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クローリー先生を訪ねて

3話です

三日も寝ていると体調も腕も治った。お金もそこそこ入ったので多少次の仕事まで時間が空いても問題はない。という事でアント君のギルメンにお礼をしに行って、その後母校へ行ってこの魔術について調べてみる事とした。


お礼は簡単に済んだ。病室を出る前に書いた手紙をアント君に渡してもらうように頼むだけだ。アント君の家は知っているので一瞬で終わる。手早くここまで済ませたのは、この魔術の正体が母校のあの人ならわかるのではないかという気持ちがあったからである。


母校にはクローリーという先生がいる。彼は魔術の解析に長ける先生であった。魔術を解析するのに必要なのは魔術の系統に関する莫大な知識である。魔術ウを使う時に浮かび上がる魔力の流れには系統によってある程度の傾向がある。それを読み取り、解析する事でその魔術がどういった系統の魔術なのか、そもそもそれは魔術であるのか、等という事が分かるのである。そしてそれを読み取るには魔術と魔力の流れに関係性を見出せるほどの莫大な魔術の知識と、魔力の流れを見れる良い目が必要となる。クローリー先生は眼を強化する魔術が使えた為、解析の道に進んだ。


なのでクローリー先生なら、僕に魔術らしき何かが発現した今、これが分霊箱で読み取れなかった理由やそもそもこれが魔術であるのか、等の判定が出来るという寸法である。


しかしこれは出だしから滑ってしまった。取り敢えず用務員室から入れば間違いにはならないだろうと思い、職員玄関から抜けて用務員室へと向かった。顔見知りの用務員さんはすぐに僕を認めてくれた。


「あれテイア君じゃない」

「お久しぶりです。すいません、卒業生の身分でもここの先生に会えたりしますか?」

「全然会えるよ。どの先生?」

「クローリー先生なんですけど」

「あ、クローリー先生。うーん、難しいかもなぁ。クローリー先生今仕事でちょっと遠方に行っているから」

「ああ、成程。ならちょっと今回は諦めます」


出直すか。そう思ったが、後ろから別の知り合いの用務員さんがこう言ってきた。


「テイア、あの先生多分求人出してたぞ。商会行ってその仕事とってきたらどうだ。要件満たしてるか分からんが」

「あ、求人出してたんですね。見てきます!」


用務員さんたちにお礼を言って、その足で商会へ向かう事とした。

________

商会の仕事と言うのは実に雑多である。この巨大なコルクボードに毎朝求人の貼り紙が貼り付けられる。商会に仕事とその要件を書いた紙、そして広告を渡すと簡単な審査を通じて翌朝にはこのコルクボードに貼られるのだ。


申請用紙に個人情報と取りたい仕事の番号を書いて渡せば仕事の受注完了だ。基本的に審査などは仕事を募集した側がするので、名指しでNG登録などをされていない限り、これを出したらすぐに仕事に向かうわけだ。


クローリー先生の依頼の受注条件、幾つかの基礎魔術と応用魔術が使える事、そして自衛能力、募集定員は3名、現場で判断。目的は準特級指定の魔族の現地調査。クローリー先生の授業を取っていたのでこの条件も理解できる。


僕なら通れるだろう、と考えて申請用紙に書いて出した。申請用紙は無事受理されたので、集合場所についての紙を受付で渡された。クローリー先生のギルドの前哨基地はここから船を2本乗り継いだところ。天気はあまり良くない日であったが、これ系は早め早めにいかないと枠が埋まってしまう事が往々にしてあるのですぐに船を取る事にした。こうなると思って用意をしてきてよかった。


船の旅は特に語るべきことも無かった。自分の住んでいる町は、外周を石造りの外壁が囲っていてその周囲は鬱蒼とした広葉樹林が囲っている。割と辺鄙なところにあるとは思うが、幾つもの街を横断する巨大河川であるチエン川が流れているから可能なのだろう。にしても、隠蔽の魔術をかけているとは言われているがこんな場所で魔銃や魔族の襲撃にあったらと思うとぞくりとする。午後3時頃に町を出た船はゆっくりと川を下り午後8時頃には目的地へと着いた。あいにくの曇天だったが雨も小雨程度で済み良かった。


「お粗末様です」


船を降りるとそこはあの町の外周と変わらない全くの森林であった。とは言え様子がおかしい。どうおかしいか、季節では無いのだ。この季節にしては葉が落ちすぎている。革靴の硬い靴底で地面を踏むと、そこには枯れた葉が積み重なっていた。雨が降った後だからかふにゃりとした。例の準特級魔族と言うのはそう言う魔術を使うのかと考えた。


地図を頼りに探すと前哨基地と思わしきプレハブを見つけた。ドアを叩く。


「コードをどうぞ」

「あ、っと、□□□□□」


端の方に書いてあったコードを読み上げる。そうするとドアが開いた。


「どうぞ、クローリー前哨基地へ。ってテイア君じゃん。久しぶり」

「お久しぶりです、先生」


クローリー先生は相変わらず清潔感のない見た目だった。伸ばしっぱなしの髪にゴワゴワの髭。とは言え風呂には入っているようで汚れていたり変な匂いがするわけではない。服もよれよれではあるが洗っているのは見て分かる。当時は厳格な先生だなぁと思っていたが、先生でないときはこんな感じでフランクな態度を取るようだ。後でアント君にも教えてあげよう。


「いやー、ぶっちゃけ人来ねぇなぁと思ってたから助かるわ。君は基礎魔術も優秀だったし安心して仕事を任せられる」

「他に人が来ていないのですか」

「いや来る予定ではある。お前の同級生の、シガネだっけ。あの結構変わった見た目の魔具持ってる子」

「ああ」



シガネ、懐かしい名前である。彼女は僕と同じで浮いていた。彼女の魔具がちょっと不気味だったからである。どんな魔具かというと、彼女の腕そのものである。彼女は魔具を作る時に左腕がまるまる一本持っていかれた。そして分霊箱が吐き出したのは人体模型であった。


その人体模型は魔力を流すと、意志を持ちシガネさんに仕えるように振る舞っていた。常に彼女の傍には人体模型がいた。ので、誰も彼も彼女に近付こうとはしなかった。人体模型がそれを牽制したのである。彼女も人体模型を気に入ったようで、服を着せ、かつらを被せていた。俗にいうメイドさんのような服装をさせていた。


「シガネさんですか、懐かしいですね。分身攻撃みたいな事する人でしたっけ」

「あの人形やたら強いんだよね。僕の幻術も効かないし厄介厄介。テストの時とか手加減無しでおっかなかったなぁ」


クローリー先生はけらけらと笑っていた。


「先生も随分印象違いますね。昔は厳格な先生だと思っていました」

「そりゃオフだしね。仕事なら厳格に生徒の手本として振る舞うけど今は研究の為に遠出してるただのクローリーさんだよ」


違和感を覚える。魔族の可能性がある。記憶の読み取り、そして模倣、もしこれが出来るとしたらそうする可能性がある。クローリー先生は魔術の鑑定能力で高名である。だから求人を出したらそれ目当てで来る人もまぁまぁいる気がする。事実学生の頃、クローリー先生の元にアドバイスを求めてやってきていた生徒は沢山いた。


ここから推測されるに、クローリー先生は既に対象の魔族に接触されていて、それで記憶を読まれた上で模倣されている。そしてここに求人を見てやってきた人は魔族の餌食になった可能性がある。


ならばあれを試してみるしかない。リュックからある物を取り出す。


「クローリー先生、ちょっと見て貰いたい物があるのですよ。手を出していただけませんか?」

「何々、良いよ」


取り出したのは聖銀の弾丸、そしてそれを手の内に隠すようにして差し出す。クローリー先生が差し出した手の上でそれを落す。肉の焼ける音がした。


「お前誰だよ」


魔族の化けの皮が剥がれた。煙を吐き出しながら魔族が元の姿に戻って行く。ああ、あの角のねじれ方、疾病系の魔族か。成程、枯れるわけだ。まだ怯んでいる。


すかさず、右手に魔力を集める。今回はクローリー先生、求人で来た人の居場所を吐かせるために頭と主要な臓器軍は残す必要がある。座っていた椅子を投げつけて、机の上に登り魔族の右肩に触れる。肩だけを貫通するように破壊した。腕が既に熱いが手を止めるわけにはいかない。反撃されれば多分負ける。


馬乗りになり、心臓だけは避けるようにして腰に付けていた刀を胸に突き刺す。魔族が暴れ出した。ただのもがきでも、この等級の魔族となると流石に強い。腹部を思い切り蹴られた。腹が熱い、確実に骨は折られている。そして魔族の眼は明らかに冷静さを取り戻していた。


「人風情が良い気になんなよ」


左腕でわき腹を掴まれた。爪が腹部に食い込む。流石に戦闘経験のなさが出てしまった。勝てるならばクローリー先生の居場所を聞き出すために生かすという選択肢が取れたのかも知れない。ただ、これは敗色濃厚だ。あれはアント君のギルメンの力添えあって出来た事なのだ。


火事場の馬鹿力と言うのがある。それかもしれない、死にかけ所以に力が滾ってきたのだ。滾った魔力でこいつを殺す、その後僕が死んだとしてもこいつは殺す。その思いだけが頭を支配していた。


頭にもう一度手をかざす。額を鷲掴みにしてもう一度さっきの事をやる。手の皮がどす黒くなった。痛みはなかった。頭はそのまま圧し潰された。


「...た」


最後に魔族はそう言った。助けてだろうか。助けてだろう。結局クローリー先生たちの居場所は聞き出せなかった。

続きます

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