06 不覚
「こんなに堂々とボクの前に現れるなんてビックリだよ」
「仕事なんでね、悪く思わないでくれ」
朝になって、道のない森のなかを歩いていたが、そろそろ大丈夫だろうと考え、周囲に気配がないのを確認し、森のなかにある道へと戻った。襲われたところからはだいぶ離れているため、見つかる心配もない。今の内に急いで自国のいちばん近くにある村へと向かっていたが、曲がりくねった森の道の先にひとり、男が立っていた。
今までのボクが感じていた視線とたぶん同じ。立ち振る舞いだけでスゴ腕だとわかる。格闘術……いや、暗器を隠し持って不意をつく近接戦闘術が得意だとみた。
だけど、ボクに勝てるの? スゴ腕とはいえ、剣匠に育てられたボクに接近戦で打ち勝てるとは思えないけど?
ボクは躊躇なく地を蹴って、暗殺者とみられる男に接近し、数回、切り結んだが、やはりどんな隠し玉を持っていようとボクの方が上回る自信がある。
「キャッ」
一瞬、背後でした声にカラダが反応し、暗殺者の暗器が頬をかすめた。
「「だから言ったのだ。悪く思わないでくれって」」
「くそっ……待て」
声が重なる。まったく同じ声が前後で響く。真っ暗になっていく視界と沈んでいく意識のなか、前方の男がボクを素通りしてレイシアのところへ歩いていくのがみえた。
──生きている。
目を覚ましたら、太陽は真上を通過して傾き始めている。暗器に毒は仕込んでいなかったみたい。麻酔薬かなにかが塗られていたんだろう。
不覚を取った。ひとりじゃなく、ふたりもいたなんて思いもしなかった。あの気配、動き……双子だと思う。
──おもしろいね。次に会ったら本気を出していいかもしれない。
ボクはすぐさま隣国へと引き返した。
目星はついている。十中八九、大富豪バゲイラが雇った殺しの専門家だ。普段は暗殺を生業にしているが、たまに小遣い稼ぎで誘拐もやっている輩なんだろう。
彼らがボクを見逃したのは、正直理由がわからない。暗殺者にとって目撃者は生かしていく利点はなにもない。普通は殺して終わりのはずなのに……。
それにしてもずいぶんとハードな2次試験になっちゃった。生存者がボクだけだし、レイシアを連れ戻しに正面から商業都市ボールンゲンに入ることすらままならない。おそらくすでに手が回されているに違いない。
本来ならここで棄権しても誰にも非難はされないだろう。でもボクはレイシアを助け出す。その際、相手方に多大な犠牲が出るかもしれないが知ったことではない。先に仕掛けたのは向こうだ。ボクはもう手加減なんてしない。
疲労がたまらない程度の速度で走りながらボクは商業都市への潜入方法と館への侵入や例のふたり組の攻略方法を頭のなかで考えを巡らせ始めた。