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昨日早々に商人の手配は済ませてくれたらしく、今日は昼から一家そろってお買い物タイムである。
とは言え手配したのは領地の方でも良くお世話になっている『ローズ・ネネランタ』だ。そこなら服飾だけでなく、店主のお眼鏡に適った物なら、小物だろうが筆記具だろうが幅広く取り扱ってくれる。
勿論店主の趣味全開のラインナップにはなるが、彼女のセンスに否はないので問題ない。
その何でもござれな『ローズ・ネネランタ』は、ネネランタ・ボルトマイス伯爵夫人が店主兼デザイナーを務めており、セシリアやアーネストとも同級生なのだそうだ。それ以外にも出店する際、セシリアが個人的に後援している縁もあって、公爵家御用達を務めてくれている。
公爵家と言う家柄も然りながら、ラステリノーア家にはエリューシアと言う、ある意味爆弾が存在している。
魔石だの食材だの、納品さえすれば終わりと言う商品なら兎も角、服飾や宝石類など、どうしても家人と接する機会が発生してしまう場合の商会や商人については、かなり気を付けて選ばれているのだ。
実際、結局お蔵入りとなってしまった5歳のお披露目会用のドレスも、そこで作っている。つまり、エリューシアの事を知っているので、変装の必要がないという事だ。ここ重要!
初顔合わせの時は、流石のネネランタ夫人も、エリューシアを見て一瞬固まっていたが、立ち直りはかなり早かった。あらかじめ聞いてはいたのだろう。
あぁ、ボルトマイスという家名ではなく名呼びなのには理由がある。
彼女は自身の名前がとても気に入っているらしく、名の方で呼ばれると喜ぶのだ。特にお気に入りの人物にはその傾向が強く、セシリアやアイシア、エリューシアも名で呼ばせて頂いている……ぅん、半ば強制だった記憶が無きにしも非ずだが、それは言わぬが花だろう。アーネストは流石にそれは…と一応家名で呼んでいる。
あの時は、お披露目会用のドレスなんて、お下がりで十分どころか『是非ともお姉様のお下がりを下さい!!』と言って憚らないエリューシアを、全員が必死に誤魔化して丸め込もうとしていたので、余計におかしな態度になり、あまりのバレバレ具合にエリューシアは苦笑交じりの溜息を吐くことになったのだが、過ぎて見れば良い思い出になっていた。
少し早めの昼食の後、ネネランタ夫人が馬車を連ねてやってきた。
運び込まれた商品は数が多いだけでなく、どれもが夫人厳選の品々だった為、選ぶのには苦労するのだが、それさえも織り込み済みで悩む時間さえも楽しい。他にも父母の学生時代の話なども、買い物の合間合間に挟みこんで色々と話してくれるので、あっという間に時間が過ぎてしまった。
いずれ機会があれば、ネネランタ夫人から聞いた話も披露するとしよう。
今回入学するアイシアとエリューシアは、何枚かの襟付きワンピースと揃いの鞄、予備のショートブーツ、あとは細工の美しい筆記具も色違いのお揃いで購入した。他にアイシアと同い年のオルガも入学するので、彼女には揃いの鞄を購入。
オルガは必死に止めようとしていたが、どうやら当家の使用人の子らには、何らかの準備品を用意するのも当家の伝統らしく、これまでの全員が贈られているのだと言われて、恐縮しつつも受け取ってくれた。
あと、この場には居ないがエリューシアの護衛騎士として辺境伯領から望んでついて来てくれたメルリナ・デラントス伯爵令嬢も、アイシアと同じ年齢なので共に入学する。
学友として警護にもついてくれる事になっているのだが、自家で準備している物もあるだろうからと、こちらには余分になっても問題のない筆記具を購入しておいた。
ついでとばかりにセシリアもあれこれ買っていたのは笑ってしまったが、それも含めて本当に楽しい時間だった。
そして楽しい時間ほど早く過ぎると言うもので、気づけば明日は入学式である。
こういう所も日本に準じているのか、入学式があり、そこには学生の父兄も参加する。
公爵家の場合はアーネストとセシリアだ。
一応主役は学生という事で、父兄の衣装は控えめにするのが暗黙の了解なのだが、そこはそれ、ちょっとした社交場になってしまうのも毎年の事らしい。
ただ、やはりエリューシアは目立ち過ぎて騒ぎになりかねないと、入学式への参加見送りを要請されている。
エリューシアとしても前世の記憶のせいか、入学式なんてかったるいだけと思っているので、不参加要請万歳である。あるのだが、アイシアは不満らしい。
「どうしてエルルは参加してはいけませんの?」
「シア……どうしたってエルルは目立ち過ぎてしまうわ。あんな所で目立っても良い事なんてないもの」
セシリアが困った表情をしつつも、何とか宥めようと頑張っているのだが、アイシアの御機嫌が直らない。
正直……
(そんなお姉様も眼福です! あぁ、尊い!! その何処か憂いを含んだ御尊顔……白米5杯はいける!!)
などと妹に思われているとは夢にも思わないアイシアは、更に拗ねた顔をして、エリューシアを煽り立てて来る。
「だって…折角一緒に入学できる様、エルルが頑張ってくれたのに」
あ、やばい……エリューシアはどんなアイシアの表情でも恍惚に浸れるが、泣き顔だけはダメだ。いや、潤んだ深青の瞳も大好物ではあるが、悲しませたいわけではないのだ。
「お姉様、お式等些末な事です。だって退屈そうですし…ね、お父様?」
おろおろするだけだったアーネストに話を振ってやれば、途端に嬉しそうに大きく頷いた。
「そ、そうだよ。入学式なんてふんぞりかえった肉団子達が長々と騒音を垂れ流すだけなんだ。退屈なものだよ」
「まぁ! そんな退屈なお式なら、私も不参加が良いですわ!」
あ、藪蛇だった。父よ、もう少しこう捻りを…と、じっとり睨みつければ、しょげかえってしまった…やれやれ。
しかし、何とかできるのか……わからないが、やらねばならない。
公爵家の…いや、エリューシアの宝であるアイシアの笑顔を取り戻さなければ!
「ぁ、あぁぁ!! そうです、そうですわ! 騒ぎの中心が私だと、下手をすると私が怪我をするかもしれません! だから不参加になるのは仕方ない事なのです! お姉様には参加して頂いて、後でどんな様子だったか、是非私に教えてやってください!」
必殺キラキラ懇願お姉様落とし発動!
コテリと微かに首を傾け、両手を祈る様に組んで胸の前に置き、やや見上げる角度で双眸を期待しているかのように煌めかせれば、お姉様は懐柔されてくれるはず!
うん、何てセンスのない技名だろうね! 我ながらワロス…フ、フハハ、ハハ……はぁ。
「ぅ……エ、エルル、ズルいですわ! でもエルルが怪我をするのは良くありませんもの……やっぱりエルルには勝てないわ。でもお式の後はずっと一緒に居ましょうね?」
「はい! 勿論喜んで!!!」
うん、遥か過去…と言っても2年前なだけだが、王弟夫妻に出した手紙がどうなったのか、学院に何らかの変化があったのか、それとも何もなかったのか、諸々をアーネストに確認しようと思っていたのだが、今日になるまで忘れていたのだから仕方ない。
それはまた後にして、今は機嫌が直ったアイシアを堪能しよう、そうしよう!
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