出会いの話①
こんにちは、魔女です。
突然ですが私は今、無職になってしまうようです。
事の経緯を話しますと私は少し抜けているところがあると言いますかおっちょこちょいなところがあると言いますか、よくミスをしてしまうのです。
この世界では男性は身体能力が優れており、女性は魔法が使えるという不思議な世界なのです。
魔女たちは1人につき一つだけ特別な魔法が扱えます。
私の場合は時間を止める魔法です。
産まれ付き魔力が多く、こんなにも素敵な魔法を授かった私は大学を首席で卒業し、なんやかんやあって王宮へと就職しました。
そして王宮で雑務をこなしてたわけなのですが王子が様々な仕事を振ってきたのです。
やれ氷を出せだの、やれとあるメイドの時間を止めろだの。あまつ夜中に部屋に来るように言われることさえありました。
まぁ、氷の件はうっかり王宮を凍らせてしまい、メイドの件はうっかり心臓だけを止めてしまったり、夜の話の時は王子の時間を次の日の朝までだけ止めるつもりがついつい止めていたのを忘れてしまって一月ほど放置してしまいました。
そしてつい先程も、離れたところにあったジャムを取ろうとして引き寄せる魔法を使ったのですが間違えて突き放す魔法を使ってしまい王子をジャムまみれにしてしまいました。
さすがにこれには王子も怒ってしまい、今は私にその怒りをぶつけておられる最中なのです。
「…というわけで、お前は国外追放だ!」
「こ、困ります。それでは他国でもなかなか受け入れられず生きていくだなんてとてもじゃないですが無理ですよ!」
「知るか!お前はあの大学を主席で卒業したんだろ?だったらどうとでもなるだろうが!いいから出ていけ!」
「そ、そんな…。」
と、言うわけで無職になるだけでは足りずに国外追放までされてしまいました。
これは困りました。私はどこへ行けば良いのでしょう。
実家に帰るのも有りですがこのことが知られれば親からの蔑んだ目に耐えられません。
一体どうすれば…。
まぁ、どうにでもなりますか。私はすごいですし!
そんなこんなで私は今国境を越えてすぐの森を歩いています。
「はぁ、疲れてしまいました。」
ついついそんな言葉を漏らすほどには私は疲れてしまっています。
一応私たち魔女は空を飛ぶ術があるのですけれど空には鳥のような魔獣がいつでもパーリナイしているのでとてもじゃないですが通れません。
だから私は仕方なく歩いていたという訳です。
そんな風に気を落としていた時、私の耳に1人の悲鳴が聞こえてきました。
どうやら誰かが人さらいにでもあって抵抗しようとしているようです。
私は心の中で『探索』と唱えてその魔法を発動しました。
その魔法で得た情報によるとこの先を少し行った辺りに10人いるようです。
少なくとも1人は攫わた子でしょうから多くても敵さんは9人ということになります。
そんなに悪い事をしたつもりはありませんが私はどうやら罪人らしいですし、ここいらで人助けでもして罪を償うとしましょうか。
そう息巻いて私は心の中で『飛翔』と唱えて地面スレスレをなかなかの速さで飛んでいくのでした。
飛んで少しするとその光景が目に入ってきました。
男8人が2人の女の子を担いで歩いていたのです。
全く、女の子に対してこんなにも酷い扱いをする男がいるとはなんとも醜いものか。
「今すぐ、その子達を離しなさいっ!」
そう言いながら私は彼らに向けてその魔法を使いました。
心の中で唱える呪文は、『時間停止』です。
すると男達は一切動かなくなりました。
その隙に私はその2人の女の子を助けてあげました。
1人はまだ幼い、8歳ほどの子供。
もう1人は私の見た目の年齢とそんなに離れないような子供でした。
しかしなんということか。
その子は豊満な乳を胸にぶら下げているのです。
けしからん。実にけしからん。
「あ、あの。ありがとうございます!」
そんなふうにその胸をジト目で見ていると2人は声を揃えて私にその言葉を告げてきました。
こんな私にも完璧な人助けができるとは、感慨深いものです。
「あっ、危ないです!」
「油断してんじゃねぇよこのガキが!」
そんな声が背後から突如聞こえてきたので私は反射的に『時間停止』と、心の中で唱えました。
するとその方は空中で動きが止まります。
どうやら気が緩んだせいで魔法も少し緩んでしまったみたいですね。
しかし、もうそうはなりません。
こんなにも優しい私にも一つだけ許せないことがあります。
それは見た目の年齢をいじられることです。
彼はその禁忌を犯してしまいました。
ですから当然、どうなっても文句は言えないのです。
他人のコンプレックスをいじるとはそれほど重いものなのです。
「許しませんよ。私をガキと言った報い、ここで受けなさい!」
そう言って今度は声に出してで先程までとは一風変わった呪文を唱えだしました。
「汝がこれより受けたるは女神の怒りにして私の怒り。汝罪を清算すべくその身で罰を受けよ。私はガキじゃない。発育を止めているだけ。そんなことも分からない蛮族風情はここでその苦しみに悶えながら死ぬがいい。生きる価値も無きあなたがまだ痛みを感じられることに感謝しなさい。私をガキ呼ばわりしたことを懺悔しろ!聖なる雨!」
その言葉の後に彼に向かって幾度となく神々しい光の雨が降り注いだ。
「威力は抑えましたので存分に味わってくださいな♡」
この魔法に込めた魔力量的に後5時間は続くと思うのですが、彼にはそれでもぬるいくらいかもしれませんね。
「す、すごい…」
ボインの方の少女が私の魔法を見てそうこぼした。
「さて、私は優しいのでこれからあなた達を家まで送ろうと思いますが道までは分からないので教えてくださいね。」
「こっちです。」
するとストンの方の少女が私の腕を引っ張って案内をしだした。
なんだか妹ができたみたいでお姉さん嬉しいです。
やがて森をぬけて広い道に出ました。
すると私の目に大きくはないながらも立派な壁が見えてきました。
「あの街があなた達の街かしら。」
「はい、そうなんですよ。」
答えてくれたのはストンの方の少女でした。
ここに来るでにそれなりに話題は振ったつもりなのですがボインの方の子はなかなか答えてくれないんですよね。
そういうわけでやっと街についてみるとどうも門番さんとお話をしている人がいました。
「私の娘がさらわれたんですよ!?」
「ですから今騎士団の派遣要請をしていると言っているではありませんか。」
「その騎士団が来るのは一体何日先の話よ!」
「うっ…」
フムフムなるほどなるほど。つまりこの方はこの子たちのうちどちらかの親ということです。
「あのぉ。」
声をかけるとその方はこちらを振り返ってくれました。
するとストンの方の子が元気よく飛び出していきました。
「ママ!」
「ク、クリス!」
これが感動の再会というやつなのでしょう。なんだか涙が出てきそうな気がします。
しかしそんな反応を見せる私とは違ってボインちゃんは暗い表情で下を向いていました。
「あ、あの。娘を助けていただいてありがとうございます。もしよければお礼をさせてはいただけませんか?」
「ごありがたい話なのだけれど、まだやることがあるんですよね。」
そう、私はまだボインちゃんを親の元に連れて行かなければならないのです。
「そう、ですか。ではせめて、これくらいは受け取ってください。」
彼女は私の手にお金の詰まった袋を渡してきました。
「こ、こんなにもすごい金額。とてもじゃないですが受け取れませんよ。」
「いえいえ、そちらはもともとこの子の捜索費用として騎士団に払うつもりでしたのでお気になさらず。」
そういうことならばありがたくいただくことにしましょうか。
私とて今手元にあるのは本当に少ない金額だけですし。
「ありがたく頂戴させていただきますね。」
そういうとストンの方の、クリスちゃんとそのお母さんは仲良く街の中へと歩いていきました。
「おねぇちゃんありがとう!」
そう言ってクリスチャンは元気に手を振ってくれました。
ロリっ娘に手を振られるとは、こんな幸せなことがあるのでしょうか。
さて、あとはボインちゃんの方ですがどうも先ほどから表情は暗いですし、どうすればいいのでしょう。
「あ、あの!」
ボインちゃんは突然に声を上げました。
「私はここまででいいです。本当に、ありがとうございました。」
どうも遠慮気味な子ですね。
「いえ、一度首を突っ込んでしまったのでここで引き下がるわけにはいきません。おうちはどこですか?」
「あの!本当にそういうのは、大丈夫です。」
これは間違いなく何かありそうですね。
はて、いったいこういう子にはどう声をかければよいのでしょう。
なんだか何を言っても聞かなさそうですし、ここはキツめに言ったらよいのでしょうか。
「おい巨乳娘。そういうのはいいのでさっさと家に連れて行きなさい。でないとその巨乳をこれでもかというほど揉み解して最後には剝ぎ取りますよ。」
「えっ?」
「えっ?」
なぜでしょう。少し決まづい空気が流れてしまっているような気がします。
「え、えと。こっち、です。」
これは完全に引かれてしまいましたね。
何がいけなかったのでしょう。これくらい言わないと聞いてくれなさそうでしたし。
まぁ、何はともあれ案内してくれるそうなので付いていくことにしましょうか。
そして少し大通りを歩いた後細い路地裏を進みやがてそこにたどり着いたのですが
「ここが、あなたのおうちですか?」
「はい。」
そこは家というには何もかもが足りてないように見えました。
腐った木でできてところどころ穴の開いている壁なうえにあるはずの扉が付いていません。
「親、もしくは保護者さんはいらっしゃいますか?」
「いえ、母は私を産んですぐに死に絶え、父は気づけばギャンブルにはまり家に顔を出すことすらなくなりました。」
これは、どうすればよいのでしょう。
先程までよりも一層決まづい空気ですしそんなことを聞いて「はいそうですかではお元気で」と帰るわけにもいきませんし。
「あ、えと。今日は助けていただいてほんとにありがとうございました。それではお元気で。」
「え?いやいやいやいや。さすがにこのまま帰るわけにもいきませんよ。」
「ですが助けていただいた上にさらに何かをもらうだなんてとてもじゃないですが。」
この子に、何かしてあげられることはないのでしょうか。
そうだ、せめてこの家くらいは治してあげましょう。
「せめてこのくらいはさせていただきます。」
そう言うと私は心の中で時間逆行と唱えました。
すると家はみるみる綺麗になり、壁の開いた穴はふさがり元の姿を取り戻しました。
それを見る彼女の眼はとてもキラキラしていました。
「では、私は失礼しますね。」
そう言って私はくるりと踵を翻しては歩きだしました。
「あ、ありがとうございました!」
そう叫ぶ彼女を背中に私はその路地裏を後にしました。
ふぅ、いいことをすると気分がいいですね。
そんなことを思いながら私は再び大通りを歩いていました。
もう時間も遅いですし、ここいらで宿をとって一泊しましょうか。
「すいません。一部屋借りられますか?」
「はい、金貨2枚です。」
ん?2枚?
やけに高いですね。これがこちらの国では当たり前なのでしょうか。
「はい、金貨2枚ちょうどですね。こちらがお部屋の鍵になります。お部屋は階段を上がって一番奥になっています。」
「ありがとうございます。」
そう言って私は階段を上ってその部屋にたどり着きました。
中に入ってみると割とほこりのたまった部屋でした。
仕方がありませんね。さすがにここで寝るのは嫌ですし綺麗にしましょうか。
そして私は彼女の家に使った時と同様に時間逆行と心の中で唱えました。
するとピッカピカの素晴らしいお部屋になりました。
さて、今日は早いうちに寝て、明日は少しこの街を周ってから次の街に行くとしましょうか。
この時の私は裏で何が起こっているかも知らずに安らかな眠りに落ちていきました。
ご拝読ありがとうございました。
好評であれば続くので私のモチベのためにもレビューやコメントお願いします。