02 不審な影
護衛の騎士や第1次通過者も皆、敵襲に備えるが、こちらが警戒を始めた途端、敵の気配が消えた!?
「おい、お前、敵はどこだ?」
「……気配がなくなりました」
「まったく……これだから素人は」
ボクが答えると正騎士のひとりがため息交じりにつぶやき、合図を送った。馬車がふたたび進み始めたので、慌てて荷馬車へ飛び乗った。
おかしい。さっき確実に視線を感じた。魔獣ではない複数の視線。
「迷惑かけんな、出来損ないが!」
「剣の腕がすこし立つからってあまり出しゃばらないでね?」
1次通過者で大剣で豪快な剣技をみせた大男と、2本の小剣を巧みに操っていた少年に注意をされた。──たしかに敵意を感じたのに。
それから5日かかって、隣国の商業都市ボールンゲンに到着した。
商業都市のなかでひと際大きな館。大富豪バゲイラの複数ある別館のひとつの前で馬車は停まった。レイシア嬢は公務が終わるまでこの別邸に逗留する予定であるため、正騎士を中心に別邸の警備を始めた。
──まただ。
視られている。辺りを探るがどこからなのかはその方向はわからない。だが間違いない。
警備を始めて2日目の朝、まとわりつくような視線を感じたので、ボクが辺りを警戒し始めたらすぐに視線を感じなくなった。
ボクを含めた試験1次通過者は館の外を手分けして警備していたが、お昼ごろにレイシア嬢が、大きな図書館へ向かうことになったので身辺を護衛した。
「お名前は?」
「ミカ・ローレンジュです」
「ミカさんに実はお願いがあります」
レイシア嬢が不意にボクへ近づき話しかけてきた。
ボクがそばで護衛を?
「実は私、悪意探知の魔法が使えるんです」
「──ッ!?」
魔法を使えるものはとても少ない。まさか伯爵令嬢が使えるとは驚いた。
「ここへ来る途中ミカさんが警告した際、探知魔法で私も敵対する存在を確認しました」
やっぱりそうだったんだ……ボクの勘は外れていなかった。
「正騎士の皆さんには私が説明しておきます」
街中や建物の中では、あまりレイシア嬢を取り囲んでしまっては重要人物がそこにいるというのを触れまわるようなもの。他の騎士たちは遠巻きに警備してもらい、すぐそばにボクだけを置きたいとの申し出だった。
✜
「窓にあまり近づかないでください、バゲイラ様」
「でゅふふっ、レイシアちゃんを守る騎士ですヵ……邪魔でゅふね?」
館の3階、暗い部屋の窓からカーテンを閉めたまま、覗いているのに護衛のひとりがこちらの視線に気が付いた。
「アレはかなりの手練れです」
「2倍払うでゅふ」
「……わかりました」
高い金で雇った裏稼業を生業にしている凄腕、コイツがその気になれば城の中にいる王族だって暗殺できるかもしれない。
姿が暗闇に溶け込んで消えたのを見て大富豪バゲイラの口元が歪み、吊り上がった。