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ゲーマーズダンジョンの挑戦【Cパート】

 眼前に浮かぶウィンドゥの『ログアウト』は反応しない。

「やっぱりね」

 案の定というかなんというか。

 脱出不能のデスゲーム風ダンジョンかよ。


「芽歌さん、私たち出られないの?」

 不安そうな栞ちゃん。そんな顔もまた可愛い。庇護欲をかきたてられる。

「ま、そういう『設定』ってこと」

「設定て」

「ダンジョンマスターの趣味? みたいな」

「あ……なんとなくわかりました」

 察し、という顔でメガネの鼻緒を持ち上げる栞ちゃん。さすが本好き。頭の回転んがはやい。


 PDSによるダンジョンは、創造主たるダンジョンマスターの趣味嗜好が反映される。

 コンピ研部長なんてオタクゲーマーだろうし、なんとなく影響を受けているゲームやアニメも想像できる。

 よし、ちょっと試してみよう。


「だったら、これはどう?」

 右腕に装備していたランスを構えた。

 ダンジョンを貫く『ドリルブレイカー』を励起。ギュルル……と光の渦がランスを輝かせる。


「芽歌さん、何を?」

「強引に壁をブッ壊して最短を進むのよ!」

「えぇ!?」


 ピコンと電子音。

『固有スキル発動、ギャラクシーファイナルトルネードランサー!』

「あっこら、勝手にくそダサなスキル名つけんな!」

 ダンジョンのゲームシステムが適当に技名を生成しやがった。

 ちゃんとカッコイイ『ダンジョンドリルブレイカー』という技名があるのに。

 えぇい、許すまじ。

「どりゃぁあ!」

 あたしはお構い無しに、ドリルでダンジョンの壁を殴りつけた。必殺技をくらいやがれ。


『【【【破壊不能】】】』

 ビビッという警告音と共に赤いエラー表示がポップされた。

「なにっ!?」

 試しにもう一回、今度は柱を殴りつける。

『【【【破壊不能】】】』

 やっぱりダメだ、壊せない。


「破壊不能オプジェクト、ゲームの壁や床と同じ。ルールが適用されるってワケ?」 

 あたしのダンジョンブレイカーが、このダンジョンのルール「(ことわり)」に縛られている。

 今までこんなことなかったのに。

 ダンジョンマスターの支配力が強い。ここまで精細かつ制御されたダンジョンなんて想定外。

 正直すこし驚いた。


 けれど今のはフルパワーじゃない。

 せいぜい20パーセントほど。超全開なら流石に空間ごとブチ破れると思うけど……。


「あ! 芽歌ちゃんいまのでレベルがあがったね!」

「壁を無限に殴れば経験値稼ぎになる裏技かよ!?」


『なまえ;メカ  職業;戦士

 レベル; 5

 HP ;45

 MP ; 0

 状態 ;元気

 装備 ;制服アーマー、ドリルランス

 スキル:ギャラクシーファイナルトルネードランサー

 アイテム;回復薬2』


『なまえ;シオリ 職業;魔法使い

 レベル; 3

 HP ;26

 MP ;31

 状態 ;元気

 装備 ;制服魔女マント、使える魔導書

 アイテム;回復薬1』

 

 目の前に浮かぶステータスウィンドゥも微妙に変わっている。しゃぁない、もう少しゲーマーズダンジョンに付き合ってやるか。


 ◇


 ダンジョン第二層、墓所エリア。

 魔物も強くなり、エンカウント率も上昇してきた。

「たああっ!」

『ランスアタック流星突』

 一回あたり五回攻撃するスキルが炸裂。二体のガイコツ戦士を粉砕する。

「魔法詠唱、圧縮スクリプト『火炎滅柱』!」

 栞ちゃんが高速詠唱で地面から強烈な火柱を生じさせる。

『ギュブルァア!?』

 後続のワーム型モンスター三体を一気に焼きつくした。

「ナイス栞ちゃん!」

「意外と楽しいですねっ!」

「くそー、あたしもちょっと楽しくなってきたぞ!」

 ピコンピコンと経験値が得られ、光の粒子になって消えたモンスターは様々なアイテムをドロップする。

「完全回復薬に毒消し……『宿泊券』?」

「はじめてのアイテムだね」

「なんだろこれ。どこかに泊まれるのかな」

「えー?」

 このダンジョンには「お金」という概念がない。

 不要と判断して切り捨てたゲームシステムは潔いけれど、武器は初期装備のままダンジョン内で見つけるか、レベルアップによるスキル獲得でなんとかする仕組らしい。ということはアイテムとしての使い道は用意されているはず。


「まず栞ちゃんのHPを回復しよう」

「あっ、そうだね」

 アイテムボックスから治療薬をとりだし使う。

 HPは全回復。

 確認するとあたしはレベル7、栞ちゃんもレベル6になっていた。

 この階層のモンスターは強いけど、ダメージを受けても即死はしない。けれど、表示されたHPとは別に生身の肉体が感じる疲労感は溜まり続けている。

 ダンジョンによるゲームシステムはあくまでも表面的な縛りでルールだ。

 プレイヤーを演じているあたしたちは消耗していることに変わりはない。

「栞ちゃん、疲れてない?」

「うん、ちょっと」

 どこか休めるところを探そう。

 正直、トイレにもいきたい。

 そのへんでするわけにもいかないしどうすれば……。

 仕方なくしばらく暗い墓の遺跡のような曲がりくねったダンジョンを進む。

 すると先にほんのり明かりが見えてきた。


「お?」

 慎重に近づくと宿屋だった。

「宿屋さん……だね」

 ピンク色の看板でダンジョン宿屋『穴場』とある。路地裏のいかがわしいホテルかよ。


「なになに? 『ご宿泊、宿泊券3枚』『ご休憩2時間、宿泊券1枚』」

 あたしたちは顔を見合わせた。

 ちょうど宿泊券が1枚ある。


「……ねぇ栞ちゃん、休憩していこうか」

 あたしは栞ちゃんの肩を抱いた。

「えぇ!? なんか……ちょっと」

「中を見てみるだけ、ねっ?」

「でもぉ……」

 もじもじする栞ちゃん。

「大丈夫だって、何もしないから。なかでちょっと休憩しよ、飲み物とかもあるよきっと」

「あ……うん」

 んふふ押しに弱いな。チョロイぜ。

「じゃぁ、いこう」

「うん」

 あたしは栞ちゃんを連れ込むことに成功した。


 どう考えても罠だけど、ダンジョンマスターの良識を信じたい。やっていいことと悪いことがあるからな。と天井をにらむ。

 宿の受付は無人だった。

 壁に掲げられた部屋の写真。

 可愛い「お姫様ルーム」を選んで鍵をとって部屋へ向かう。なんか全体的に建物のディティールが甘いのはダンジョンマスターの妄想力が及んでいないからか。

 見てるか? ダンマス。今からいろいろしちゃうぞー。心なしか建物がカタカタ揺れている。


「いい感じのお部屋じゃん!」

「わぁ可愛い! 大きなベッド」

 カーテンつきのキングサイズ、ピンク色のふわふわした寝台。

 壁際には歪んだ冷蔵庫。開けると「ドクターペッパァ」だけが入っていた。飲み物は無料だけど趣味丸出しだろ。

 飲み物を二人で飲んでお手洗いも使う。

「ふぅ」

「よかった」

 ほっとひといき。

 あたしは身に付けていた装備品を外す。さすがに疲れたし肩が凝ってきた。

「栞ちゃんもマント脱ぎなよ、暑いっしょ」

「あ、うん……」

 制服姿に戻った二人で大きなベッドに腰かける。

「ね、シャワー浴びない?」

「えー、ここで?」

「平気よ。なんか汗かいたし」

「私は……平気かな」

 そんなことをいう彼女の横から香りを吸い込む。

「んっ、甘酸っぱい」

「やん嗅がないで……」

 よし、この流れでイチャつくぞ。


 だけどなんだか部屋全体が振動している。 

 カタカタ……ガタガタ。

 地震?

「ねぇ、なんか揺れてない?」

「気にしなくていいよ、さっ脱ご」

 栞ちゃんのスカートに手をかけた時だった。


 ゴゴ……ゴゴと部屋全体が揺れた。

「なっなんの音!?」

「ちいっ、何だよ!」

 いまいいとこなのに!

 そのときだった。

 シャーワ室の扉が粉々に砕けて、大きな音がした。

 同時に宿屋の空間が歪み、ベッドと私たちだけが取り残された。

 そして、シャワールームのあった場所から黒い甲冑を身に付けた人物が出現した。

「きゃああ!?」

「なんか来やがったなコンチキショー!」

 あたしは転がっていた武器(ランス)を手にとった。


 全身を包む禍々しい(中二病臭い)甲冑。

 角の生えた顔まで覆うヘルム。手には赤黒い大剣を装備している。いかにも、な幹部級キャラとみた。

 頭上に浮かぶHPバーは二本。

 おまけにMPのバーもある。魔法剣士か。


『……ダンジョン魔王軍四天王が一角! ブラックサタンアーマー、ルルイドーン』


「ダンジョン四天王!?」

 栞ちゃんが悲鳴を上げ、ベッドの向こうに転がるように逃げた。そこでマントと魔導書を装備し直す。


「ふざけたタイミングで幹部キャラ出しやがって、お楽しみシーンをブチ壊した代償は、きっちり払ってもらうかんな!」

 あたしはちょっとキレ気味にランスを向けた。


『……う、うるさい』

 ん? この反応、中身は人間か?

 今までのモンスターとは違う。

 まさかダンジョンマスターが自ら来たか?


「宿屋のあたりからダンジョン運営が雑なんだよ、妄想するならキッチリやりやがれ」

 先手必勝、あたしは床を蹴って間合いを詰めた。ランスでスキル発動、十連撃を叩き込む。

『……甘い!』

 大剣から赤黒いオーラが立ち上ぼり、一閃。

「なにっ!?」

 衝撃波に弾き返され、あたしは吹き飛ばされた。壁に背中を打ち付ける。

 痛ってぇ!


『……超スキル、ダークデーモンブレイク』


 目の前のHPが減った。

 あと一回食らえば危険領域だ。

「いってて……ブラックサタンがデーモンなんとかって、統一しやがれ!」


「芽歌ちゃん、回復魔法!」

 栞ちゃんが魔導書を開き魔法詠唱。あたしの体力バーが急速に回復する。

「サンキュ、栞ちゃん!」

「え、援護します」

 再び魔法詠唱、炎の矢を放つ。息のあったコンビネーションになったね栞ちゃん!

『……おのれ!』

 ブラックサタンアーマーのHPバーが減る。


「一気にいくぜ、うりゃぁあっ!」

 魔法の着弾と同時に突進。流石のブラックなんちゃら四天王も爆炎魔法に怯み、あたしはそこに『ダンジョンドリルブレイカー』混じりの連撃を叩き込んだ。

『……ぐぁああっ!』

 一気に相手のHPが4割削れた。

「っしゃぁ、まだまだぁ!」

 敵のHPバーが残りわずか、後一撃で勝てる!

 別にターン制じゃない。リアルタイムバトルだから連続で攻撃できる。

 地面を蹴ってクリティカル狙い、相手の顔面にランスを突き入れた。

『あっ!?』

 ガッという手応え。

 黒い角つきヘルムが宙を舞う。

 けど、そこでブラックサタンアーマーの素顔が露になった。

「え!?」

「なっ!?」

 あたしたちは言葉を失った。 


「……芽歌(めか)姉ぇ?」

 うつろな瞳に光が戻る。


「おまっ!? 芽瑠(メル)じゃん……なにしてんの?」

「あれ……僕……何を……? 確かコンピ研で……」


「まさか巻き込まれた部員二人のうちの一人が、芽瑠(メル)!?」

 ってか部活なんて入ってたっけ?

「……実は、うん……」


<つづく>


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― 新着の感想 ―
[良い点] ダンジョンマスターに対して散々詰めが甘いだの、設定が甘いだのと盛大に罵っていた芽歌でありますが、予想外のおちとなりました。果たして奴がダンマスなのか!? [気になる点] 誤字・脱字等の報告…
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