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22 聴取ですわッ

 私が暗い迷宮内でグサッと刺され病院送りにされた翌日、詳しい聴取の為に国から役人が来るらしい。


 彼らの名前は正確には覚えていなかったが何となくは覚えている。【治安維持 統制統括 実行部隊】通称クライムコントロール局。更に略称でクラコン。


 ゲームにも何度か名前は出てきているが、具体的に何の組織なのかはよく分からない。恐らく警察に近い組織だと思われる。


 国王陛下の名の下に組織されたこの組織だが、トップに立って動かすのは代々原色の赤の家系、ラッカレッド家だ。


 現在のクラコン長官は女性で、伯爵家当主でもある。その当人、ルージュラ・ラッカレッドは当代の原色を受け継ぐ才女として原作ゲームにも登場する。


 性格は男気溢れる英傑で、見た目も噂される程に美しい。

 長く腰まで伸ばした真っ赤な髪は、見る者には威圧感を与えるがとても綺麗で、吊り目がちの強い意志の見える顔立ちはまさに出来る女。


 そんな彼女が統率するクラコンから、二人の人物がここにくる。

 どんな人物が来るのか少々不安はあるが、何のことは無い。適当に話して終わらせればいいだけだ。


 そうこうしていると病室の扉がノックされ、予め来客がある事は分かっていたので扉近くに控えていたリリアがそっとドアを開く。

 まずは壮年の男性、ストレスが多いのか白に染まった頭髪を後ろに撫でつけたダンディなおじさま風の男が入室し、それに続いてもっと若い、それこそ私と同い年くらいに見える少年が真っ直ぐな姿勢で入室してきた。


「お初にお目に掛る、アミラン嬢。私はボージスと申します。そしてこちらが今回助手として付き添う事になるダリアです」

「ご無沙汰しております、アミラン様。この度は大変な目に遭われたそうで、心中お察しします」


(こ、攻略対象のひとりがなんでこんなところにーっ!?)


 私は先程ここに来た人物……もちろんボージスではなくダリアを見て、声にならない悲鳴を心の中で上げた。

 だって彼、原作ゲームでの攻略対象のひとりなんだもん。


 現伯爵家当主である彼の母親と同じように腰まで真っ直ぐ伸ばされた赤髪。

 彼女よりは幾分か柔らかく、それこそ女性と見紛うような柔和で整った顔立ち。


 そんな彼が何故か私の前に立っている。

 実際会うのは初めてではない。アミランとしては何度か会っている。


 それでも私としての自我が芽生えてから彼に会うのは初めてのことで、いきなりの遭遇に心がバク付く。


「どうしましたか、顔色が優れないようですが」

「にゃっ、なんでもないですわ。お、おほほほ……」


 まさかいずれ私の事を断罪する可能性のある人物が目の前に居るので緊張している、などと言えるはずもなく、上擦った声で無理矢理誤魔化す。

 それが功を奏したのかどうか、ダリアは怪訝な顔をしつつも、一応納得した様子で近くの丸椅子に腰を下ろした。


「……あぁ、ダリアが居る事が不思議なのか。彼はいずれこの組織を継ぐ男なのでね、経験を積ませるためにもこうして現場に同行させることがあるんだ」


 私たちのやり取りを不思議そうに見守っていたボージスが柔らかい表情で経緯を語る。


 それにしてもよりにもよって私のところじゃなくてもいいのに! と多少自分勝手な事を思いつつそれをおくびにも出さずにそうですかと生返事を返した。


「えー、それではアミラン嬢、聴取の方を取らせていただきたいのだが、よろしいかな?」


 しわがれた声でボージスが確認を取り、取り調べが始まった。


 内容は特筆する事もない。前日起こった出来事をなるべく詳細に語るだけだ。

 時々ダリアが詳細を聞いてきたりもしたが、私は包み隠すことなく、ありのままを話した。


 そう、見たこともない迷宮の隠し通路の事も、そこで起こったホークとの事件も……全てをだ。


 彼らはホークの名前が出た途端、何か思い耽るようにぶつぶつと相談していたが、私には声が小さくて聞き取れなかった。

 しかしそこで突然聴取が終わり、軽い挨拶だけをして、私の見送りの言葉が聞こえているのかいないのか、二人ともがそそくさと病室を後にする。


 いきなりの事に付いて行けずしばし呆然とそれを見送り、親しい仲でもないのに何故かこちらに手を振って出て行くダリアを見つめていた。

 だが直ぐに、先に手を振ったのは自分だと分かり、無意識の内に上がっていた右手を直ぐに下ろして布団に潜り込む。


「わ、私、何で手なんて振ってるの……!」


 自分でも何故そうしたのかは分からなかったが、それゆえ余計に羞恥が強い。

 きっと布団の中の私の顔は今真っ赤になっている。そう、それこそ彼の長く揺れる髪のように……。



 ……



「まさかコルバルト家が絡んでるとはなぁ……これじゃあうちの管轄からは外れるし、手を引くしか無いか……」

「そうですね、彼らが動いているのであれば我々は邪魔にしかならないでしょうし、この件は放置するのが得策でしょう」


 先輩兼私の教育係でもある初老のボージスが、疲れたように目頭を手で揉み解している。

 彼には色々と苦労が多いのだろう。私は彼の事を尊敬しているし力にもなりたいが、今はまだ戦力にならない自分がもどかしい。


 それにしてもホークが絡んでいたとは。これは私が考えている以上になにか裏がありそうだ。

 しかし彼らのやる事はいつも正しく、迅速だ。これ以上考えても出来る事などひとつとして無いが、叶う事ならばこれ以上の面倒が起きるのは避けて欲しい所ではある。


「……アミラン・ヴァイオレット嬢…… 少し変わったな」


 目の前を歩く彼に聞こえないよう、声を潜めて小さな独り言を漏らす。

 彼女とは原色の家系同士という事もあり何度か顔を合わせたことがある。


 その時の彼女はお世辞にも褒められた人物ではなかったはずだが、先程合った時は面影すら感じられない、それこそ普通の少女然としていた。


「……まぁ悪くはない、か。彼にも話してみるかな」

「ん? 何か言ったか?」


 今度の独り言は少し声が多きかったようで、ボージスに聞き返される。

 なんでもありませんと短く返し、今のは少し恥ずかしい行動だったなと己を諫める。


 何か言い知れぬ大きな事が起こる気配を薄く感じつつも、私はどうする事も出来ないだろうと深く考えず、薄暗い道を歩いて行くのだった。

読んでいただきありがとうございます!

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