18 班決めですわッ
私が引き籠りを脱してから数日間、特に何もない日々が過ぎた。
毎日ブランは屋敷まで迎えに来てくれるし、授業は正直あまり聞いていないけど試験に落ちない程度にはちゃんと受けている。
お昼休みにはユリとご飯を食べて、そこそこ平和に過ごしてきた。
そして今日は、新入生の迷宮探索が行われる日だ。
クラス毎に日を分けて行われ、初日である今回は私たち一組が向かう事となっている。
迷宮探索なんて大それたことを言ってはいるが、要は前世で言う遠足みたいなものだ。危険はない。多分。
実際私たちが潜るのは王国内で最も安全な迷宮で、出てくる魔物も下級ばかりだし安全面は保証されていると言ってもいい程。
「迷宮ってどんなところなのかな」
「やっぱり危ないのかしら?」
「魔物なんて余裕で倒してやるよ!」
校門付近で馬車を待っている中、同じクラスの人たちが口々に不安や期待を口にしている。
そう、本来私たち学生に、今から潜る迷宮の詳細は明かされていない。ならば何故知っているのかと言うと、ただの原作知識だ。
もちろん今回の事もビビラブではひとつのイベントとして存在しており、私は様々なルートを攻略する為に何度もあの迷宮には入っている。
クラス内では基本ボッチである私は、こんな風に独りで考え事をする以外にやる事がない。
寂しさが襲ってこないよう努めていると、丁度良く私たちのところに馬車が来た。
特に座席などは決まっておらず、四人乗りの車内に適当に箱詰めしていく。
私が乗り込んだ車両はどうやら仲のいい女子三人組だったらしく、私が乗るまで楽しくお喋りをしていたのが、顔を見た途端緊張した面持ちで全員黙り込んでしまった。
(ま、まずい……私今すっごい空気悪くしてる……)
「あ、あの、どうぞ、お構いなく……」
そう言ってはみたものの、恐らく彼女たちはアミランの悪い噂などを知っているのだろう。
その顔からは緊張の他にも恐怖心や、僅かな蔑みの眼差しも含まれているように感じた。
正直言って、車内の空気は最悪と言ってもいいが、こればっかりは仕方がない。諦めて窓の外を流れる景色でも見る事にしよう。
「あの……アミラン様は今回の迷宮のこと、知っていますのでしょうか……?」
移動を初めて十分ほどだろうか、突然目の前に座っているくすんだ茶髪とそばかすが特徴的な少女が恐る恐るといった様子で話し掛けて来た。
「えぇ、知っていますよ。それと敬称も敬語も不要ですわ。クラスメイトですもの」
驚きつつもそう返すと、彼女たちが目を合わせてパチクリと数度瞬きをした。
すると今度は私の斜め向かいに座る少女が、小さく右手を上げて私の方を見つめて口を開く。
「じゃあ、アミラン。今から向かう迷宮って、どんな所なの? あ痛っ!?」
おずおぞと質問をして来た元気の良さそうな少女の脇腹へ、隣に座っていたそばかすの少女が小さく肘を入れた。
私はその様子に苦笑しつつも、しっかりとした口調で質問に答える。
「そうですわねぇ……わたくしたちのような学生が入っても安全なレベルではありますが、怪我をする可能性もあります。低級とはいえ迷宮ですから」
月並みな答えを返すと、仲良し三人組は「おぉ……」と感嘆の声を上げて私を仰ぎ見るように頭を少し下げた。
正直本当に大したことは言ってないと思うのだが、こんな情報で役に立つのだろうか?
「す、すごいですね! 誰も知らない事なのに、そこまで詳しいなんて!」
どうやら今回の探索は私が思っている以上に皆緊張しているらしい。
未知の場所で初めてのことをする恐怖は、確かによく考えれば怖い事だろう。かくいう私も現在進行形で未知の人生を歩んでいる訳だし。
そんなこんなで、いつの間にか打ち解けた三人組と共に馬車に揺られ続けていると、目的の迷宮の入り口前まで着いた。
私たちはかなり後続だったらしく、もう既にほとんどの生徒が集まっている。
「よし、それじゃあ集まれー。一応点呼した後に班を発表するから、お前らしっかり聞いてろよー」
この気怠そうに頭を掻きながら生徒を見回すのは、私たちのクラスの担任、ニコラ・フェーテ先生だ。
先生はその後も欠伸を隠そうともせずに怠そうに点呼を取ると、今度は一応はマシと思える面持ちで、安全面と講師役となる騎士の元へ向かう。
「この度は我々カラフリア学園の支援、誠にありがとうございます」
「いえ、気になさらないでください。これも仕事ですし、何より母校に少しでも貢献したいですから」
カラフリア学園、私たちが通っている学校の名前だ。
国と同じ名前を学園も持っているが、それも当然でカラフリアは王立学園だからだ。その王都の中でも最も大きく歴史が深い。故に国と同じ名前を名乗っている。
それからニコラと指導員の騎士が何言かやり取りを終える頃には、クラスの全員がこの場に到着していた。
一応といった体で全員分の点呼を取り、一人も欠員が居ない事を確認すると、いよいよ行動を共にする班が発表される。
班分けは一応ニコラの采配によってバランスよく決められているようで、私が知る限りの少ない情報ではあるが、よく纏まっていると思う。
幾つかの班が発表され、決まった人たちが各々班ごとに固まっていく。
全ての班が滞りなく決まっていく中、私は最後の組となった。
「それじゃあ次……ってもう最後か。リーダーを【ブラン・ピュワイト】。それから【アミラン・ヴァイオレット】、【ホーク・コルバルト】、【ユリ・ビーラス】。以上四名を最後の班とする」
どうやら私の班はかなり優秀らしい。
本来であれば世界最高峰の魔力量を持つアミランを筆頭に、完全無欠のブランや主人公のユリも居る。
ひとり知らない男子生徒の名前が挙がったが、そんな名前の生徒うちのクラスに居ただろうか……?
少し考えながらも、どっちにしても見てみれば分かる事かと、周囲をきょろきょろと見渡してから、既にブランの元に集まっているようなのでそこへ向かう。
近くまで行くとユリが大きく手を振って私を迎えてくれて、ブランも優し気な顔で小さく手を振ってくれた。
最後にホークと呼ばれた少年へと目を向けるが、何故か背を向けていてこちらに顔を隠すように佇んでいる。
訝しみつつも一応軽く自己紹介をし、未だ背を向けたままのその少年の返事を待つ。
「あー……なんだ、よろしく?」
少し……いやかなり気まずそうに振り向いたその少年は、校舎裏で私を襲った令嬢と一緒に居たあの少年だった。
そういえば確かにあの時ホークって呼ばれてた気がする……。
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