に身体強化の魔術は出力を僕は調整できている。もしこの魔術が魔力の「分割払い」が不可で、「一括払い」しか出来ないとしたらこれはまさに阿呆の賭けである。が、これだけやって出来ないのだから試験までの4日すべて練習に尽くしたところで大した進捗は無いだろう。


昔読んだ小説にこんな話があった。毎朝ピストルのスロットに、一つだけ弾丸を詰め、そしてスロットを目をつぶって回し、そしてピストルをこめかみに当て引き金を引く事をルーチンとする男の話だ。あれと同じような物ではないかと思う。さぁ何をするか、皿の破片を手の中に握りしめる。失敗すると手が惨い事になる。冷や汗が止まらない。


これに失敗したら死ぬと思いながら握る手に力を込める。手に込める力とは反比例した、出来るだけ小さな魔力。ピッ、という音がした。割れた、だけである。どっと疲れがあふれ出た。机の背にもたれ掛かる。割れた破片を机にからんと転がす。行ける。そして今までの経験から言えるのはこう言うのは一回体験すればもう一度行ける。次は手から離してみる。


もう一度クロスに包み、さっきの感覚を思い出しながらやる。失敗する。クロスの中からは明らかに破裂音がした。ここからは根気勝負である。寝れば多分この感覚は何処かへ行ってしまう。手のひらに包み魔術を使う、そして成功すればクロスに包み魔術を使う、クロスの中で加減が出来るまでこれを繰り返す。そしてそれを繰り返し続けて数時間、自棄になり皿を追加で15枚割った。そして気付いた、もしやこれは体に触れているかどうかで調整出来るかどうかが決まるのではないかと。


一旦の所これを結論としてその日は床に就いた。そして翌日、この仮定の上で実践に移した。結果として、この仮定は合っていた。手に触れている、より正確に言えば体に触れている(とは言いつつ、能動的に身に纏っているもの以外に触れるのは手、足くらいのものだが)時に限りこの魔術は極めて細やかな調整が可能となる。そしてこの能力を捏ね繰り回し、ひたすらインファイトと上手い事組み合わせられないかと繰り返した結果、ブレイクスルーが起きた。


パンチの瞬間に、魔術を、自分でも相手でもないその間に使用する感覚で使用する事で凄まじい勢いのパンチを繰り出せるようになったのである。但し腕も痛い。これを初めてやった時は指の第二関節の皮が全てずる剥けた。しかしこれは武器となる。良い武器である。徒手空拳の順当な強化、これを殺してはいない対人戦の方針にしようと決めた。


気付けば試験は二日後である。取り敢えず英気を養おう。

続きます

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