15
た、たたたた大変申し訳ございません!!
飛んでおりました><
パアアアァァァァァァンンンンン!!!!!!!
甲高く、空気を裂く様な鋭い音と、何もかもを一瞬で白く埋め尽くす激しい閃光が走る。
それは敵も味方もなく、動きを奪うのに十分過ぎるほどだ。
徐々に光が収まり、白い闇に少しずつ色が戻れば、隙をついて横からエリューシアを攫おうとした輩が、かなり離れた位置に弾き飛ばされているのが確認できた。
そして炸裂音と閃光の発生源と思われるエリューシアを見ると、その姿はキラキラふわふわと、光の花が乱舞している。
精霊光だ。普通精霊の姿はおろか、その発する光も見る事は叶わないのだが、精霊達も興奮状態なのかもしれない。
キラキラふわふわ、光の乱舞は明滅しながら徐々に収まって行く。
エリューシアに付き纏っている精霊達が守ってくれたのだ。
騎士やメイド、そして賊も固唾を飲んでその光景に魅入っていたが、そこは日ごろの訓練の賜物か、我に返るのは公爵家側の方が格段に早い。
不意を突かれる形ではあったが、結果として賊の襲撃は失敗に終わり、セシリアも無事だ。
未だ呆然としている賊を全員、生かしたまま捕縛し終え連行していく。
セシリアも我に返ったようで、スチアルドから渡されたエリューシアの身体をギュッと抱きしめた。
恐怖、不安、心配…そんな一切合切が綯い交ぜになっているのだろう、自身に回されたセシリアの腕は小刻みに震えている。実を言うと息苦しいくらいだが、エリューシアは黙ってされるがままになっていた。
「あぁ!! エルル! エルル!!……神様、精霊様…ありがとうございます、ありがとうございます、エリューシアを、娘を守って下さってありがとうございます!」
抱き締めたエリューシアの肩口に顔を伏せたセシリアは泣いているのか、ほんの少し濡れた肩に熱を感じた。
「お母様……」
「もう……もう大丈夫よ、精霊様も、皆も守ってくれたから」
セシリアにギュッと抱きしめられたまま、未だ開け放たれている馬車の扉から外の様子をちらりと見れば、護衛騎士達が手際よく捕縛した賊達を一か所に纏めていた。
どこかで荷車なり確保して、一人も逃がす事無く公爵邸に運ぶ算段なのだろう。
場所柄、あまり多くなかった見知らぬ通行人も、その様子にあからさまに安堵して、それぞれ向かうべき場所へと足を進め始めた。
少しだけ緩められた腕の中で、じっと黙ったまま、それでもその脳内では目まぐるしく思考を、エリューシアは回転させる。
何処の誰がどうして……それがわかれば良いが、恐らく依頼主に辿り着く事は難しいのではないかと、エリューシアは考えている。
何故ならゲーム内では誘拐犯が捕まるどころか、死体も何も発見される事はなく、そのまま有耶無耶になっていたからだ。
手持ちの情報は少ないが、それでもあえて予想するなら、王家かヒド……あ~ヒロインサイドか、と言った所だろう。
とは言え他の貴族家や他国の関与の可能性が全くないではない。それほどに精霊の愛し子というのは、稀有で得難い存在なのだ。
現実として存在するエリューシア達にとってはとんでもない事だが、つまるところこの誘拐劇は、ヒロインと攻略対象を際立たせるための舞台装置の一つでしかないとも言える。
悪役令嬢と言う位置づけに、アイシアを貶める為の……。
この世界に強制力とやらがあるのかないのか、未だにはっきりとわかっていないが、本当にふざけた話だと思う。
だが、これでまずここの分岐点は乗り切れたのではないだろうか。
エリューシアは誘拐される事なく生き残り、母セシリアも無傷だ。勿論護衛騎士達も、ドリス、サネーラ、そしてマービンも無事だ。ならば父アーネストも心を閉ざす事無く、最推しの姉アイシアが不幸に見舞われる可能性を少しは低めることが出来たのではないだろうか。
たった一歩、されど一歩だ。
エリューシアは思い出せる限りの分岐を、これからも叩き潰していくつもりだ。
もしかすると、この分岐を変えた事で、後の展開には変化が生じているかもしれない。そうなれば分岐などはわからなくなっているかもしれないが、それならそれで、思いつく限り、小さなことでも先手を打ち対処していくまでだ。
唯々諾々と殺されてやるつもりなんかない。
折角アイシアの妹と言う絶好のポジションに転生できたのだから、まだまだ満喫したいし、折角なら幸せにだってなりたい。当然アイシアの幸せも見届けたい。
そんな事を考えながら、ぼんやりと馬車の扉から見える風景を見るともなしに眺めていたが、ゾワリとした、得体のしれない何かが背筋を這うような気持ち悪さを感じてふと視線を巡らせたその瞬間、かなり離れた場所に座り込む一人の少女と目が合った、と思う……単にあちらは顔を向けていたというだけかもしれないが。
遠くて小さくしか見えなくて、だから判別なんかできると思えないけれど、確かに見て取れた。
茶色の髪に明るいオレンジ色の瞳。大きなタレ目が印象的で、その頬はほんのりバラ色で………茶色?…だけど…
―――シモーヌ!?
顔立ちはゲームのそれとは違う。
何より髪色が違う。ヒロインはエリューシアの様な真珠光沢はなかったが、銀髪設定だったはずなのだが、どう見ても茶色の髪だ。
年齢的にもまだ幼いのだから当然だが、年齢や髪色だけではない違いがあるように見えてしまう。しかし、間違いなくシモーヌだと思える。
汚れてすり切れた衣服に身を包み、その小さな足は裸足で血が滲んでいるし、何よりその表情には明るさはなく、仄暗い陰鬱さと歪んだ欲望が綯い交ぜになったその表情は、ゲーム内のシモーヌからは程遠い。
だが、垣間見える面影は、間違いなく彼女だろう。
精霊達も恐らく警告を発している。
忙しなく、だけど不安を煽るような気配に、精霊達の意識が混じる。
―――気ヲ付ケテ、気ヲ付ケテ
―――近ヅイチャダメ、近ヅイチャダメ、キケン
エリューシアはすぅっと双眸を眇め、幼い容貌に似合わない冷淡さをその瞳に宿す。
静かに向けられたエリューシアの視線は、遠くで座り込んだまま、静かで暗く、常軌を逸したような、狂い鬼さながらの表情を隠さない少女を射すくめた。
少女の方はと言えば、向けられる視線に気付いてはいない様で、ふと自身の後ろへと無防備に顔を向ける。その方向には野暮ったい、だけど貴族であろう男性が1人立っていた。
何を話しているのかわからないが、男性の方もこちらへ顔を向けていた。
(そう……シモーヌ、いえ、名前はわからないヒロイン、貴方……最初から敵だったのね。アイシアお姉様に不幸を呼び込んだのは貴方、私の敵)
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