ゲーマーズダンジョンの挑戦【Dパート】
「芽瑠、いったいどういうこと?」
ダンジョン魔王軍四天王、ブラックサタンアーマー・ルルイドーンの正体は弟の芽瑠だった。
「部活で遊んでたら……部長がキレて……それで……」
「部活って、芽瑠って部活やってたの!?」
「そこ!?」
ハラハラした様子で見守っていた栞ちゃんが小さなツッこみをいれた。
あたし聞いてないし、とっても驚きポイントだよ。
「い、言ってなかった?」
「知らないわよ」
「あ……先々週から。部長さんにゲームできるよって誘われて、コンピュータ研究会に仮入会してて」
「言いなさいよ、あたしに。そういうことは!」
「いう必要ある?」
「あるわよ姉なんだから」
「そこまで……言わなくても」
ちょっと不満げな芽瑠。子供のころからお姉ちゃん、芽歌姉ぇとくっついてばかりのシスコンの弟。ついに反抗的になり姉離れか……って、16歳になってからとか遅いわ。
「あたしの芽瑠……うふふ、姉弟愛……尊い」
栞ちゃんは頬を染め、嬉しそうにあたしたちを眺めている。
姉弟の間にはいろいろあるのよ。
「しかし部長め、あたしの芽瑠をたぶらかしたな」
二年の神無月アルト。ゆるすまじ。
「あっ、芽歌さん。これって『悪い魔王に仕えていた暗黒騎士の洗脳を解いた』って展開だよね……?」
RPG的にはまさにそれ。
「そうね! 愚弟は姉の愛により洗脳が解け……仲間になった!」
「あ、うん……それでいいよ」
目の前のウィンドゥに『ルルイドーンが仲間になった!』と表示された。
うむ、さっそくステータスをおみせなさい。
『なまえ;ルカ 職業;暗黒騎士
レベル;15
HP ;89
MP ;36
状態 ;姉好き
装備 ;ブラックサタンアーマー、暗黒魔剣ダークファング
スキル:デーモンブレイカー
アイテム;魔王軍スーパー回復薬(全回復)3
魔王の間の鍵』
「はぁ!? あたしよりレベル上で強いじゃん!」
「状態、お姉ちゃん好きって……」
栞ちゃんと二人で芽瑠に視線を向ける。
「ぼ、僕なにか悪いことした?」
「姉より優れた弟とかなんかムカつくわね」
「えぇ……!?」
家ではあたしのほうがゲーム強いのに。このダンジョン内では上だとか、チートだろ、くそっ!
「えぇ……!?」
◇
三人での冒険は順調だった。
芽瑠は強いし、あたしも栞ちゃんもレベルアップ。
それに芽瑠がダンジョンの構造をなんとなく知っていた。
ダンジョンマスターの側近なのだから当然だけど。
「魔王軍四天王って、あと三人いるわけ」
「あ……部員のもう一人がこの先で待ってるけど、あとの二人はNPCってか、オートらしいよ」
「芽瑠、あんた詳しいわね」
さすが元魔王軍四天王。
「うん。部長の神無月さんが、オリジナルテーブルトークRPGのシナリオをパソコンにまとめてて見せてくれたんだ。設定集とか、地図とか、絵とか……」
「いかにもねぇ」
「それをコンピューターゲーム化するって、頑張ってて」
「なるほど、どうりで」
好きで打ち込んでいたのね。
だからここまで詳細で緻密なダンジョンを生成できた。
まぁゲームとしてはシステムやディテールが甘いけど、それはここから造りこむつもりだったのかな。
同じゲーム好きとしてリスペクトの気持ちが出てきた。
なおさらダンジョンから救い出さねば。
「栞ちゃん、大丈夫?」
「まだ平気……」
とはいえ明らかに栞ちゃんは疲れ気味。
ダンジョン攻略から一時間は経過した。
放課後の四時半を過ぎているだろうか。
そろそろ終わらせて帰りたい。
ダンジョンマスターだって体力、精神力ともに消耗しているはず。
「そうだ芽瑠、部長のやつダンジョン生成したのは初めてそうだった? それとも慣れた様子だった?」
「たぶん……初めてじゃないかも。あの様子だと何度か試していたかもしれない」
「そっか」
芽瑠もPDSのことは熟知している。
重症のPDS発症者にして免疫獲得者の姉がいるのだから。
PDS、パーソナルダンジョンシンドローム。
発症しダンジョン生成能力を使いこなしていたとなれば、それは難敵だ。
「だけど急になんでこんな大規模なダンジョンを生成したの?」
黙って自宅でミニダンジョンを生成、消失を練習するとか、その程度ならバレずにすんだのに。
「それが……神無月さんとゲームの話になって。そしたら『スミプラトゥーン3』でいつも同じ時間でボコられてムカつくって」
「……『スミプラトゥーン3』?」
「僕らがいつもやってるよね。どうも同じ時間らしくて……。キャラとか装備とか、どっかで見たなって言ったの」
「まさか……」
「芽歌姉ぇが、いっつもボコボコにしてキルしまくってた」
「あいつか!?」
芽瑠はバツが悪そうに頷いた。
「そしたら『お前らかぁ!? しかも何だと!? 可愛いお姉ちゃんと一緒に、ゲームだとぁああッ!? マジで、マジ……ゆるさねぇぞリア充どもがぁあああッ!』って、ブチギレてさ……それでダンジョンを」
「あぁ」
思わずこめかみをおさえる。
マジか。
「じゃぁ何、あたしらが原因?」
「かも」
部長の神無月は芽瑠と話しているうちにその事実を知り、それまでのヘイト、ストレスMAXから爆発してダンジョンを生成したとは。
となるとこれはあたしを誘いこむための罠だったのか。
『スミプラトゥーン3』で負けた腹いせにあたしをボコるための。
「やい! 神無月とやら聞こえるか! あたしはここだ、勝負してやるよ! いつもみたいにあたいらのコンビでボコっちゃるよ!」
ダンジョンの暗がりの向こうに向けて叫んだ。
「あっ、ダメだよお姉ちゃん挑発しちゃ」
「芽歌さん!?」
すると……グゴ……グゴゴ……グギギギギ! と歯軋りのような音がしてダンジョン全体が歪んだ。暗い渦が周囲を包み、ダンジョンの構造を変えてゆく。
「おぉ!?」
「わっ」
「きゃぁ!?」
次の瞬間、あたしたちは大広間にいた。
王様の謁見の間を思わせる荘厳な空間だけど、床も壁も天井も髑髏と骨の禍々しい黒光りする装飾で覆いつくされている。
『貴様がメルか! よくも……この超絶天才のボクちんを愚弄したなぁ!』
暗黒の玉座にザ・魔王といった風体のトゲとマントで全身を覆いつくした男がいた。
「アンタがラスボスってわけね」
「芽歌姉ぇ気をつけて」
「芽歌さんっ……!」
『ぐぬぬ……イチャつきおって、許すまじリア充ッ! グッギギギ!』
コンピュータ研の部長神無月アルトが青筋を浮かべて歯軋りをする。奴は殺気だった視線で暗黒のオーラを滲ませながら立ち上がった。
私怨とお門違いもいいとこだけど、今は禍々しいダンジョンのマスターを倒すしかない。
「うっさいわボケ。今ここでまたボッコボコにしてあげる!」
あたしはドリルブレイカーを励起したランスを魔王に差し向けた。
<つづく>