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広げた風呂敷の回収(出来たのか!?)とざまぁ回です。
すっきりとはいかないかもしれませんが、笑ってお許しくだされば幸いです<(_ _)>
そこからは怒涛の勢いだった。
エリューシアやアイシア、ラステリノーア公爵家の面々は一旦学院敷地内の借り上げ邸に戻った。
アーネストや彼が連れてきた騎士達も、である。
刺されたクリストファについては、大急ぎで現在の家であるベルモール家へ一報を入れた。
慌てて駆けつけてきた現ベルモール公爵家当主…クリストファの伯父が中央治療院の魔法治療師達を連れてきていて、そのまま中央治療院へ送られた事だろう。
エリューシアが無意識に進み出ようとしたが、それはアーネストによって止められた。
落ち着いてから見舞いに行けば良いと言いたいのだろうが、きっと……多分だが魔法治療師達にはどうする事も出来ない…そう確信出来るのに見送るしか出来ず、エリューシアは唇を噛みしめた。
アイシアとヘルガも疲れ切ってぐったりとしていたが、それでも終始謝罪の言葉を呟いていた。
アイシアの事はどうしたって最推しで、大好きで、嫌いになれる未来なんて想像もつかない。
しかし犠牲が出てしまった…。
犠牲はクリストファ…そして精霊フィンランディアだ。
エリューシアにとって小さな犠牲ではない。
ゲーム内のアイシアと違って、先んじて大人になる必要のなかったアイシアだったから、仕方ない部分もある。
子供らしい感情を優先しただけの事なのだから穏便に…と言う層が一定数居る事もわかっている。
しかし彼女は高位貴族家の令嬢なのだ。
その自覚は持って貰わねばならない。
既に自分が悪かった事は自覚しているようだが、後程アーネストとセシリアからしっかりと叱って頂こう。
が、思わぬ伏兵が居た。
エリューシアが抵抗せず背中を向けた事が、アーネストの逆鱗に触れたらしい……誰だ、告げ口したのは……ヘルガだろうか? 恐らくヘルガだろう。
最も、そうしなければアイシアとヘルガは生きてなかったと言い返せば、アーネストは黙り込んでしまったので、勘弁してやる事にする。
しかしヘルガには後できっちりと仕返しをしてやろうと、エリューシアは内心誓っていた。
最後抵抗する事なく取り押さえられたフラネアと、気を失っていた取り巻き達も騎士達に連行されて行った。
証拠品となる真っ黒な短剣の代わりに落ちていた骨はその場に残されたが、後程現場調査時にでも拾われる事だろう。
そして、ほぼ同時進行でズモンタ伯爵家の制圧も終わっていた。
これはアーネストの指示で、途中で分けられたラステリノーア公爵家の騎士達が行っていた。
それを受けてではないだろうが、 現王、王妃、王太后についても調査の手が入る事となった。宰相ザムデンも蟄居となっていた。
ザムデン夫人であるソミリナが、メイドのネマリーに命じて手に入れさせた手紙等を中央へ提出したのだ。
そこにはオザグスダムとのやり取りなど、中央が知らされていなかった事も多々見つかり、それを以て失脚する事になった。
とは言え宰相についてはこれまでの功績、何より今回の事についても黙認した、見過ごしただけで大事には至っておらず、恐らく地位を追われるだけで済んでしまう可能性が高い。
そしてオザグスダム王女他についてだが、船をいつまでも停泊させておけないので、王子共々戻る事になった……表向きは…。
実の所、王女ユミリナは船には乗らず、別の場所で身柄を拘束されていたシシリーとクッキー……クッキーと言うのは偽名だったらしいが、彼女らと別の国へ旅立って行った。
リッテルセン国内に残留させる事が難しいと分かったからだ。
クッキーの話で分かった事だが、リッテルセン国内にオザグスダムの間者が少ないながら居るらしく、彼らは間違いなくオザグスダム王家の意向に沿おうとするだろう。
つまりリッテルセンでは、見つかればユミリナの命が危うくなってしまうのだ。
それで間者がほぼ放たれていない国へ向かって貰う事になった。
シシリーとクッキーは他へ逃がして貰えるならと、ユミリナの面倒を見ながらの旅を引き受けたのだ。引き受けないと…と含みを持たされれば従うしかなかったのだろうが…。
彼女達も生国オザグスダムに戻ったとして、生殺与奪を握られ飼い殺しでは幸せと言えるかどうか……勿論別の国で幸せになれるとは限らないが、そこまで責任は持てない。
ただ勿論そのままで終われるはずもなく、まだ一大事業が残っていた。
オザグスダムへ戻った船で、ユミリナ達には表向き死亡して貰わねばならない。それもリッテルセン王国とは全く無関係の形で…。
これに結局エリューシアは関与する事になってしまったが、それはまた別の御話。実行部隊の一人となったカリアンティが、終始『お嬢様は凄い』「エリューシア様万歳』と呟いていたとか何だとか…。
怒涛の日々を過ごし、一息ついた日の夜……王都の一角に鎮座する牢獄棟に足を踏み入れる者が居た。
警備隊長ヨラダスタンとマークリス・ボーデリー侯爵令息。
ヨラダスタンは今回の事件の首謀者他の調査を、ラステリノーア公爵家から直々に依頼されていた。
アーネストとしては事実関係は知りたいが、フラネアの姿等見たい訳ではないし、何より狂人の相手は諸々の負担が大きすぎると周りにも止められたので、ヨラダスタンに依頼したのだ。
そこへマークリスが最後の面会を求めてやってきた。
明日、フラネアは処刑される。
名と容姿が異なる為、混乱を引き起こさないよう、処刑は公開されず、牢獄棟で内々に行われる予定だ。
地下をくりぬき、石を積んで壁としただけの地下牢は、じめじめとしていて、空気が澱んでいる。
マークリスは鼻を突く不快な臭いに顔を顰めるが、それでも音を上げずに足を前へ進めれば、鉄格子が見えてきた。
その1つに、フラネアは居た。
姿だけなら到底フラネアと結びつかない少女……少し赤みがかった薄いオレンジ色のふわふわだった髪は、見る影もなくごわついてボサボサになっている。
何もかもを諦めたのか、それともクリストファを傷つけてしまった事で折れたのかわからないが、取り調べには素直に応じていたようだ。
ズモンタ邸で取り押さえられたコダッツも、観念した様にあっさり白状したらしい。
フラネアとコダッツ、2人の言う通り、狂人バビーの日記も見つかった。
しかし証拠となるはずだった元短剣の骨は、回収しようとして持ち上げた途端、砂粒になって崩れてしまったという話だ。
一応調査に砂粒は拾い集めはしたが、調査に当たる魔法士達も多分何も出てこないだろうと口を揃えている。
結局モヤモヤが残る調査にはなってしまったが、フラネアとコダッツの証言で大雑把にでも全容は掴めたので、刑に変更はない。
ちなみに生き残っているフラネアの母は、既に正気を失っていた。現在は遠方の監獄治療院に収容されている。
「……フラネア…」
ぐるりと機械的に振り向いたフラネアに、マークリスは息を飲む。
姿形が別人になっているだけでなく、痩せ細りまるで骸骨のようになってしまった姿に衝撃を受けた。
「……」
「………フラネア…どうして……何だってこんな事…」
取り調べにずっと淡々と応じてきた少女からは想像もつかない程、醜悪な笑みに口角をニッと釣り上げる。
「どうして? 簡単な事よ。
幸せになりたかった……私は幸せになりたかったの」
骸のような外見からは考えられない程、受け答えはしっかりとしている。
「幸せになる為に他人の姿を奪って、殺して……そんな事したって言うのか…?」
此処へ来るまでにマークリスはヨラダスタンからも、事件のあらましは聞かされていた。
信じられないなら、フラネアを擁護するつもりなら帰れとも言われた。
それに了承と頷きながらも心の片隅で、マークリスはフラネアを擁護出来る部分を探したかったのかもしれない。
「私…知ってたわ。
お母様もお父様も、本当は私なんて好きじゃないって。
従属の力だけが私の味方だった。
お母様は私の顔が平凡なのを一番悔しがってた。
平凡な娘だからお父様は振り向いてくれないんだって、良く呟いてた。
ふふ…でも、ほら…私、今は可愛らしいでしょう?
ずっと欲しかった、だけど本当はもっと美しい姿が欲しかった…。
美しくないと幸せになんてなれないの…」
「そ、そんな事ない!!」
「ふふ…マークは噓つきね、いつだってそう…嘘ばっかり。
大人しく勉強したってクリス様は振り向いてくれなかった。
頑張って…運もあったけど同じクラスになれて…だけどクリス様は私を嫌い続けたわ……ねぇ、私って何の為に生まれたのかしら…」
「………」
「もういいでしょう?
出てって……私に必要なのはアンタじゃない…」
ヨラダスタンは衝撃で動けなくなったマークリスを支えて、階段を上がった。
「だから言ったろうが……傷つくだけになるかもしれんぞって…」
「……何であんな姿……牢獄だから、囚人だからってあんな…」
ヨラダスタンは足を止めて大きな溜息を一つ溢した。
「あのなぁ……八つ当たりもいい加減にしてくれ。
ちゃんと食事は出してる。
まぁ一日2回で、パンとスープだけの質素なモンだがな…だが、こんな短期間であんなに痩せ細った奴なんて今まで居ないんだ」
「だったら…だったらなんで……」
「多分…人を呪ったから……じゃないか?」
「………」
「人を呪ったら、知らず自分に跳ね返って来るもんだ……。
まぁ時にはその逆凪さえ物ともしないツワモノってのもいるらしいが…案外あるもんなんだよ、因果応報って奴はな…」
「………」
翌日フラネアの刑は執行された。
最後まで『ごめんなさい』の一言も口にしなかったと言う。
転げ落ちた首には、醜悪な笑みが張り付いていたそうだ。
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