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誤字報告、本当にありがとうございます!
もう、どれほど感謝してもしきれません( ノД`)シクシク…
そして迎えた入学式当日。
軽い朝食の後、着替え含めた準備に忙しい。
父アーネストは準備と言ってもそれなりに早く終えて部屋から出てくるだろうが、母セシリアと姉アイシアはそう言う訳にもいくまい。
たかが学院入学式、されど学院入学式である。
勿論、全貴族家ではなく学院入学する子息子女のいる家に限られはするが、それでも上から下まで結構な貴族家の父兄が一堂に会するのだ。その様相は最早お酒のでない社交場で、慣例として控えめな装いにしなければならないとは言っても、あまり気を抜いた装いは出来ない。
それは学生本人も同じくで、制服として黒のローブタイプの上着は着用するが、その下に纏う衣装はどうしても覗き見えてしまうので、あまり身分に相応しくない装いは出来ないのだ。
正直、何故上着を前開きタイプにしたのだと問い詰めたいとエルルは思った程である。
あれだ…某超有名なんたら〇ッターのアレを、もう少し長くした感じだと言えばうまく伝わるだろうか。まぁ、丈の長さはどうあれ、しっかり前のボタンを全て留めても、裾部分でどうしても見えてしまう。
『いっそ完全貫頭衣タイプのローブだったら、下に着用する衣装に気を遣わなくて済んだのに』とはアイシアの言葉だ……些かある意味貧乏性のエリューシアに毒されすぎている気がしなくもないが、完全同意しよう。
しかし準備に忙しいのはアイシア本人よりもメイド達の方で、彼女達の気合の入り様にはアイシアも苦笑いをしていた。
とは言えエルルには、縁のない話である。
着替えは一人で問題ないし、学院内では変装もしないつもりなので髪の方も特に何かする事はない。何かしようにも、思わず『形状記憶合金か!? そうなんだな!!??』と叫びたくなる程サラサラなので、一つに結わえるくらいが関の山。何とか結わえた所でそのうちするすると解けてしまうのだ。必要になった時だけ結わえれば良いかなと考えている。
そんなエリューシアはあっさり準備を終わらせて、一人談話室でお茶を楽しんでいた。
そこへ早々に準備を終えて自室から出てきたのは、想定通り父アーネストである。
お茶を飲みながら視線だけを流す。やはりと言うか何と言うか…流石アイシアの父であると心の内で頷く。
エリューシアの隣に腰を下ろし、お茶を用意してくれたメイドに礼を言うアーネストを、視界に捉えたまま改めてじっと観察すれば、癖のないさらりとした銀髪に、切れ長の目元は怜悧な冷たさを持ちながらも、紫の瞳と相まってとても美しい。
我が父ながらその美貌は眼福と思える。まぁ、アーネストの銀髪は発光していないし、瞳も精霊眼ではないが、だからこそアーネストの美貌を素直に讃えるのには抵抗がある。何故ならエリューシアはアーネストにそっくりで、そのまま小さな女の子にしたと言っても問題ない程には似ているからだ。
(自分で自分を褒め讃えるとかないわぁ、マジでないわぁ。
いやぁ、そういうのキモくない? 自分そっくりの人を褒め讃えるって、どんだけナルシスト?って、小一時間問い詰めたくなるわ。
だから父よ、済まぬ……私は母と姉は讃えても、貴方を讃える訳にはいかないのだ……って、口調がいけませんわ)
「エルルはもう準備は終わったのかい?」
そんな事を考えられていたなど、思ってもいないであろうアーネストが声をかけてきた。
「うん、良く似合ってる。
それにしても本来の入学までまだ2年もあったのに、良かったのかい?」
いまさら何を聞いてきてるのだ。当たり前だの何とかだよ。と内心突っ込みつつ…。
「良かったかとは?」
「いや、もう少し領でゆっくりしても良かったんじゃないかと思ってね。望むと望まざるとにかかわらず、エルルは外に出ればどうしたって目立ってしまうだろう?」
アーネストの双眸が悲し気な色を浮かべると同時に伸ばされた手で、そっとエリューシアの頭を優しく撫でてくる。
「お父様、心配下さってありがとうございます。とても嬉しい。
でも、だからこそです。
シアお姉様が学院に行くようになれば、今までのようにはいきません。
どうしたって私の話は洩れてしまうでしょう……そうなれば、シアお姉様を介して我が家に接触しようとする輩が出てこないとも限りません。いえ、介しようとするだけなら兎も角、万が一お姉様の身に危険が及ばないなんて誰が言い切れますか?
私が誘拐されかけたのも、まだたったの2年前ですもの。相手方が手段を選んでくれるとは限らないのです。
私はそんなの……嫌です。
お姉様にはずっと笑っててほしいのです。ずっと、いつまでも……お姉様には幸せであってほしい。その為にはやはり警護も厚いほうが良いですし、そう言った諸々を考えると一緒に入学した方が良いと判断しました。
……ダメ、でしたか?」
一瞬アーネストがグッと歯を食いしばって表情を歪める。その顔はすぐにいつもと同じ……幾分憂いを含んだものではあったが、見慣れた…冷たく見えても優しい普段の顔に戻る。
「ダメなんて、言ったりしないよ。
ただ、エルルを守ってやれない自分が情けないだけだ……。
済まない、エルルに子供らしくあれる時間を作ってやれなかった…謝るしかできない自分が本当に嫌になるよ。アイシアだけじゃない、エルルにも幸せであってほしいと思っているのにね…」
思わず隣に座る父を抱き締める。
抱き締めると言っても体格差のせいで、しがみ付いているようにしか見えないだろうが、そんな事はどうでも良い。
もう、考えるより先に身体が動いた。
アーネストの悲しげな顔を見たくなかったし、そんな風に言わないでほしかったし……だけど全部ひっくるめて素直に行動と言葉が出た。
「ごめんなさい…お父様、ごめんなさい」
やっぱりどう考えてもアーネストはアイシアを見殺しにしたりなんかしない。出来るはずがないと思える。きっとゲーム内では理由が語られなかったが、どうにもならない何かがあったのだろう。
語られていない事を理解しろと言われても無理難題すぎるが、それでも誤解し思い込んでいたのは事実だ。
そのせいで特にアーネストとは、少しばかり距離を取ってしまった感がある事は否めない。そして恐らく、アーネストもエリューシアが本当の意味で懐いていない事は気づいていたのだろう。
何が家族の幸せだ……そう言いながらアーネストを悲しませてきたのだから笑える。家族全員が笑っていられなきゃダメなのだと、改めて思う。
「エルルが謝る事なんて何一つないんだよ」
前世の記憶にある、ゲーム内の碌でもない話を聞かせても良いと今は思えないから、理由を言えない代わりにしがみ付く腕の力を少しだけ強めた。
その後何となく照れ臭い微妙な空気が収まるのを待って、聞きたかったことを訊ねた。
結局、学院内を高位と下位で二分する事は叶わなかったとの事だ。まぁそれは想定内。
特に下位貴族からすれば、学生と言う特殊で曖昧な身分の間に高位貴族との人脈を得ておきたいというのは、切実で当然の願いだろう。それを切り捨てようとしても阻まれるのはわかっていた。
学生という時期を脱し、本当の意味で身分に縛られるようになってから、その差を越えて知己を得る事は難しい。勿論不可能ではないが、難しくなることはわかりきっている。
事実、現在の王家も高位貴族らからは眉を顰められる事が多いが、下位貴族達の中には歓迎している向きもあり、それも学院と言う接点があったからこそ成しえた事と言える。
だが、王弟夫妻も学院内と言うある意味治外法権区域の危険性は、自らの経験もあり理解していたようで、視察は早々に行ってくれたらしい。
現在平民の受け入れはしていないが、これまでも下位貴族の中には実質平民と変わらない者も多く、あまり免疫のない高位貴族の子弟が付き合ううちに問題行動を起こすようになった等は珍しくなかったそうだ。
まぁ王家がアレだしなぁと、声に出さなかった事は褒めて欲しい。
結果、色々と問題と言っていい点が見つかったという。
例えば男女混合についても分けたほうが良いのではと言う意見も出たらしい。こちらについては婚姻相手探しと言う側面もある為、早々に却下された。
そして急いで着手したのだが、成績上位学生と通常学生の区分。
成績下位の者に下位貴族が多かったこともあり、身分で分ける事は難しくとも、成績で分けるのなら理解が得やすいだろうとの判断だ。
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誤字報告も感謝しかありません。
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