Guardian of Justice ~罪の果てに~
これはハイド本編と同時刻に起きた物語の記録である…
正義はいつだって世界を善へと導く。
そう信じたからこそ進み続けた。
政府直属の犯罪取締り組織H.U.N.T.E.Rの一員にして元ストレンジャーだったダニー。
彼が対峙するは新たに誕生した反政府組織。
正義を信じ、正義を守ると決めた男が下す審判が明らかとなる。
ダニー…!!
おい、ダニー…!!
ここは俺たちの帰る場所だろ…!
戻ってこい…!
ダニー…!!
「ッ…!」
アラームが鳴り響く。
停止スイッチに手を伸ばすと自動でカーテンレールが開き、外の景色が露わになる。
日差しが部屋を照らす。
おはようございます。ダニー様。
体温上昇、心拍数上昇、昨晩はあまり眠れなかったようですね。
今日の一日は…
「システム、音声オフ。」
部屋から流れる音声がオフになる。
俺は部屋を出て、鏡の前で自分を見る。
「…。」
水が流れる音だけが洗面所に響く。
起床して間もない俺の脳内は夢から現実へと切り替えるべく、先ほどの夢で見た光景を徐々に曇らせていく。
「はぁ…」
流れる水を手に取り顔を洗う。
部屋に戻り、定められた黒のYシャツ、黒ネクタイを結び、朝食を軽く済ませる。
ピストルホルダーを装備し、上着を羽織り玄関へと向かう。
車のキーを手にして、最後に髪を僅かに整えて家を出る。
日常のルーティンに従い、車に乗り込む。
「目的地、H.U.N.T.E.R本部。」
そう機械に指示すると目的地までの道のりが表示される。
俺はその指示に従って車を走らせる。
目的地に到着し、俺と同じ服装の者たちが招集される。
「今回の任務は新たに活動している反政府組織の取り締まりだ。」
本部の隊長、ヴィヴィアンだ。
ヴィヴィアンは招集された俺たちの前にスクリーンを投影した。
新たな反政府組織「WATCH」。
構成メンバーは不明、つい数か月前に小規模だがテロ行為をはじめた組織だ。
現在、WATCHはセントラルエリアの居住区に潜伏していることが判明した。
奴らがいつ新たなテロ行為を起こすかわからん。
速やかに彼らを取り締まることが君たちの任務だ。
招集された人員を4つの班に分け、今回の任務に取り掛かってもらう。
彼は手短に今回の任務の説明をした後に、各人員の振り分けを始めた。
俺は振り分けられた班員の班長を務めることになり、セントラルエリア居住区に急行する。
道中でひとつの通信が入る。
「ダニー聞こえてる?」
「あぁ、どうした?」
通信の相手はパートナーのイヴリンだ。
彼女は今回の任務では俺とは別班で行動することになっている。
「あんたに聞いておきたいことがあるんだけど。」
イヴリンの発言で俺は彼女の意図を察し、通信を俺とイヴリンのみの個別の通信に切り替える。
「いいぞ、他には聞こえていない。」
俺の発言を聞いてイヴリンは少し間を空けた後に話だした。
「WATCHのこれまでのテロ事件を全て目を通したんだ。
そしたらいくつか疑問があってね。」
「目標とされたものはどれも政府が保有する施設、だがその全てに住民の被害が出ていない…ことか?」
「やっぱりね、知ってたんだ。」
「当たり前だ。」
今回の標的WATCHはテロ行為を行いつつもこれまで一度たりとも人々に危害は加えていなかった。
実行されているのは政府の施設の破壊のみ。
「なぜ、それを聞いた?」
「ほら…あんたも前は反政府組織の人間だし…その…これは普通なのかなって。」
「俺のいたストレンジャーも基本的には一般市民には危害は与えないように考慮していた。
反政府組織の目的にもよるが、特段不可思議なことじゃない。」
「…そっか。」
何か思うことがあるかのような含みのある返事をするイヴリン。
「イヴリン、ちゃんと言ってくれ。」
「いや…ってとこは今回の組織の中にもあんたのような善人がいるかもしれない…って思っただけ。」
「…だとしても政府に攻撃をしたことは事実だ。」
俺たちの間にわずかな沈黙が漂う。
「聞きたいことがそれだけなら通信を切るぞ。」
「うん、じゃ現場で。」
しばらくして、現場に到着する。
「ダニーどうする?」
同じH.U.N.T.E.Rの仲間が口にする。
「正面からは俺の班が、裏口はイヴリンの班に任せる。残りの二班は現場周囲を囲んでほしい。」
「承知した。」
俺の指示で仲間たちが行動を開始する。
通信で他の班と随時連絡を取り合いながらWATCHがいるとされるビルへ突入する。
着実にひとつずつ部屋を確認していく。
「2班異常なし、このまま下層に向かう。」
「了解だ、1班上層へ進行中だ。」
イヴリンの班と短い通信を終えて、俺前方に見えた部屋のドアノブを握る。
班の仲間にジェスチャーで合図し、扉を開ける。
「やはりか。(ここがアジトみたいだな…)」
そこにはWATCHのと思わしき機材が部屋中に並んでいた。
「調べてくれ。」
仲間に指示し、部屋を調査する。
俺は電源の消えた機材に手を当てる。
「(まだ温かい…)…まだ近くにいるはずだ。」
俺はまだWATCHが付近に隠れていると踏んで仲間にそう伝える。
部屋を出て廊下を確認する。
壊れかけた水道管から漏れた水滴が落ちる音が鳴り続ける。
「…!!」
すると廊下を通り抜ける二人の影を見つける。
「いたぞ!」
仲間に伝え、逃走した二人を追跡する。
そのころ、イヴリンの班にもダニーの通信が入る。
「現在4階!上階に向かった!」
「みんな聞いたね、急ぐよ!」
イヴリンが4階へと急ぐ。
廊下の角を曲がったあとに二人の影を見失う。
だが、わずかな気配を頼りに意識を集中させる。
すると死角から襲い掛かる一人の影。
その人物は俺に攻撃を仕掛けながらもう一人の影に向かって叫ぶ。
「ウィル!行け!!」
「ビ、ビル…!!」
「行け…!!」
もう一人の影は俺に攻撃を仕掛けてきたやつに背を向けて走り出す。
俺はその様子をみて、かつてのアンドリューとの記憶を思い出していた。
ここは俺が引き付ける!ダニー!先に行け!!
アンドリュー!
「お前の相手は俺だー!!」
相手の声で古い記憶から現在に引き戻される。
よく見ると俺に襲い掛かった相手はまだ10そこらの少年だった。
「(コイツらが…)」
だが、相手が少年と言えど反政府組織の一員であればやることは一つ。
正義を執行するしかない。
俺は拳銃を取り出す。
その頃、ダニー率いる班がいる4階へと到着するイヴリンの班。
「いたぞ!」
そこに先ほどダニーを襲った少年が逃がした少年が走り去るのを目撃する。
イヴリンの仲間が発砲する。
「それはダメ!」
イヴリンが咄嗟に仲間の腕を振り払う。
仲間が発砲した銃弾は逃げる少年の肩をかすめる。
「うッ…!!」
少年は肩を負傷するもなんとかその場から逃げる。
イヴリンに邪魔された仲間はイヴリンを怒鳴る。
「何をする!?イヴリン!!」
「見えたでしょ!相手は子供だった!」
「それでも反政府組織の人間だ!追うぞ!」
他の仲間が逃げた少年を追いかける。
「こちら2班!現在逃走中の少年を追跡中!」
通信の音声が廊下に鳴り響く。
「了解した。1班は2班の援護を頼んだ。」
手短に通信を終えて俺は拳銃を握る手に力を込める。
「投降しろ、WATCH。」
俺は目の前の少年に警告する。
少年は俺と拳銃を目にし、明らかに動揺している。
だが、それでも少年は俺をこの先へは行かせないと言わんばかりの強い眼差しをしていた。
「う、うるせぇー!!」
少年は走り出す。
明らかに俺たちが突入してから時間がなかったのだろう。
何の武器も手にしていない。
無策のままに目の前の俺に立ち向かっていく。
近づいてきた少年の攻撃を防ぎつつ俺は彼を蹴り飛ばす。
「うぐッ…!!」
少年が立ち上がる前に発砲をする。
銃弾はあえて外したことで、少年の頬を横切る。
少年の動きが止まった。
目の前の相手に勝つ術なしと判断したのか、すでに彼の身体からは力が抜けていた。
「本部まで来てもらうぞ。」
俺は少年を捕らえる。
H.U.N.T.E.R本部に到着後、俺は少年の取調室へと連行する。
マジックミラー越しで静かに待つ少年を見つめる。
「おつかれ、ダニー。」
「あぁ。」
イヴリンが部屋に入ってくる。
報告によるともう一人の少年はあのまま逃亡を許してしまったらしい。
「私が…」
「あぁ、聞いている。仲間の邪魔をしたらしいな。」
「…。」
イヴリンの心情は理解している。
今回の任務対象だったWATCH。
まさか少年が企てていただなんて考えもしなかっただろう。
これまで多くの犯罪者たちを取り締まってきたが、近年ではあの年でここまでのテロ行為を発生させてきた例はない。
イヴリンや他の仲間たちも決して穏やかな気持ちではないだろう。
俺はイヴリンにあの少年の資料を渡す。
「次はヘマをするなよ、少年でも相手はすでに何件ものテロを起こしている。」
「…わかってる…」
イヴリンは資料を手にして、少年の取調室に入る。
少年はイヴリンを見ると少し怯えた表情をしながらも威嚇をするように睨みつけていた。
まるでスラム街時代の俺やアンドリューを目にしているようだった。
イヴリンは資料に記載されている少年の情報を読み上げる。
ビル・ニコルソン。
13歳、セントラルエリア出身。
11歳まで連合国管轄の教育機関に在学するも両親の事故死による学費滞納により除籍処分。
その後はイーストエリアで盗みを犯して生活、何度か捕まっているみたいだね。
「だから何だってんだよ…」
自分のこれまでの経歴に関してはこれといった自慢や誇りなどには思っていないようだ。
このくらいの年で犯罪を犯した者は、反政府組織の真似事で犯罪に手を染める連中ばかりだ。
それよりは幾分かマシには見えた。
「君のお友達についてなんだけど…」
「俺は何も言わねぇぞ!」
ビルはイヴリンに激しく突っかかる。
イヴリンは冷静に資料をめくりながら話を続ける。
ウィル・ハワード。
13歳、イーストエリア出身、孤児。
11歳からネットハッキングやサイバーテクノロジーに精通、これまでの犯罪件数は…
「もういいって!!」
ビルが声を上げる。
「お友達の経歴を読まれるのは嫌い?」
「…。」
「ねぇ、聞いて。いま言った情報はあんたが私たちと出会ってから入手した情報よ。」
イヴリンは資料を閉じ、ビルの目を見ながら口にする。
「あんたのお友達の名前と顔、それだけでここまでの情報は入手できる。
とてもじゃないけど、お友達は逃げきれないと思うよ。」
「…。」
「お友達はどこ?あんた達は次に何を仕出かすつもり?」
「答えない…」
「どうしても?」
「ウィルはやり遂げる!お前たちにはどうなろうと言うもんか!」
イヴリンとWATCHの少年ビルとの会話を聞き続ける。
ビルの仲間…
いや、親友を思う気持ち見て、俺はかつてのアンドリューを重ねていた。
俺たちでやりとげようぜ!ダニー!
俺がいるかぎりお前の背中は守る!だから俺の背中も頼むぜ!ダニー!
同じだ…。
今目の前に見えるあの少年は、あの頃のアンドリューと同じ。
仲間のため、自分を犠牲にできるほどの強靭な精神を持っている。
「だとしてもあんたのお仲間はこのままじゃ命を落とすことになるよ。お願いだから私たちに何を計画していたか教えて。」
「ウィルは絶対に"お前ら"の闇を明かしてくれる!」
「お前ら…」
俺はビルの発言を聞いて、取調室に入る。
「ダニー…?」
「イヴリン、交代だ。」
「お、お前は…!」
ビルは俺を見ると怯えた表情を見せる。
おそらく連行された際の記憶が蘇ったのだろう。
だが、以前とビルの瞳には強い抵抗の意思が見える。
「WATCH、お前らの目的は他の反政府組織と同様、政府に対する攻撃だな?」
「…。」
ビルは俺の発言に黙り込む。
「…だが、これまでお前らのテロ行為には死傷者は誰一人出ていない。テロによって被害を受けているのは政府管轄の建造物や技術ばかり。」
「それって…」
イヴリンも何かに気がついた様子を浮かべる。
「あぁ。お前たちは政府が抱える重大な"何か"を知っている。そして今回はそれを使ったテロを起こす気だな?」
「…!!」
ビルの表情が大きく動く。
そしてビルは俺に向かってこう発言した。
「そこまで…そこまで知ってて、なんであんたは政府の犬に成り下がれんだよ…」
「…。」
…政府の犬か。
今のお前にも俺はそう見えるんだろうな。
アンドリュー。
「自分の正義を信じたからだ。」
「…!!これが!あんたの…」
「俺もお前くらいの歳には世界の闇くらい理解していたさ。だがな、ビル。世界はお前が知っている以上に闇は深い。
闇に深入りするな、じゃないと自分の大事なものすらも守れなくなるぞ。」
「…。」
ビルが俺の発言から何かを察し、理解し始める。
ビルの視線が、わずかに揺らいだ。
だが、唇は固く結ばれている。
「…あんたは…どうだったんだよ…」
「なに?」
「その様子じゃ…あんたも闇に深入りしたんだろ?」
ビルの発言を聞いて俺はよりアンドリューとの面影を重ねる。
まるでお前のような言い返し方だ。
「…ビル、俺も昔は反政府組織にいた。」
「!!」
「そこからこっちに来てなお、今の立場で言える。“本当の敵”を間違えるな。
闇を暴くのは正義かもしれないが、その方法を間違えれば、正義はただの復讐になる。」
「でも…!」
ビルの声が上ずる。
その目には迷いと怒りが入り混じっていた。
そして、しばらくの沈黙の後、ビルが口を開く。
「俺が…ウィルに教えたんだよ…」
「何をだ。」
ビルは静かに涙を流しながらこちら見た。
その表情は怯えや悲しみによる涙ではない。
憎しみだ。
それは俺を通して世界、いや政府に向けての感情だろう。
「俺の両親は歴史研究家だった。」
ビルは話を続ける。
父さんはあの世界的著名な考古学者、ウィルフォード・G・ウィザースプーンの弟子だった。
母さんはセントラルエリアで教師をしながら、父さんの研究の手伝いをしてた。
三人で食卓を囲んでいた夜、俺は父さんの研究について尋ねた。
父さんはある仮説を昔から提唱してた。
”人類が謳歌するはるか昔に繁栄していた高度な文明人が存在していた”と。
だけど、それを信じる人は師のウィルフォードだけだと言ってた。
父さんはその後も自分の仮説を人々に信じてもらうために研究に明け暮れた。
そして、父さんはあるものを発見した。
それを知った翌日、俺の母さんと父さんは家に帰ってくることはなかった。
「そんなこと…資料には記録されて…」
「当たり前だろ、お前らが隠したいことなんだからよ。」
俺は驚愕の事実を聞き、平静を装いつつ、ビルに質問をする。
「…それを…ウィルに教えたのか?」
「あぁ。アイツは俺と会った時から政府の闇をいろいろ知ってた。怒ってたよ、それを聞いてな。」
「だが、仮にお前の言っていたことが事実だとして…それを聞いた両親が消されてなぜお前だけは生きている。
お前の両親が亡くなったのは2年前、その間、政府から逃げきれるとは思えない。」
「当時の俺は父さんの仮説しか聞いちゃいねぇよ。
俺が知ったのはウィルのハッキング技術で政府のデータバンクから盗んで知ったんだ。」
ビルは、ふと黙り込んだ。
視線を床に落とし、何かを噛み締めるように唇を引き結ぶ。
「……ウィルは、俺の過去を全部知ってる。」
重い声だった。
俺は一瞬まばたきをして、ビルの言葉を待つ。
「両親のことも、政府に何をされたかも。何を信じて、何を失ったのか……全部」
ビルは、そこで息を止めたように言葉を切る。
「……でも、それを知ったウィルの目は憎しみに燃えてた。…まるで俺のために、何でもやりそうな目をしてた。」
ダニーの眉がわずかに動く。
「ウィルは、親友ってだけじゃない。俺にとっては……家族だ。唯一、残ったものだ。」
声が震えていた。
怒りでも、悲しみでもなく、それは祈りに近いものだった。
「……あいつが、俺の痛みを背負おうとしてる。自分の手を汚してまで、俺の過去を正そうとしてる。
だけどそれって、本当に正しいのか……わからなくなった。」
ダニーは言葉を探しながら、ゆっくりと口を開いた。
「……ウィルを止めたいのか?」
「違う。ただ……」
ビルは深く息を吐いた。
「俺は…ウィルを失いたくない…」
短い沈黙のあと、ビルはまっすぐ俺を見据えた。
「あんたは、正義のために、どれだけのことを抱えてきた?
その手で誰を守った?……誰を見捨てた?」
ダニーはわずかに目を細める。
「わからない、いまだに。……でも、止めなきゃいけない奴がいる。そう思えるようになった。」
ビルは笑った。
短く、乾いた笑いだった。
「ウィルは、セントラルエリア繁華街の地下にいる。地下には廃墟になったデータ施設がある。ウィルはそこにいるはずだ。
あいつの計画は……政府の監視ネットを乗っ取って、内部のリアルタイム映像と通信を、世界中に配信することだ。政府の膿を、全部、曝け出してやるつもりなんだ。」
「一人で?」
「仲間はもういない。……けど、あいつなら、やりかねない。」
ダニーは静かに頷いた。
その目には、決意と僅かな迷いが混ざっていた。
「ビル、お前も現場に来てもらうぞ。」
ビルは俯いたまま、何も言わなかった。
「いくぞ、お前たちの正義を守るためにも。」
「彼が話した情報は以上です。」
俺はヴィヴィアンに取り調べでビルから得た情報を伝える。
「なるほど。…よし、お前はイヴリンと現場に迎え。
こっちはネットセキュリティの強化とエリアを厳重に見回りする。」
「わかりました。」
「…それともう一つ。」
ヴィヴィアンが俺を呼び止める。
「今回の件は政府に対する極めて危険な反逆行為だ。
対象は見つけ次第、始末しろ。」
「…承知しました。」
「部下はまだお前のことを信用していない者も多い。この件で仲間にお前の正義を証明しろ、ダニー。」
俺は現場へと向かう。
車の後部座席にビルを乗せ、ウィルのいるデータ施設まで案内をしている中、ビルは不安な表情を浮かべる。
それをミラー越しで確認した俺はビルに問う。
「ウィルが心配か?」
「…あぁ。」
「あんたにお友達の居場所を案内させた理由は私たちに嘘ついているかの確認だけじゃないよ。」
イヴリンが口にする。
「私たちの仕事はウィルの計画を止めること。けど上からはすでにウィルの抹殺命令が出ているの。」
「そんな…!!」
「だが、それはウィルが計画を実行した場合だ。お前がいればまだ止められるかもしれん。」
俺がビルを落ち着かせるように口にする。
だが、ビルの表情はさらに曇り続けた。
「でも…それじゃ…俺たちの正義を……」
「ビル、次の指示をくれ。」
俺はビルの気持ちにフタをするかのように現場への道を尋ねる。
「ここだ。」
繁華街へと到着した俺たちは車を降りる。
「イヴリン、車を見張れ。」
「ダニー、あんたは?」
「俺はこいつと地下へ向かう。」
俺はビルに手錠をかけたまま、地下のデータ施設へと向かう。
廃墟も同然の廃ビルの階段下ると、地下に大きな空間が広がっていた。
「ここは…」
「俺たちのが根城にしていたんだ。」
そこはかつて政府がデータの機密保持に利用していた施設だそうだ。
表上では繁華街のデパートということになっていたが、地下には政府の人間が民間には伏せておくべき情報を管理していたようだ。
「こんな場所が…(ストレンジャーにいた頃でも聞いたことがなかったな…)」
しばらくビルの案内で地下を歩き続けると、明らかに改造された痕跡のある空間にたどり着く。
「ここか?」
すると足音が聞こえてくる。
「ビルか…?」
「ウィル…!!」
ビルは声のする方向へ歩き出す。
「よかった無事で…!」
「お前こそ…!そのケガは大丈夫か?」
ビルはウィルの肩にある傷を指さす。
おそらくイヴリンが仲間の発砲を邪魔した際に受けた傷だろう。
ウィルはビルの背後にいる俺に気が付く。
「なんでH.U.N.T.E.Rのやつが…」
「聞いてくれ…ウィル。」
ビルはすぐに現実に引き戻されたかのような表情へと戻り、ウィルに話しかける。
だが、ウィルの表情は曇っていく。
俺は静かにホルスターに手をかける。
「ウィル、この計画は……もう止めにしよう。」
「は……?」
「このままじゃお前が殺されちまうんだ…!」
「…ビル、言ったじゃないか…俺たちの正義を正そうって…」
「あぁ、けど…」
ウィルがビルを突き放す。
「死ぬのなんて怖くない…!!
そうやって怯えてみんな目をそらしてきた…!!だから…誰かがやらなきゃいけないんだろ…!!」
「ウィル、俺の話を…」
「ビルの親だってそうだ!ただ世界を解き明かそうとして政府に消された!!
その事情を知っている奴は同じく消されるか、黙り続けることを強いられている!そんなのが正しいわけない!!」
「そんなのは俺だってわかってる…!!」
地下空間にビルの声が響く。
「俺だって正したい…この腐った世界を牛耳るあの連中の悪事を…
けど…俺にはお前だけなんだ…お前しか…」
ウィルは乾いた笑みを浮かべる。
そして自身の懐からあるものを取り出す。
俺は銃に指をかける。
「…裏切ったやつに言われてもな。」
ウィルは手に持った装置を起動しようとする。
だが、俺の発砲した銃弾はウィルの装置に着弾する。
破壊される装置。
「これ以上動くな。」
ウィルに銃を向ける。
だがウィルは俺を空虚な眼差しで見つめる。
「もう遅い。」
するとイヴリンから連絡が入る。
「ダニー…!…聞こえる…マズい状況になったよ…!」
イヴリンから送られてきたのは繁華街の広告塔、そしてネットに映し出された映像だった。
「これは…」
そこには、これまで政府が隠してきた闇が映し出されていた。
裏金の取引を行う政府の役人、
過去にH.U.N.T.E.Rや対O.S特殊部隊が誤って民間人を射殺している様子、
民間人を実験体としてサイバーインプラントを移植している記録、
反政府組織と政府の人間が秘密裏に取引をする様子、
どれも映像や記録として見るのは初めてだった。
そんな映像がこの繁華街の中心にセントラルエリア全域に広まりつつある。
「これって…ウソだろ…」
「いや、また犯罪者たちのイタズラだろ。」
「でもそれにしちゃ、随分と映像がリアルじゃねぇか…?」
街中が混乱に陥る。
その隙に乗じてウィルは逃走する。
「チッ…!マズい…!!(あの装置は破壊されると起動するタイプか…!)」
街中では次々と政府の闇が公に晒され、はやくも政府に反感を示す民間が暴動を起こし始めている者もいた。
その様子をH.U.N.T.E.R本部で静かに見つめるヴィヴィアン。
「WATCH…やってくれたな…」
ヴィヴィアンはある人物に連絡をする。
ウィルを追う道中、俺は自分に課せられた選択が脳裏によぎる。
ウィルは、親友ってだけじゃない。俺にとっては……家族だ。唯一、残ったものだ。
俺は…ウィルを失いたくない…
今回の件は政府に対する極めて危険な反逆行為だ。
対象は見つけ次第、始末しろ。
わからない…
どの正義を選択するべきか。
すると数機のドローンが襲い掛かる。
「…!!」
ドローンから放たれた銃弾をなんとか避け、身をひそめる。
「政府管轄のドローン…」
ウィルはあの年ながらに高度なハッキング技術を持つ。
おそらくネットや地上の繁華街に政府の機密映像を流出させたのも彼一人で成しえたのだろう。
ドローンは空中に滞空し、俺の様子を伺っている。
地上との通信も途絶えた。
じきに別の班がここに到着する。
そうすればあの二人は…
「クソッ…面倒だな…」
ウィルは地下のデータ施設の最深部でタブレットを手に持つ。
タブレットの画面にはビルの両親と政府が話している映像が映し出されていた。
「これをみんなに知ってもらえれば…」
ウィルはタブレットを操作する。
すると20%という文字が表示され、データがダウンロードされる。
俺はガラス片を宙に投げる。
ドローンはガラス片に反応し攻撃を仕掛ける。
その隙に一機のドローンに正確な射撃を行い破壊する。
もう一機のドローンが俺を見つけ、攻撃を仕掛ける。
「(マズい…!)」
身を隠す場所がなく、万事休す…
かに思えたが…
「ビル!」
突如、俺の前にビルが立つ。
するとドローンはビルを認識し、攻撃をやめる。
その隙にドローンを破壊し、事なきを得る。
「助かった、ビル。」
「ここのドローンは俺には攻撃できない…」
そう言うビルの表情は悲しみにあふれていた。
親友であり唯一の家族であるウィルを止めることができなかった。
それと同時に自分たちの掲げた正義を実行に移そうとするウィルを完全に否定することもできない自分がいた。
俺はビルに手を差し伸べる。
「いくぞ、ウィルのもとへ。」
ビルは小さくも強く頷いて俺の手を取る。
地上で待機するイヴリンのもとにヴィヴィアンや他のH.U.N.T.E.Rが到着する。
「ダニーは?」
「まだ中に…」
「よし、他の者はこの施設を囲め。
施設内には|E.R.A.S.E.Rを向かわせる。」
「E.R.A.S.E.R!?で、ですが隊長!まだ中にはダニーが!」
「あぁ、だが事態は想定以上に深刻だ。突入は5分後だ。」
「(ダニー…)」
ようやくデータ施設の最深部にたどり着いた俺たちはウィルのもとへ急行する。
「ウィル!!」
「ッ!」
ウィルの手に持つタブレットにはダウンロード率89%と表示されていた。
おそらくさらなる政府の闇に関する何かしらのデータを送信途中なのだろう。
「じきに別動隊がここに突入する、諦めろ。」
「いやまだだ!あと少しなんだ!」
俺の発言を聞いてもなお、ウィルは止まる様子などなかった。
ウィルは施設に眠るドローンを起動させ、俺たちに差し向ける。
ビルが俺の前に立ち、ドローンを無効化しようとするも複数のドローンは俺を囲むように動く。
「これじゃ…!」
「やはり、あれを破壊するしかないな。」
俺はウィルの持つタブレットを見つめる。
先ほどの装置も破壊された瞬間に起動した。
おそらくタブレットにも同じようなプログラムが施されているに違いない。
俺はドローンの攻撃を掻い潜りながらウィルに接近する。
ダウンロード率95%
タイムリミットが刻々と迫る。
ウィルがテーブルに置かれた拳銃を俺に向ける。
ダウンロード率98%
発砲された銃弾は俺の頬をかすめる。
俺はウィルを蹴り飛ばし、タブレットを手放させる。
俺がタブレットを操作しようと試みる。
しかし、
「ッ!」
一発の銃弾が俺の腹部に命中する。
タブレットを床に落とす。
ダウンロード率99%
「ウィル!!」
ビルがウィルを取り押さえる。
「バカ野郎!!」
「これでいいんだよ!!これで…お前のご両親が受けた真実も…政府の裏で動く”やつら”が明るみになる!!!」
ダウンロード率100%
タブレットの映像がネットに送信される。
繁華街の広告塔の映像が切り替わる。
ヘンリー・ニコルソン、お前がなぜここにいるか理解しているか?
私のことはいい!それよりも妻は!?無事なのか!?
質問をしているのは我々だ、お前じゃない。質問に答えろ、ニコルソン。
「これって…(ビルの父親…)」
イヴリンは映像をみて、取り調べの資料に記載されていたビルの両親の写真と今目に映る映像の人物が同一人物であると理解する。
そして同時にビルが発言していたことを思い出す。
「(ビルの話じゃ父親は…)」
「ッ!」
この内容を聞いていたヴィヴィアンに焦りの表情をうかべる。
「E.R.A.S.E.R!!今すぐ突入を開始しろ!!」
映像が続く。
わ、私は歴史研究家だ!ただ、世界を明かすべく研究を進めていただけだ!
その研究に問題があると言っている。
古代人の存在にか!?なぜ、君たち政府がそこまで私の仮説にこだわるんだ!
お前が見つけたのはそれだけじゃないはずだ。
「ダメだ…ウィル…俺はお前を死なせたくない…」
「…。…もう目的は果たした。殺したきゃ殺せよ。」
ウィルはそう言って俺を見る。
俺の手には銃が握られている。
銃をウィルに向ける。
ビルが涙を流しながら小さく嘆く。
「俺は……お前と一緒にいられれば…それで…いいのによ……」
一発の銃声が部屋に響く。
ッ!まさか…お前たち…知っていたのか………
ネットや地上の繁華街に流れる映像が途切れる。
「映像が…止まった…」
突如、映像が止まりだした。
「隊長!」
H.U.N.T.E.Rの者が施設を指さしながらヴィヴィアンを呼ぶ。
その先には…
「ダニー!」
イヴリンが俺に駆け寄る。
「その傷、けっこう無茶したね。」
「まぁな。」
「ダニー。」
ヴィヴィアンが俺に声をかける。
俺はヴィヴィアンに近づく。
「WATCHは?」
それを聞いて俺は地下のデータ施設のことを思い返す。
一発の銃弾はタブレットに着弾する。
するとタブレットは機能を停止しはじめる。
「なっ…」
「お前がそれを破壊されないよう必死になっていたから気が付いた。
そのタブレットには破壊されたら起動するプログラムがされていなかったんだろ?」
「…。」
「ウィル…」
「お前も正さなきゃいけないとわかっていながら、本当は誰かに止めてほしかったんだろ?」
俺はウィルの心情を口にする。
ウィルは静かに涙を流す。
俺はウィルの肩に手を置き、こう口にした。
「その選択は間違っちゃいない。お前の正義は正しい。」
「……。…ありがとう…。」
ウィルはどこか救われたような表情を浮かべる。
ビルが地上へと繋がる裏口に目を向ける。
「行け、あとは俺が何とかする。」
「で、でも…」
「お前たちは自分の正義を貫いたんだ。
俺にも自分の正義を貫かさせてくれ。」
「…。」
ビルとウィルは無言で去る。
だが、その表情には出会った時とは違い、迷いのない澄んだ表情をしていた。
場面はヴィヴィアンとの会話に戻る。
俺は…
「どちらも地下施設で排除した。もうWATCHなんて組織は存在しない。」
「そうか…それはよかった。」
ヴィヴィアンが部下に合図し、救護班を呼ぶ。
「よくやった。”正義の番人”」
そう俺に言い残し、ヴィヴィアンはその場を去る。
後日、今回のテロ計画は反政府組織が高度な技術を用いて生成した嘘の映像であると報じられた。
そして、その主犯格である二人の少年は取締り、テロはさらなる被害の拡大が進む前に鎮圧したと。
国民にはその報道を信じる者、政府に対し疑念を感じる者で二極化されたが、これ以上のことは何も起こらなかった。
その報道をテレビ越しで眺める人物。
「ねぇ、アンドリュー。この報道についてどう思う?」
「別に?世間なんてこんなもんだろ。
誰かが火をつけた時は暴れまわるくせに、数日も経ちゃ何事もなかったように生活すんだからよ。」
「へぇ~アンドリューにしては珍しい。そんな堅いこと言うんだね。どっかの誰かに似ちゃった?」
「う、うるせぇ!いいから俺たちは俺たちでやることあんだろ?行くぞ、エヴァ。」
「はいはい~
ねぇ!そういえばレヴァリィ世界でヘーロスさんが会った子!
あの子リアムと同い年らしいよ!リアムと仲良くしてくれるかな~」
「ックション…!」
「へぇーダニーってそんなくしゃみするんだ。」
「…運転に集中しろ。」
「誰かがあんたのこと噂でもしてたんじゃない?」
「いいから。」
今回のWATCHが巻き起こしたテロが終わった後、俺は普段通り犯罪を取り締まる。
あのようなテロが数日前にあったにも関わらず、この世界は何も変わっていない。
だが…
世界の闇が明るみなったのは事実だ。
真実の一部が民衆に届いたんだ。
それもたった二人の少年が。
あの二人はやり遂げたんだ。
自分の正義を世界にぶつけ、家族を守り抜く決断の両方を。
それは無駄なことじゃない。
確実に希望の火は繋がる。
かつての俺たちにはできなかった。
だが、互いの正義の在り方は違えど、世界を正すという目的は同じはず。
俺たちにもあんな結末があったかもしれないな、アンドリュー。
それでも、俺は俺の正義に従っていくだけだ。
それがたとえ正しき道でなくとも、世界を善へと導くはずだから。
完。
ハァ……ハァ……ハァ……ハァ…!!
「はやく!…急ぐぞウィル!!」
「これをあの人に送らないと…!」
「ウィル!!!!」
「ゴフッ……ビ…ル……逃…げ…て…くれ……」
「そんな…!!…ウィル…!!」
「もしかして…君たち、身近な人が死ぬの初めて?」
「テメェ!!!」
「俺は君たちの歳くらいに…母さんを失ったよ。」
「お…前……何モン……だ…よ…」
「俺は…ただの殺し屋だよ。」
「ぁ…ぁあ……ウィ…ル……」
「悪いね、君らがその映像を知ってるのは危険なんだよ。」
ヘンリー・ニコルソン、お前がなぜここにいるか理解しているか?
私のことはいい!それよりも妻は!?無事なのか!?
質問をしているのは我々だ、お前じゃない。質問に答えろ、ニコルソン。
わ、私は歴史研究家だ!ただ、世界を明かすべく研究を進めていただけだ!
その研究に問題があると言っている。
古代人の存在にか!?なぜ、君たち政府がそこまで私の仮説にこだわるんだ!
お前が見つけたのはそれだけじゃないはずだ。
ッ!まさか…お前たち…知っていたのか…”T.Z.E.L”の存在を…
…闇に深入りしすぎたな、ニコルソン。