表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

05 縮んだ距離

 

「それ……血じゃないの?」

「え、はい」

「鎧を脱いで」

「はい」


 なんか急にレイシア嬢の口調が変わった。友人と話すような親し気でいて、どこか懐かしい雰囲気、彼女との距離が一気に縮まった気がする。


「光が外に漏れないように服で覆って……そうそう」


 暖かい緑色の光の粒がボクの脇腹を抉った傷をまるで穴の開いた地面を土で埋め戻すように治っていく。


「ミカ、助けてくれてありがとうね」

「いえ、これが試験ですし、当然のことをしたまでです」

「あのさ」

「はい?」


 友人のような振る舞いをして欲しいと頼まれた。──よし。


「レイシアってコッチの方が素なの?」

「まあね、素、というか憑依しているっていうか」


 憑依? ──彼女の言っている意味が今一つ理解できないが、彼女は異世界人で、レイシア・トレンチノに代わるべく意識だけ転生して、この世界へやってきたそうだ。


「〝この子〟元々は性悪な悪役令嬢だったんだけど、バッドエンド回避のために私が来たってワケ」


 まったくもって言っている内容が理解できないが、そんな砕けた雰囲気の彼女は少なくとも以前よりさらに魅力的にみえる。


「夜は冷えるね」

「うん」


 彼女の元居た世界のことをいろいろ教えてもらった。空飛ぶ乗り物に何百、何千人と客を乗せて走る巨大な鉄の箱。天空までそびえ立つ建物もあるそうだ。


「ねえ? ミカって好きなひとはいるの?」

「え、ボクはそんなひとは……今までいなかったけど……」

「今はいるの?」


 ついつい彼女を見入ってしまった。そのせいであっさりとバレてしまう。


「私?」

「……うん」


 なんか恥ずかしいな……でも彼女は侯爵家の令嬢、ボクは爵位を持たない騎士見習い、騎士になったとしても身分があまりにも違う。


「じゃあ両想いじゃん」

「それって……」

「もう! 可憐な乙女に何度も言わせないで、こういうこと」


 彼女の顔がボクに急接近した。


 丸い月と星空の下、一瞬、ボクらふたりの影が重なったが、すぐに離れた。


「ねえ、ミカ、私のお願いを聞いてくれる?」


 静かな岩山のうえで周囲には虫の鳴き声しか聞こえない。


 ボクは真っ赤になっているだろう自分の顔をはやく元に戻そうと手で顔をあおぎながら、うなずいた。


「もし、私が元の冷酷非道な悪役令嬢に戻ったら……」


 空色の瞳のはずが一瞬、紅く妖しく輝いたように見えた。






「私を殺して」








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ