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クローリー先生を訪ねて②

4話です

魔族は死んだ。正確に言うと死んだように見える。厳密に言うとこの状態は肉体の方はまだ生きていると言える。魔族が消える時、その肉体は消滅する。魔族は魔力で体を繋ぎとめているので、魔力の消失により肉体がほつれて消滅した時が死といえる。


それはそうとして怪我が兎に角酷い。まず脇腹、肋骨を避けて内臓に刺さっている。下手に抜くとそれはそれで予後が怖い。刺さっている指を第二関節の辺りで切り、その上から包帯を巻く。蹴られた腹部に関してはどうしようもない。治癒魔術を複数回強めにかけるしかない。骨の位置を治さずにかけると内臓に刺さったまま治る可能性があり、それもまた予後が怖い。鎮痛魔術、は破傷風にかかった事が分かりにくくなるので弱めにかけておくことにする。


手、どうしようもない。黒く焼けている。皮が魔力のせいでどす黒く変質している。剥がす、のも良くない。痛覚が無い。後普通に動く。神経が繋がっている、痛覚が無い、炭化しているわけではない。だからこれは怪我ではなく恐らく変質だと思う。歴戦の魔術師は皮膚が変質している事がある。魔術の過度な使用に対応する為に体質が変化するのだ。あの時は生火傷みたいな状態で終わってしまったが今回は出し切った結果、閾を超えて変質したのかも知れない。


水と少しの食料を摂った。それだけしかせずに、2時間ほど時間が経った。魔族の体が段々と崩れ始めているのを見た。腹部に刺さっている指がそのまま崩壊するのは流石に困るので腹から抜いた。包帯を強めに巻き直す。夜間は魔獣が出るから一晩寝て、明日また出る事にしよう。クローリー先生の捜索もしたいが流石にこの状態ではいけない。一度病院まで行くしかない。


「キツイなぁ」


治癒魔術をしっかりやっておくべきだった。医者になるつもりもなれるとも思っていなかったからそれなりにしかやっていなかったが、生きて帰るには戦闘能力と同じくらい大切な事だったと今更ながらに思う。


ランプにそろそろ油を注がないといけないが、今背伸びするのもしんどい。ベッドから起き上がるのもしんどい。


「誰か、いるのか」


プレハブの外からクローリー先生の声がした。


「ぃます」


声を出そうとしたが上手く出なかった。そう言うとクローリー先生は扉を蹴破って中に入ってきた。こちらを認めるとクローリー先生は驚いた顔をした。


「テイア君」

「お久しぶりです。後で詳しく話すので介抱をお願いできますか」

「あ、ああ、勿論だ。救護班は既に呼んである。休んで良いぞ」

「これ、僕の怪我についてです。もう限界なんで寝ます」


もし後で気を失った後に発見されたら、という時に備えて書いた怪我についてのメモを渡した。ランプの灯が消えたのを見届けて僕は昏倒した。

________

「何で退院した翌日に再入院してるんですか?」

「お世話になります」


翌日、地元まで渡りそして前日お世話になった病院にまた入る運びとなった。看護師さんは呆れた顔をしていた。病状を聞くに、割と酷いらしい。特に内臓。無意識のうちに鎮痛系の魔術を強めにかけていたから意識を保てていたらしいが、普通に死にかけだったらしい。とは言え治癒魔術のおかげで回復は進んでいる。あと5日ほどで退院できるという事だった。


腕はいつの間にか元の色白な肌に戻っていた。結局火傷だったのかな、後で聞いてみようか。


「テイア君、今いいかい」


クローリー先生がそう言いながら部屋に入ってきた。


「はい、大丈夫です。あと5日ほどで退院できるそうで」

「何よりだ。さて、あそこであの時何があったか話をして貰っても良いかな」


僕は一息ついてから語り始めた。


「あそこにいたのは恐らくクローリー先生の記憶を読み取り、容姿を模倣した疾病系の魔族でした。疾病系と判断したのは、角のねじれ方と後は瞳孔の色です。記憶の中のクローリー先生と随分立ち振る舞いが血がかったので違和感を覚え、試しに聖銀の弾丸を渡したところ、拒否反応があった為、成り行きで交戦しました。結果勝利しましたが、結果的に腹部に刺傷打撲などなど貰いました」

「基礎魔術だけで準特級魔族を倒したのか?」

「いや、それについてなんですけど深い事情がありまして」


何故クローリー先生を訪ねたのか、魔術に目覚めた事、この二つを話した。


「見てみよう。実は学生の時君を見てちょっと違和感があった。それを確かめるのもついでにしてしまいたい」


先生は眼鏡を取り換えた。僕は手元にあった使い終わったインクのカートリッジを外に投げ、破裂させた。クローリー先生はそれをしげしげと見ていた。そして考えをまとめたようで、眼鏡を元の物に戻してつらつらと語り始めた。


「持論を述べるが、君は魔族寄りの存在だと思う」

「はぁ」


変な声が出た。突飛な話が過ぎる。


「まず人の魔力って言うのは、体を循環している。有体に言えば、人の魔力の流れは血液に近い。それに対してテイア君の魔力、これは体の一点から出ている。腹部の胃の辺り、そこから出ている。これは魔族や魔獣の性質に近い。彼らは肉体の中心に魔力を添えている。魔力で生きているからだ。


そして君の魔術だけど、これも魔族に近い。僕のこの眼鏡を通して見ると分かるのだが、人の使う魔術はその過程で魔力の形質を変える。そして君の場合、形質の変化がない。見えないところで変化しているのかも知れないが、少なくととも見た限りは変化していない。凄くざっくりいうとこんな感じだ」

「僕は魔族って言う事ですか?」

「僕は人だと思う。仮に魔族だとしても魔族だからという理由だけで君を殺そうとは思えない」


上手くはぐらかされたような気がする。とは言え、角も羽も屈強な肉体も無いから魔族を名乗ったらそこら辺のキチガイと大差ない。結局これが何の力かはよく分からなかった。得られた物はあの魔人の討伐分の依頼料とクローリー先生からの個人的なお礼のお金だけだった。


クローリー先生はこのことは内緒にしておくが困ったらまた来るが良いと言って帰っていった。その後は備え付けの本棚に入っていた本を読んでいた。この本棚は子供向けの本が多いようで、偉人の伝記とか、寓話とか、大体そんな感じであった。他にする事もない。来客もない。夜になっても一人きり、病室で本を読んでいた。


ウトウトしてきた。本を棚にしまう。


特に何を考えるでもなく、そのままその日は寝てしまった。

短かったかもしれません。続きます

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