5 行動方針ですわッ
あれから様子を見て、三日程度引き籠った。
本来であれば、入学した初日から引き籠るなど、前世でも今世でも滅多にない事だ。
それでも二つ返事で了承を得られたのは、偏に元来のアミランの我儘っぷりのお陰だろう。ありがたくない特権だ。
兎も角、この三日間で私はある程度の方針を固めた。
ゲームではどのルートを選択しても卒業と同時に断罪されるアミランだが、たった一つだけ生存できるルートがある。
それは主人公との恋愛ルートだ。
そもそも本来のゲームのシナリオでは、入学して早々廊下ですれ違う主人公へ、挨拶をしなかっただのなんだのと因縁を吹っ掛けるのが初接触だ。
アミランに執拗に絡まれている主人公をブラン王子が助け、ここで私たち婚約者の仲に亀裂が入る。というのが本来のシナリオ。
既に初日から休学するという原作ブレイクを起こしてしまっているので、この先の展開が変わるかもしれない。
あまり無暗に原作と違う展開を起こすのは怖いのだが、懸かっているのは私自身の命なのだ。何を置いても百合ルートは絶対に外せない。
この、ある種タブーとすら言えるガチ百合ルート。詳しくないのでよくは分からないが、乙女ゲーとしてはかなり珍しいであろうそれこそが、唯一のアミラン救済ルートなのだ。
とはいえ、もちろん簡単ではない。
タブー視されているという事は、大っぴらには出来ないという事。
乙女ゲーという、可憐な少女とイケメン攻略対象の間に割り込み、性別の壁すら超えて一つの恋の形を作るという事は並大抵ではない。
隠しルートとして作られたこのシナリオは、分岐点すら判明しておらず、クリアした人はおろか、まともに進行した者すら稀有な例だ。
それでもクリアした人は勿論いる。私は初めからアミランルートに興味は無かったのでプレイしたことは無いが、攻略サイトに興奮隠せぬ様子で情報を開示している先輩方の書き込みを見た事がある。
引き籠ってから、あまりにも希望のない未来に絶望したのが初日。そこから生きる希望は無いのかと子供のようにべそをかきながら模索したのが二日目。このルートの存在を思い出し、主人公を自分に惚れさせようと吹っ切れたのが三日目。
そう、私はこの乙女ゲー世界で、本気の百合を目指してやる!
決心しやるべき事が明確になった私は、次に重大な問題について考える。
一番の懸念点は、私の男性恐怖症だ。
前世で自分が死ぬ原因にもなった男性が、私は途轍もなく怖い。
もう語るまでもないかもしれないが、本当にどうしようもなく怖いのだ。
そんな中これから三年間、毎日のように通うのは貴族の子息令嬢が多くいる王都の学園。
一応これでも原色と呼ばれる六代貴族の一端を担うヴァイオレット家の令嬢。必ずどこかで攻略対象の原色の貴族子息たちと関わる事になるうえ、形式だけとはいえ婚約者も居る。
男性と触れ合わずに三年もの月日を送るのは早速不可能と言っていいだろう。
これについてはどうする事も出来ないので、取り敢えずは極力接触を避けて、本来のアミランのように傍若無人に振舞わず、慎ましく生活すると決めた。
つまり私がこれからの三年間で、主人公に惚れられ、攻略対象を含めた男性と極力関わらないようひっそりと暮らし、その為に清廉な貴族令嬢として振る舞うといったところだ。
学園の制服へと身を包み、自室で気合を入れた私はふんすと鼻息荒く決心すると、学園へと向かう為部屋を飛び出した。
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