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【完結済】悪役令嬢の妹様【連載版】  作者:
5章 不公平の傍らで

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 アーネストからの声掛に、クリストファとベルクが振り向く。

 見つめては来るが口を開かないアーネストに、クリストファ達が互いに顔を見合わせていると、微かな溜息が耳に届いた。


「ここは君達の生家もしくは領地からかなり遠い。

 帰るとして転移紋は使えるのか?」


 問いにベルクは思わずシャーロットに視線を向けるが、クリストファは身じろぎもせず、ただ沈黙したまま双眸を伏せている。

 シャーロットに顔を向けていたセシリアだったが、そんな様子にアーネストへ耳打ちをした。

 何やらアーネストの顔色と表情が微かに、だけど目まぐるしく変化をする様子に、誰もが固唾を飲んで見守っていると、セシリアがにっこりと微笑みながらアーネストの耳元から顔を離した。


「……ぁ~…ぅん…。

 グラ……あぁ、ベルモール令息とキャドミスタ令息は、済まないが隣室へ移動して貰えるか?」


 アーネストはそれだけ言うと立ち上がり、セシリアに頷きを1つ残して部屋から出て行った。

 王弟夫人であるシャーロットに挨拶もなしである。

 流石に自分がした事の非礼さに気付いたのか、シャーロットがその場で項垂れた。

 部屋に残っていたセシリアだが、執事のハスレーに指示を出し、先に少年2人を隣室へ連れて行って貰う。

 それを見送ったセシリアは、項垂れたまま動かないシャーロットに瞳を伏せた。


 沈黙が室内に溢れ、息苦しくなりそうに感じ始めた頃……。


「……なさ、い……私ったら…。

 ごめんなさい…。


 クリストファに……何もしてあげられなかったあの子に、どうしても強固な後ろ盾が欲しかったの……。

 そればっかりが頭にあって……許して頂戴…他にも……大事な話があったのに、怒らせてしまったわ…」

「シャーロット……」


 セシリアがシャーロットに寄り添った。


「貴方の難しい立場もわかっているわ。

 アーネストもちゃんとわかってる。

 だから門前払いにはしなかったでしょう?」

「私は……間違えてしまったのかしらね…いえ、怒らせたのだもの、間違えたのよ。

 クリストファを守らないとって…ベルクも警護にとついて来てくれて…」

「そう…。

 そうね……心が狭いと軽蔑されるかもしれないけど、それならそれで構わない。好きに蔑んで頂戴。

 けれど……

 子供に罪はない……私達にはそんな言葉、何一つ響かないの。


 理想ではあるけれど、彼等を見ればどうしたって憎い王族を…そして宰相を思い出してしまう。

 ロザリエも義兄も……義両親も……あいつ等に貶められ殺された事を、どうしても思い出してしまうのよ。

 特に義兄様はまだ意識も戻らず、中央に留め置かれたまま……。


 酷い言い方だろうけど、私達には子供でも罪があるの……それを払拭するにはどうしても時間が必要なのよ。

 だからこんな性急なやり方はして欲しくなかったわ」


 シャーロットがキュッと下唇を噛みしめる。


「……えぇ、そうね。

 本当にごめんなさい。だけど時間がないというのも本当なの…」

「一体何をそんなに焦っているの?

 それがどうして婚約の話になるのよ…」

「それなんだけど……」









 ――その頃隣室では…。


 閉じた扉がノックされる。

 返事をすれば、ハスレーが少年2人を案内して入室して来る。


「あぁ、そちらに掛けてくれ」


 アーネストは自分の対面側のソファを示した。

 促され、指示に従う少年2人の行動をアーネストは、ソファの背凭れに身体を預けた状態で観察する。

 片や公爵家令息、片や辺境伯令息。

 公爵家の方は次男だが、2人共マナーは問題ない。


 先程セシリアから耳打ちされた時に知ったが、公爵家の次男の方はかなり冷遇されてきたらしい。しかし、それを感じさせない美しい所作だ。

 勿論存在は知っていたし、過去にアイシアから聞いて潰してやろうかとも思ったが、エリューシア本人がきちんと線引きしていると聞いたので、そのまま日々の忙しさに紛れてしまっていた。


 しかし、まさか子息の了承も取らないままの婚約打診だとは思わなかった。

 あのシャーロットが何故と思うが、そちらはセシリアが上手く聞き出してくれるだろう。

 彼女が何の考えもなしに、こんな強引な手法を取るとも思えない。

 だから、アーネスト自身は当の少年2人に注力しようと考えた。


「それでベルモール令息にキャドミスタ令息だったね」


 背凭れから身体を離し、両足に肘をついて組んだ手に顎を載せて視線を向ければ、少年2人は居住まいを正した。


「ラステリノーア公爵閣下、クリスで構いません」

「私も、どうぞベルクとお呼びください」

「そう。じゃあクリス君、ベルク君、2人は婚約打診の事は知らなかった?」


 さっきの様子を見ていれば一目瞭然だが、今一度確認を取る。


「「はい」」


 シンクロする返事に笑いそうになるが、表情を引き締め直した。


「そうなんだね。

 じゃあ2人は何と聞いてこの地まで来たのかな?」


 先に話し出したのはクリストファの方だ。


「何処へ…というのは聞かされておりませんでした。

 ラステリノーア公爵領へは今まで足を運んだ事はなく、風景からも気付く事が出来ず……本当に申し訳ありませんでした」

「謝らなくとも良いよ。

 なるほどね…やはり夫人はかなり焦っていたのかな……まぁ良い。

 ベルク君は?」

「私は…グラス…ぁ、ベルモール公爵令息が避難をすると聞いたのですが、従者もなく少数だと知り、護衛にとついてきた次第です。

 メフレリエ侯爵令息の方は、あえて残って貰っております」

「そう」


 何物にも代えがたい愛娘アイシアとエリューシアに婚約なんて…と、一瞬で頭に血が上ってしまったが、年齢を考えればそんな話が出てもおかしくはないのだ。

 アイシアは現在12歳、エリューシアは10歳。誕生日がくればどちらも1つ年齢を加算する事になる。


 高位貴族では婚約者が居ないのも最近では珍しくもないが、少し昔なら居ない方がおかしな年齢ではあるのだ。

 しかもいつの間に調べたのか、先程のセシリアの耳打ちでは、2人共素行、人柄、成績、その他諸々含め優良物件だという。


 特にクリストファの方は、学院でもエリューシア、アイシア、どちらもを気遣ってくれているらしい。


 正直王家に繋がるグラストンとザムデンの血筋との繫がりなんて、死んでも認めるモノかと思っていたし、今もそれは変わらない。

 親の恨みを子に向けるなと言う叱責もあろうが、自分はそんなに人間が出来ていないのだと開き直るくらい、あっさりとやってのけよう。


 しかしセシリアの言葉、そしてこれまでの2人の様子から、アーネストは完全拒絶から少し路線変更する事にした。

 婚約云々は最終的には愛娘の意思が重要になるし、あっさり受け入れるつもりもない。

 しかしグラストンでもザムデンでもないと言い張るのなら、ひとまず身柄を預かるくらいはしてやっても良いか…と考えた。

 そして……


   そして…………


 精々こき使ってやろうではないか。

 彼等の愛娘への想いは知らないし、今は聞いてやるつもりもないが、自分から娘達を奪おうというのなら、まずはそれに相応しいかどうかを見せて貰わねば話にならない。


「では婚約云々の話は一旦忘れて欲しい。

 私は自分の目で見ないと納得出来ないしね。それに……私の掌中の珠とも言うべき愛娘達を、そんな簡単に手に入ると思ってもらっては困る。

 彼女達は至高の宝なんだよ。


 だからまずはただの『クリストファ』と、ただの『ベルク』として君達を預かろう。預かった後、君達には身分による忖度は一切なくなる。


 どうだい?

 それでも良いというのなら、足掻く時間くらいは進呈しよう。


 勿論、尻尾を巻いて逃げると言うなら、それでも構わないよ?」


 アーネストは口角を嫌味な程、ニッと釣り上げて笑った。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

リアル時間合間の不定期且つ、まったり投稿になりますが、何卒宜しくお願いいたします。


そしてブックマーク、評価、感想等々、本当にありがとうございます!

とてもとても嬉しいです。

もし宜しければブックマーク、評価、いいねや感想等、頂けましたら幸いです。とっても励みになります!

誤字報告も感謝しかありません。


よろしければ短編版等も……もう誤字脱字が酷くて、本当に申し訳ございません。報告本当にありがとうございます。それ以外にも見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>


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