04 逃走
5日間の公務が終わって、帰路について約5日、国境を超えたあたりでボクは3回目のただならぬ視線を感じた。
「敵襲です!?」
「まーたお前か……」
荷馬車から飛び出して発したボクの警告に対して、皆、白い目をボクに向ける。それどころか馬車を止めてくれない。
「それ以上進むのは危険です」
「はいはい」
その直後、トトトっと大量の弓矢が箱型馬車と荷馬車を襲い、荷馬車の中にいた1次試験通過者や騎馬していた正騎士のほとんどが数本の矢に射抜かれた。
ボクは右側の森のなかへ飛び込み、道に沿うように駆けて潜んでいた弓兵を斬っていく。
──どおりで矢の数が多かったのか。
みると仕掛け弓矢がたくさん放たれた跡があり、縄を1本引くだけで大量の矢を射かけられるように配置されていた。最初の無数の矢は森の左右同じように仕掛けたものだと分かった。
「クソがぁぁ!」
「こんなところで死ぬってツマンないな」
左側の森のなかから叫び声が聞こえる。ボクに皮肉を言っていたふたりはまだ生きている。でもあの矢数を浴びたのでは無事では済まないはず……。
「焔矢」
数条の赤い軌跡がボクのまわりで飛んできたかと思うと、茂みに潜んでいた伏兵に突き刺さった。炎に焼かれて、もだえ苦しんでいるところをボクがトドメを刺す。
「レイシア様!」
「私をおぶって走ってッ!?」
箱型馬車の方は外装を金属で補強してあり、窓も分厚いガラスで作られた特注の馬車だったので矢が通らなかったみたい。レイシア嬢が馬車から飛び出し、ボクの背中へ飛び乗った。
彼女の判断は正解。ボクは森のなかで育ったから森なんて道がなくても迷わない。身体も鍛えているから、女性をひとりおぶったところでそこまで足の速さは変わらない。むしろ、手を引いて逃げた方が遥かに遅かっただろうから、お互い助かった。
反対側で騒いでいた味方の声が聞こえなくなった。だけど背後から追手の気配を感じたので走るのをやめない。
追手をみるみる引き離し、痕跡が残らないように大きくジャンプしたりして、足跡をバレにくいように細工したり、直角方向に曲がったりと追跡が困難になるよう工夫した。
「ここまできたらしばらくは大丈夫」
ようやくレイシア嬢を背中から降ろしたボクは一息ついた。
すり鉢状になった岩山の途中なので、周囲から発見されにくく、ゆっくり休めると考えて問題ない場所をみつけた。
日も暮れかけていて、もうすぐ真っ暗になる。追手に場所を気取られないためにも火を起こすこともできないので、こういった安全な場所を見つけられてホッとした。