表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

Angel wish for Peace ~継承される呪い~

これはハイド本編と同時刻に起きた物語の記録である…


この世の幸せを願って、この世の平和のために…


ウリエルとしてアロガンティア特務機関の天使を全うする日々。


そんなルークが見てきた平和、そこにはいつだって秘宝が中心にいる。


だが、それはかつて平和を願う少年が夢見た世界とは程遠い呪われた平和だった。


平和を愛した天使が見る世界が明らかとなる。

天使とは神の使い。


神の伝言を7大国の民に伝えること、


それこそが天使の役目。






俺は平和を愛していた。


平和を築き上げるべく、神の使いとなり平和への実現に向けて歩み続けた。



だが、この世界には…






偽りの平和だけが広がっていた。






”第一次リヴィディン大国侵攻”


クヴィディタス大国によるリヴィディン大国の領土侵攻計画。


休戦状態にある両国の争いの要因となったのは”10の秘宝”を所持した青年だ。


だが、その裏には俺たちアロガンティア特務機関とクヴィディタス大国の王、ジャック王の取引によって侵攻計画はクヴィディタス帝国軍の全軍撤退という形で終結する。


ヘーロス・ベルモンテの無力化を提案し、成功した暁には秘宝の副産物”奇跡と破滅の種”をジャック王に献上すること。


これにより両国にはこれ以上争いが激化することはなくなった。



秘宝によって争いが生まれ、秘宝によって平和を生む。



この世界の課せられた運命さだめだ。







俺は今日も世界に広がるその光景を目にしながら己の任務を遂行する。



今もまさに聖騎士団と秘宝を手にした傭兵が特級テロスと対峙している。



「様子はどうですか?ウリエル。」



俺に声をかける人物。


アロガンティア特務機関のひとりミカエルだ。



俺の任務は真理の神秘ダブマの所有者となった青年ハイドの秘宝を獲得すること。


だが、特級テロスの出現によりその任務を遂行するこが困難だと判断した俺は戦況を見守る選択をした。



「どうやら…決着がついたみたいですね。」



ミカエルがそう口にした先には特級テロスを撃破することに成功した聖騎士団と傭兵の姿があった。



「まさか…たった二人でゴーレム型を撃破するとは…」


「”例の青年”は姿を消したが、暴虐の縄エレフィリアロープの所有者がいる。あの秘宝を代わりに…」


「いえ、今回はここまでです。ウリエル。」


「…なぜだ?」


「あの男には少し気になる噂がありましてね…

疲弊しているとはいえ、今ここで無策に仕掛けるのは得策ではない。」


「…承知した。」


「問題ありません。

あなたに落ち度はない、王には私から報告しておきます。」



そう言って姿を消すミカエル。



俺はゴーレム型の特級テロスを撃破した聖騎士団と傭兵を後にアロガンティア大国へと帰還する。






「へぇ~…それは残念。

初めてじゃない?君が単独での任務を失敗したのって~…」


「お前に言われるのはなぜか頭に来るな…ラファエル。」



任務を終えた俺に任務の経緯を尋ねるのは、同じくアロガンティア特務機関のひとりであるラファエルまたの名…



「だ~から~…ウォルターだって~…

ちゃんと本名で呼んでほしいな~…」


「俺たちはアロガンティア特務機関だ。

それぞれ与えられた名で呼ぶのが規則だ。」


「はぁ…真面目だな~…」


「規則は規則だ。

お前と違って俺は王や王女に忠誠を誓っている。」



ラファエルを退けて立ち去ろうとする。


その時だった。



「へぇ~そーなんだ…

でも僕は知ってるよ~…ルーク、君は嘘をついているね…」


「…。」



ラファエルの見透かされた発言を俺は無視してその場を立ち去る。






数日後、ジョージ王からとある任を俺は受ける。



「数日前、この国に少し厄介な問題が起きてな。」


「俺たちがクヴィディタス大国へ向かっていた時に起きた”例”の件ですか?」


「さすが、耳が早いな。」



俺たちがアロガンティア特務機関としてクヴィディタス大国へと向かっていた頃、アロガンティア大国ではある問題が発生していた。



それはとある村を襲った1級テロスから始まる。


その1級テロスはクヴィディタス大国からアロガンティア大国へやってきた感染型のテロスだった。


傷口から致死性のウイルスを放出する厄介なテロスだったが、アロガンティア大国の兵との戦いでなんとかそのテロスを倒すことには成功した。


だが、その戦いにより、村人に感染したウイルスはたちまち他の村人へと感染し、僅か数日でその村の人間はたった一人を残し死に追いやられてしまった。


そして生き残った村人は現在、王都で保護下に置かれている。



「保護下?」



俺はなぜ、その人物を国の保護対象としているのか疑問に思った。


するとジョージ王は口を開く。



「その男もそのテロスのウイルスに感染している。それも少し特異な状態でな。」


「特異な状態…」


「ウリエル、お前の任務はその男の護衛だ。」


「なぜ俺が?護衛任務であれば他の兵に任せても…」


「…その者に会えば、お前はこの任務を断ることはしないはずだ。」


「…承知しました。」



俺は王宮を出て男のもとへ向かう。



王都の保護下に置かれた民家に入る。


そこで俺は村で唯一生き残ったとされる男に出会う。



「…!!」


「あ、あなたは…」



その男を見た俺は驚愕した。


全身に血まみれの包帯を巻かれ、左手と両足は欠落している。


巻かれた包帯から唯一見える片目からは消えそうな瞳がこちらを覗いている。



だが、俺が驚愕した理由は他にもあった。



「マルクス…」


「なんで…俺の…名前を…」



忘れもしない。



俺はここで王がなぜ、この任務を俺に任せたのか理解できた。



目の前で瀕死の重態となっている男は俺の幼いころからの親友だったからだ。



「…王から預かった報告に記載されていただけだ。」



俺は動揺を仮面の内に隠し、マルクスの隣に向かう。


なるべく彼の負担とならないよう彼の視界に入るように。






俺はマルクスからことの経緯を尋ねた。



マルクスは元はグラ大国出身の村人で幼い頃にアロガンティア大国にやってきた。


アロガンティア大国の小さな村でマルクスは両親と平凡で幸せな生活を営んでいた。



そんなマルクスの日常を奪ったのがあの事件だ。



村を襲った感染型1級テロスは速やかにアロガンティア大国の兵によって討伐されたが、1級テロスが亡き後もウイルスは村人を蝕み続けたそうだ。


感染者は皮膚が爛れ始め、次第に命を落とす。


だが、マルクスの爛れた箇所はある変化を起こし始めたそうだ。



「これは…」



マルクスは俺に右腕を見せた。


右腕の皮膚は変色し始め、変色した部位は人の腕とは思えないほど異形化していた。


それこそ…



「テロス…」



あり得ない。


テロスとはクヴィディタス大国とアロガンティア大国を中心に7大国に生息している異形の生命体。


それにテロスは進化の意慾エクセレクシによって人間が欲のままに異形と化した存在だ。


これまでにも感染型テロスは確認されているが、そのテロスの肉体から放出されるウイルスで感染者がテロス化した事例はない。



「感染部位は…広がる…だから…」



だから、マルクスは己の部位を切り取ることで延命していた。



俺はマルクスの姿を見て心を痛めた。


俺の知るかつてのマルクスは活気に満ち溢れた人物だった。


それが今は…



「あなたに頼みが…」



マルクスは俺を見ても俺が誰だかはわからない。


アロガンティア特務機関の人間は名も正体も明かしてはならない。


ここに来る際もおそらくアロガンティア特務機関の者が護衛に来るとだけ伝えられていただろうマルクスは、今自分の目の前にいる人物が幼い日の頃からの親友だったとは思ってもいないだろう。



そんなマルクスが俺の耳元で頼みを口にする。



「…あぁ、わかった。」



俺はマルクスを車椅子に乗せ、民家を出る。






俺とマルクスは王都の城下町を共に歩く。


周囲の人々はマルクスの姿を見て、哀れみの表情を浮かべているが、マルクスはそんなことすらも気にせず周囲の様子を目を輝かせて見ていた。


そんな中、マルクスが口を開く。



「あの…」


「なんだ。」


「ウリエルさんは…こういった…護衛任務は…」


「護衛任務は稀だ。

重鎮の護衛はミカエルの担当だしな。」


「なんで…俺…なんかに…」



俺はマルクスに自身の素性を見せないまま答える。



「それが、王の命令だからだ。」



するとマルクスはこう言った。



「あなた方のような…人が…俺たちの…平和を…守ってくれて…るんですね。」


「…。」


「俺の…親友にも…いたんですよ、

あなた方のように…平和を愛して…やまないヤツが。」



マルクスは少し懐かしむように口にした。



その親友と呼ばれる男はいつも他人ひとのことを気にかけて、みんなが平和になるように行動していた。


そして当時は大層なことを言うなとかバカにした時もあったけど、あーゆーヤツが世界には必要なんだと思った。



そうマルクスは口にした。



「…そうか。」


「アイツ…今…何してんだろうなぁ…」


「…。」



俺は感情を押し殺し、任務を続ける。


俺たちは王都を出て、隣町や他にもアロガンティア大国の町を巡り歩いた。



そしてある港町にたどり着くと、俺たちは宿屋に向かった。



ここは鎖国国家でもあるアロガンティア大国が唯一他国との貿易を交わしたり他国の者を招く際に使われる港だ。


俺はその港の先に広がる地平線を眺める。






古い思い出として蓋をしていた記憶が浮き上がる。



「ついたぜ!ルーク!」


「ここが…」


「あぁ!グラ大国だ!」



今から10年前、俺はマルクスの故郷であるグラ大国へと訪れたことがある。


その記憶がなぜだが、呼び起こされる。



「すごい…きれいだ…」


「きれいなのは街並みだけじゃないんだな~」


「??」



そう言ってマルクスが指をさす。


その先には明るく街の住人に声をかける少女が歩いていた。



「ほら、そこにいるひと!あのひとはこの国の王女さまの妹さんなんだぜー」



美しかった。


俺と歳も変わらないくらいの子供なのにも関わらず。


だが、周囲を笑顔にするあの振る舞いを見て、俺はこの人こそが平和を体現した女性なのだと感じてしまった。



グラ大国は食に富んだ非常に美しい景観を持つ大国だ。


アロガンティア大国と比べて凶暴なテロスもいない。


町の人々も争うといったこともなく、ただ皆その日を幸せに生きている。



俺はそこで思った。



この国こそが俺の思い描いた平和を実現した大国であるのだと。






だが、



その平和が偽りの平和だと気が付くのに時間はかからなかった。






真夜中に鳥と木々の音だけが鳴り響く公園。


俺は心地よい春の風を感じながら休んでいた。



そこで、街の人々が列になって並んでいるのを発見した。



「あれは…」



俺は初めてグラ大国の王位が代々所持するとされる蠱惑の実キリアチアフルーツを目にした。


そしてそれを口にする者たちがグラ大国の住人全域に及んでいることも。



秘宝には前から興味があった。


アロガンティア大国にある古い書物を勝手に漁り、7大国に存在する秘宝の力を俺はこの年である程度は認知していた。



だからこそ、蠱惑の実キリアチアフルーツの危険性は十分に理解できた。



蠱惑の実キリアチアフルーツの所有者は秘宝を食した者の心情を全て把握することができる。



そして、この秘宝の味は非常に魅惑的ほどに味がすることから一度食した者は如何なるものであろうとその秘宝の虜になる。



この国の王女、ジュディ王女は国民にその秘宝を与えることで国民の心情を全て読み取り大国の統制をしていたのだ。



「そんな…」



秘宝によって作られた平和、その光景を見て俺は落胆した。



だが…



「お姉さま…」



秘宝による偽りの平和を見て涙を流す一人の女性。


それは先ほど街にいたジュディ王女の妹キャシィだった。



彼女は王女の前に並ぶ国民の列を身を隠しながら見つめてた。


その表情は姉である王女に対する憐れみと悲しみを見せていた。



俺は彼女のその涙を見たとき、



この世界に存在する秘宝が見せる偽りの平和に絶望した。



この日、俺の中にある平和の象徴が崩れたんだ。






グラ大国で目にした秘宝に支配された国民と王女、


それだけじゃない…



俺はアロガンティア特務機関のウリエルとして大国で起きている惨状を目の当たりにした。




平和とは程遠い己の闘争に身を任せた暴君が支配する大国



一人の愚王により国力の衰退が進みつつある大国



古い風習により決められた人生を歩むことを強いられた大国



先王が引き起こした争いを呪いとして背負うことを決めた大国



欲に支配し、この世界に怪物を生み出し続ける大国



神に焦がれ、全てを己が物にせんと暗躍する大国




一体これのどこに平和が存在する?



世界を知らない少年は平和を願ったが、平和を実現することがこれほどまでにも困難だとは知る由もなかった。



秘宝と複雑に絡み合った今の世界に平和を生み出すには…





秘宝を破壊するしかない。






「ウリエル…さん…」



か細い声で俺に声をかけるマルクス。


俺はマルクスの顔に耳を近づける。



「俺はこの先どこに…」



俺はマルクスを数日の間護衛することが任務。


護衛が完了した後には…



「お前は王都で治療を受ける。

そのために王は各地の名医や専門知識を持つ者たちを招集しているところだ。」


「そう…ですか…」



マルクスは少し思いつめた表情を浮かべる。



「護衛はまだ二日ある。それまではお前の頼みを尊重しよう。」



俺はそう言うとマルクスをベッドに寝かしつけ、部屋を出る。



マルクスの言った頼み、


それはアロガンティア大国の各地を巡ることだった。


元々各国を旅するのを夢見ていた奴だ、それが叶わなくてもこれまで巡ってきたアロガンティア大国を目には焼き付けたいのだろう。


俺は浅い眠りの中でマルクスとの思い出に浸りながら夜を過ごす。






翌朝、俺はマルクスと旅の準備のため、装備の点検をしていた。



「それ…は…」



マルクスは俺の剣に内蔵されているものを見つめる。



「これは秘宝の副産物、神秘の欠片だ。」



神秘の欠片はアロガンティア特務機関の者に一人ずつ与えられる。


そしてこの秘宝の副産物は欠片に情報が内蔵されており、それを放出することができる。



「回数も限られていて、放出したものをコントロールすることもできないがな。」



俺は神秘の欠片を剣から取り外し、新たな神秘の欠片を埋め込む。


マルクスはその様子を静かに眺めている。



「よし、準備はできた。いくぞ。」



俺はマルクスを車椅子に乗せ、宿屋から出る。



道中、マルクスが興味を持つようなものは全て立ち寄った。



町ごとに異なる食文化、街並み、人々、



どれもマルクスは穏やかな表情で楽しんでいた。



そして港町の宿屋から離れ、半日が経過したころ、



「あの…」



マルクスが俺に声をかける。



「なんだ?」



マルクスは俺の持つ地図に目を向ける。


俺はマルクスの意図を読み、地図を広げる。



「ここに…」



マルクスは指示した場所は、自分が住んでいた村があった場所だ。


だが…



「ここはすでに廃墟と化している。ここには何も…」


「お願い…です…」


「…。」



そこには何もないと知っていても自分の村だ。


それを承知の上でマルクスは訪れたいのだと俺は考えた。



「…わかった。」



俺はマルクスを馬車に乗せ、かつてマルクスのいたとされる村に向かう。






日暮れ時、ようやくマルクスのいた村へと到着する。



「ついたぞ。」



俺はマルクスを馬車から降ろし、再び車椅子へ乗せる。


あたりを見渡すマルクス。


すでにテロスによって壊された民家しか残っていないが、マルクスのためだ。


俺はマルクスの意思を尋ねる。



「もし、向かいたい場所があるなら…」


「……し…て…………さい…」


「なんだ?」



俺はマルクスに耳を近づける。



「殺して…あげてください…」


「なに?」



すると周囲に気配が複数存在していることに気が付く。



「!!」



俺は剣を構える。


すると廃墟と化した民家から禍々しい容姿をしたテロスが複数こちらを見ていた。


それも俺たちを囲むように。



「チッ…(囲まれた…)」



俺の任務はマルクスの護衛だ。


最優先事項はマルクスの身の安全。



俺はマルクスを速やかに馬車へと避難させるため行動にでる。


だが同時にテロスたちも行動を開始する。



俺は神秘の欠片に内蔵された水の情報を放出し、テロスたちを追い払う。


その隙にマルクスを馬車に乗らせて、俺は馬車と反対方向へ走る。



攻撃を仕掛けた俺の方へとテロスたちは走り出す。



「(よし、引き付けたな…あとは…)」



俺は剣を抜き、襲い掛かるテロスを斬りつけていく。


テロスはどれも2級クラス。


俺の相手ではなかった。



だが…



「これは…」



襲い掛かったテロスを全て倒した後、俺はあることに気が付く。


死骸となったテロスをよく見ると衣服のようなものを身に着けている個体、他にもまだ人間の原型が残っている個体がいた。



「(テロスが元人間なのは知っていたが…ここまで元の要素が残っている個体は初めてだ…)」



俺はマルクスの安全を確認し、すぐに隣町の宿にマルクスを預けた。


そして再び俺はあの村へと向かい、先ほどのテロスの死骸を見つけに戻る。



「やはりか。」



先ほど俺とマルクスを襲ったテロスたちに共通すること、


それは数日前、この任務を受ける際にジョージ王から受け取った資料に記されたこの村に住む村人たちの特徴と一致していた。



そして、死骸のテロスから採取した皮膚部分はまるで…



「マルクスの…」



これで決定的となった。


このテロスたちは全員、この村に住まう村人、つまり感染型1級テロスに感染した者たちの成れ果てだと。



「だが…王は…」



ジョージ王は、感染者はマルクスを除いてみな死亡した…そう俺に言った。






「クソが…。」






感染者はみな、この村に残されていた。


原因不明のテロスとして。



俺は剣を抜く。



周囲には息をひそめているが、たしかにこちらを見つめている複数の気配を感じていた。






翌朝、俺はマルクスを馬車に乗せ、港町に向かう。



「彼らは…」



マルクスが小さな声で口にする。



「昨夜、全て葬った。」


「そう…ですか…」



俺は昨夜、あの村に再び訪れそこで残存していたテロスと対峙したことをマルクスに伝えた。


マルクスは安心した表情とどこか悲しげな表情が混じったような眼差しで外の景色を見つめていた。



「彼らは…悪く…ない…」



マルクスは小さく嘆く。



「あぁ、わかっている…」



全ては秘宝が原因。



秘宝によってテロスが生まれ、


テロスによって村人たちは”テロスもどき”へと変貌を遂げた。



俺は静かに馬の手綱に力を込める。



秘宝の影響はすでにこの世界では無視することのできないほど強大なものと化した。



やはり秘宝は破壊すべきだ。



俺の秘宝に対する気持ちは益々高まる。






数時間して、港町に到着した俺たちは町から出航する船に乗船する準備を整える。



「準備はいいか?」



宿屋で支度を済ませた俺はマルクスに尋ねる。


マルクスは静かに頷く。



マルクスを港まで送り、俺は船を見つめる。



「ここで俺の任務は終了だ、あとは王都へ向かいお前を保護してもらう予定だ。」


「……。」



マルクスは特に表情を変えることもなく、船を見上げている。



「……この数日間の…旅はどうだった…?」


「……。」


「マルクス…」



俺は再びかつての活気のあるマルクスの姿を思い浮かべる。



「…楽し…かったよ…」



マルクスが小さくもしっかりとした声で口にした。


それを聞いた俺の表情は仮面の内で僅かにほほ笑んだ。



「…そうか。」



船にマルクスを乗せるとあいつが一つの手紙を俺に渡してきた。



「これは…俺からの…感謝の…気持ち…だ…」


「……。」



俺はその手紙を黙って受け取る。



マルクスが無事に船に乗ることを確認した俺は船員に合図をする。


船が出航する準備を始める。



船が港から徐々に遠のいてゆく。



俺は地平線の彼方で小さくなっていく船を見つめる。






マルクス、


お前は俺にとって、






「かけがいのない…親友だ。」











船が大きな音をあげ爆破する。



港に多くの人が集まり始める。



人々は爆破した船を見て慌て始める。




俺は地平線に沈みゆく船を見つめ続ける。



「これしか…ないんだ…。」



あの村でテロスもどきと化した村人、あれを見た時から確信してしまった。



王は、ジョージ王はマルクスを保護するつもりなどない。



全身に感染が広がりつつも、まだ人としての形を保てているマルクスをそのまま治療に専念させるほど王は寛容ではない。



秘宝の力を望むジョージ王のことだ、他国への対抗としてマルクスを実験体にして、兵器に転用する。



それを親友の俺が黙っているなんて…



「できない…」



震えた声で俺は仮面を取り外す。



静かに涙を流しながら、俺は膝をつく。




脳内で昨夜に船に仕掛けた爆弾、


そしてこれまでマルクスと過ごした記憶が蘇る。







「う…うああぁぁぁあああああ!!!!!」



ちくしょう!


ふざけるな!!


何が平和を愛すだ!


何が平和のためにだ!!


平和のためにこれ以上何を犠牲にしなきゃならないんだ!!




俺は泣き崩れる。






これまで天使を演じた青年は、ただ親友を手にかけた男として涙を流す。






日が暮れ、宿屋でマルクスの車椅子を見つめる。



涙はすでに乾いた。



だが、心に空いた穴は埋まる気配もなく、



俺は自らの喉元にナイフを当てる。



「天使を演じ続けるのも…限界だ…」



平和を実現するために、秘宝を破壊すべき。



それは理解している。


だが、俺も一人の人間だ。


感情を持った人間だ。



親友の命を自らの手で葬っても平常を保っていられるほど俺は非情になれない。



俺の選択であいつは命を落としたんだ。



もしかしたら、あのまま王都へ行った方が彼にとっては楽な死に方だったかもしれない。



あいつは穏やかにしていたが、あの傷、あの状態だ。



すでに人の形を失ったとしても昨晩俺に斬られたのはマルクスと同じ村にいた人たちだ。



あいつにはこの数日が辛かったに違いない。





あいつは俺にたくさんのものを与えてくれた。



この世界のこと、友情、そして愛情を。



俺にとってのかけがいのない親友である恩人をあのような形にしてよかったのか…




わからない…






その時、テーブルに置かれた手紙が目に止まる。


出航前、マルクスが俺に渡した手紙だ。






これは…俺からの…感謝の…気持ち…だ…






あいつはそう俺に言った。


だが、俺のしたことは…



一思いにと俺は手紙の封を開ける。











ルークへ



ごめんな、今の俺の状態じゃお前と面と向かって話すのもあの有り様だ。


だから手紙で気持ちを伝えさせてくれ。


護衛ありがとうな。


気が付いていたよ、


たとえ仮面を被ろうと、感情を押し殺そうとも。


長年お前といたんだ、お前の優しさに気が付かない俺だと思ったか?


まさかお前がアロガンティア特務機関の人間になってたのは意外だったけどな。


俺がこの先、王都でどのような扱いを受けるかはなんとなく理解している。


お前のことだ、どうせこの手紙を読んでいる頃には自分の行いに悔やんでいることだろう。


けど、心配すんな。


お前の選択は間違っちゃいない。


昨晩、村の人たちを救ってくれてありがとう。


俺を人のまま終わらせてくれてありがとう。


お前の平和を実現させたいその気持ち、俺は心の底から応援してるぜ。


子供の頃から散々お前のその平和への気持ちを聞かされたんだ、最後は俺の気持ちも聞いてもらうぜ?



平和のために、秘宝を破壊してくれ。



お前の親友より











「マルクス…」



俺はナイフをテーブルに置く。



あいつは最初から知っていた。



俺の正体も、自分の結末も。



だから…



「だから俺に託したんだな…」



天使として、自分の親友として。



秘宝の振りまく呪いに終止符を打つため、マルクスは俺の背中を押してくれたんだ。



ここで終わらせちゃこれまでに散っていった人の意味を奪ってしまう。



彼らも同じく平和を愛していたはずだ。



「最後までやり遂げるよ。」



再び仮面を被り、俺は王都へ向かう。






ジョージ王の王宮へ向かい、俺は今回の護衛任務の報告をする。



「船の爆破…」


「船には王都に必要な物資が多く積まれていました。

おそらくは我が国に反感抱く者たちの仕業かと。」


「災難だったな、まさか親友を失うとは思いもしなかっただろう。」


「…。」


「反乱者はアズラエルに対処させよう。

ウリエル、お前はしばらく別の任務に就いてもらう。」



俺はジョージ王の部屋出て次の任務に備える。



ジョージ王の部屋にはミカエルが姿を現す。



「今回の件は予想外でしたね、王。」


「”テロスもどき”の増産計画…惜しいサンプルを失ったが、まぁどうにでもなる。

ミカエル、お前は引き続き今回の件の詳細とイデリスのとの取引きを続行しろ。」


「承知しました。」






俺は神の使い。



7大国の平和を実現するため、各大国に散在する秘宝を集め、破壊する。



それこそが天使おれの役目。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ