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何とも不愉快な喧噪が去って一息ついた頃、再び近づいてくる喧噪があった。
「……ス様ぁ、良いでしょう?」
「………」
「フラネア、いい加減にしろって。いくら幼馴染だからって言ってもな…おい!」
「マーク様は怒ってばっかり!」
「お前が聞かないからだろ」
一難去ってまた一難かと溜息が零れる。しかも今度は教師らしき声は聞こえない。
流石に今回近づいてくる一団はクラスメイトだと思うのだが、この学院大丈夫なのだろうか……成績の良し悪しに関わらず、頭花畑な者が多すぎではないだろうか。
勿論学院には勉学より縁を求めて入学してくる者も、少なからず存在している事は知っているし、そう言う側面を否定はしない。
だが、仮にも高順位なら、節度ある行動と言動をお願いしたいと思うのは間違っているだろうか……。
オルガとメルリナが先程と同じく、エリューシアを背後にして位置どった。
それとほぼ同時に、少々マナーに難ありと指摘されそうなほどの勢いで扉が開く。
外から教室へとやってきた一団は、まさか先んじて誰かがいると思っていなかったのか、扉直ぐで足を止めて目を見開く。しかし教室の奥側は大きな窓が並んでいて、丁度春の日差しがふんだんに差し込んでくるタイミングだった為逆光になっていたようで、すぐに扉側の一団は眩しそうに目を細めた。
最初に扉を開けたと思しき女子生徒が眩しそうに目を細めながらも、キッと気の強そうな眼をしてつかつかと近づいてくる。
「ちょっと、貴方、そこを退きなさい」
オルガとメルリナから漏れる気配が鋭くなるが、その女子生徒は気づかないようで更に言葉を重ねる。
「聞こえないのかしら? その席から退きなさいって言ってるの! その席はトップのクリス様の席なんだから!」
「エルル!!??」
女子生徒が何の動きも見せないエリューシアに焦れたのか、距離を縮め、オルガを押し退けようと手を伸ばした時、生徒たちの後ろからアイシアの焦りを含んだ声が発せられた。扉前で立ちふさがって動かない生徒達を押し退ける様に、アイシアが血相を変えて駆け込んでくるのが見える。
しかし、アイシアが駆け込んでくるより早く、その手を阻止する手があった。
すぐ後ろに来ていたのだろう男子生徒の一人が、女子生徒の伸ばした手を捻り上げている。
「申し訳ありません。知り合いが失礼をしました」
さっきまで聞こえて居た声とは違う、だけどどこかで聞いたような気のする声に、エリューシアが視線を動かせば、彼は座ったままのエリューシアを一瞬驚いたように見つめてから、申し訳なさそうに頭を下げた。
エリューシア的には実害はなかったので、オルガ達が納得し、アイシアに怪我など問題が無ければそれで良い。
しかし、血縁者か婚約者と言った所だろうか、深く考えず行動するような猪娘と近しいのは、気の毒と言わざるを得ない。
それにしても、その男子生徒の麗しい顔には恐れ入った。正直攻略対象と言われても信じてしまう。いや、攻略対象達より天使な、マジ物の美少年だ。
金髪……それも深く輝くさらさらの金髪に金の瞳。間違いなく王族の血が流れているだろう。
ただ、彼の色味を持つ攻略対象はいなかったはず。真珠深としての死後に、追加シナリオとか第2弾とかがあったというならわからないが、少なくとも『無印マジない』には居なかった。『クリス』という名前がひっかかるけれど、声は聞けどもまだ邂逅していない『クリス王子』こと馬鹿リスは少し鈍い色合いの金髪に、ピンク色の瞳をしていたはずだ。
とはいえ、これまでゲームとかなり離れてしまってきているから、断言はできないのだが。
「ク、クリス様ッ 痛い、痛いですわ!!」
突撃してきた女子生徒を捻り上げている彼とエリューシアが見つめあってしまっていたせいで、哀れな彼女はずっと捻り上げられたままだった。
かなり痛いのだろう。その目を薄っすらと潤ませながら、甲高い声で叫んでいる。
クリスと呼ばれた天使な美少年は、スッと表情を消し去り、冷たい目をして女子生徒を睥睨した後、フンと不機嫌そうに鼻を鳴らしてその手を離した。
丁度やってきた教師が、空気の歪さに気付いたのか、慌てて何事かと聞いてくる。
それに対し天使なクリス少年ではなく、彼の隣にいた少し背の高い少年が答えている。
「事情は分かりました。フラネアさん、彼女はあの席で間違いないです。
入試の成績順で今日は座ってもらうよう伝えてあったと思います。今後は変わるかもしれませんが、間違いなく彼女が成績一位です」
「だけど、式典にも来ない人が一位だって言われても、認められませんわ!!」
「フラネアさん、彼女は式典に参加しなかったのではなく、混乱を恐れた私たち学院側が参加を見合わせて欲しいとお願いしたのです」
「な!?」
「理解出来たなら後でちゃんと謝罪しておくように」
「…………」
フラネアと呼ばれた猪娘は、不満そうに唇をへの字に曲げてそっぽを向いている。
「色々とあって予定が押していますので、申し訳ないのですが先にそちらを済まさせてください。まずは皆席に」
そこで教師がまだエリューシアの傍に控えているメルリナに顔を向けた。にっこり微笑んで頷く教師に、メルリナが情けなく眉尻を下げる。
「また後で」
「きっと、きっとですよ!?」
メルリナは残念ながら入試順位11位だったので通常棟だ。仕方なさそうに後の警護をオルガへ委ね、とぼとぼと通常棟へと向かっていった。
「さて、こうして成績上位者だけの教室と言うのは、学院としても初の試みです。色々試行錯誤なところも多いかと思いますが、何か思った事、感じた事、提案などは私を始めとした上位棟担当教師に遠慮なく言ってください。
では、まずは無難に自己紹介からと行きましょうか。
私はサキュール・ニゾナンデラ。同姓の職員が他にも居るので名の方で呼んで下さると助かります。
担当は魔法。中でも実践魔法で、歴史他は別の教師が担当します。
他の上位棟担当教師には明日以降会えると思いますので、それぞれその時に自己紹介してもらってください。
あぁ、それと席次は暫くしたら変更も考えています。それについても提案などあったらお願いします」
教師の自己紹介を聞いていて、エリューシアはピクリとその視線を上げた。
(サキュール……ぁ、サキュールって何だか聞き覚えがある。という事はゲーム中か関連作品に出てたって事よね。でも……あれ、どこに出てたっけ? 確か入学して暫くは、シモーヌと攻略対象の出会いイベントだけだったと思うのだけど)
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