抗うラミーだが……
ここでまた書き溜めに入ります。
お待ち頂ければ幸いです。
※※※
「……相変わらず不健康そうな体型ね」
「ん? 何か言ったかい? ラミー」
「いいえ何でも。でもヴァルドー、どうしてこんな辺境の地に居るのかしら? あなたは王都で監視対象だったし、王都から出てきてはいけない筈ではなかったかしら?」
「そうそう。それだよー。僕が王都から出てきた理由は。ずっと見張られてて息詰まっちゃうし、女を自由に抱けないなんてさー、やってられないでしょ? だから王都から遠く離れたここまでやって来たんだよ。ここなら僕がやりたい放題したところで、パパやママからお咎めも無いだろうし。だって管理してるの辺境伯、僕より位が下だからね」
「その、パパとママの監視をどうやって抜けたのかしら? 同じ王族が監視をしていた筈なのだから、容易では無い筈だけれども?」
ラミーの疑問にヴァルドーはぷっくりしたお腹を擦りながら「ふふ~ん、それは内緒ー」と可愛い子ぶった仕草で答える。
その醜い容姿とは裏腹なその態度に、ラミーは寒気を覚えながらも「で、私に何の用かしら?」と気丈に質問する。
「そりゃあ勿論、僕の女になって貰おうって話さ。まさか愛しのラミーとこんなとこで会えるなんて思いもしないだろ? そもそも王都から逃げた時もラミーの事が気がかりだったんだ。だけどこうして出会えるなんて。もうこれ、運命?」
「……そう簡単に私が捕まるとでも?」
緊張した面持ちで身構えるラミーに、ヴァルドーはブハハハと鼻を鳴らし笑う。
「あのさあ。王都ならともかく、ここデムバックにはラミーを守ってくれる王族居ないんだよ? どうやって僕に抗うの? それに他にも女3人居るらしいじゃん。全員美女だって聞いてる。でもラミーさえ僕の傍に来てくれれば、そいつ等は僕の相手しなくて良いよ」
……やはり警備隊長はヴァルドーに自分達の事を報告していた様ね。
ラミーは警戒を解かないまま自身の魔法の杖を構える。
「私だって腐ってもゴールドランク。大人しく捕まる気は無いわよ」
「おいおい。それでもたかがゴールドランクじゃないか。なあラミー、無駄な抵抗は止めよう? 折角の君の美貌に傷つけるのは僕の本意じゃないんだ」
それでもラミーは構えを解かない。ヴァルドーは、はあ、と溜息を吐きながらボリボリと頭を掻き、人差し指をラミーに向け「バインド」と唱える。
するとヴァルドーの指先から急に糸が発射され、シュルルとラミーの身体を縛った。突然の事に縛られながら驚くラミー。
「え? こ、これは何の魔法なのかしら? こんな魔法知らないわよ」
「まあ僕は王族なんでね。下々が知らない魔法が使えて当然なんだよ。ていうかラミー、僕を舐めすぎて無いかい? 僕は王族。さっきからタメ口なのも、本来なら許されないんだよ?」
「……あなたみたいな外道に敬語は必要ないわ」
縛られながらも睨みつけるラミーに、ヴァルドーは少しイラっとする。
「ラミーだから優しくしてやってるのに。余り調子に乗るなよ。まあいいや。続きは持って帰ってからで」
そう言ってヴァルドーは縛られたままのラミーを風魔法でふわりと浮かせ、そのまま運ぼうとする。だがラミーは「ストーンバレット」と唱え、沢山の石の礫を生成させヴァルドーに向かって放った。
だがヴァルドーは避けようともせず、またも、はあ、と溜息1つ吐いて「メタルボディ」と唱える。するとヴァルドーの身体全身がぶよぶよだった腹も含め一気に硬化し、鋼鉄の塊となった。その状態でラミーの放ったストーンバレットがヴァルドーに当たる。
だが、カキン、カキンとまるで金属に当たるかの様な音を小さく響かせる。どうやらヴァルドーには一切ダメージが無い模様。それからバラバラと沢山の石の礫がヴァルドーの足下に落ちる。そして石の礫が飛んで来なくなると、ヴァルドーはメタルボディを解く。
それでも縛られたままのラミーは「まだまだ!」と、水魔法と風魔法を織り交ぜ、「ウォーターウェーブ」と唱え一瞬にして強烈な水圧をヴァルドーにぶつける。だがそれをヴァルドーは「ウインド」と呟き、ただの風だけで大量の水圧を押し戻した。
「ラミーのその2種類合成攻撃魔法、本当に素晴らしいと思うよ。それが出来るから君はゴールドランクにまでのし上がったんだもんね。でも王族の元では稚戯に等しい。残念ながらね。同じ魔法でも魔力に差があるから太刀打ち出来ないんだよ。そんな事、賢い君なら判ってる筈だよね」
ラミーは縛られたままでも睨みつける。そして疑問に思っていた事を口にする。
「あなたは王都に居た頃、ここまで魔素を保有していなかったのに、どうして今はこんな膨大な魔素を持っているのかしら? それにここまで巨大な魔素なら、もっと早くに私が気付いていた筈。なのにずっと分からなかったわ」
ラミーの言葉に「ふふ~ん、だって僕、王族だし?」と答えるヴァルドー。
「さっきも言ったけど王族は特別なんだよ。まあいいや。ラミーだから特別に教えてあげる。この町を覆う薄紫の結界、これが僕の魔法をより強くしてるんだよ。この中じゃあ僕は最強。もしかしたら王にも勝てるかもね」
「……不敬な。人類最強の王様に勝てるだなんて。そもそもこの結界はどうやって張ったのかしら? 相当な魔素が必要な筈よ」
「それはラミーが僕ともっと仲良くなってくれたら、教えてもいいかな~」
「あれだけ王都で私が避けていたのに、未だ仲良くなれるつもりでいるその神経が凄いと思うわ」
「お褒めに預かり光栄~」
「……褒めて無いわよ」
……まだ。まだよ。もう少し。ミークが言っていた、重力を意識するのよ……。よし、気付かれていないわね。
「……」
「もうお喋りは終わり? じゃあ連れて行くよ」
「……そうね。名乗るとしたら……。メテオアタック!」
「え?」
突如魔法を唱えるラミーに驚くヴァルドー。するとヴァルドーの周りが徐々に影に覆われる。疑問に思ったヴァルドーが見上げると、遥か上空に巨大な岩が浮かんでおり、それが突如、ヴァルドーの頭上に落ちて来た
「なっ! クソ! パワーアップ!」
慌ててヴァルドーは咄嗟に自身の身体強化の魔法を唱え、そしておちてきた巨岩を両手でガシ、と支える。だが、その重量が徐々に増えていく。
「な……、な、何だこれは! お、重くなって……?」
「フフ。知らないでしょうね。私も今初めて創ってみたんだもの」
「つ、創った、だと? ググ、つ、潰される!」
焦りながら段々重くなる岩を必死で支えるヴァルドー。足下を見ると、ラミーが先程放って堕ちている筈の石の礫が全て無くなっていた。
「先程ストーンバレットで放った石の礫でその岩を作り、そして重力を操り押し潰す。そういう魔法なのよ」
「グッ……、じゅ、じゅう? 何だって?」
「知らなくていいわよ。……はあ、はあ。そのまま潰れてしまいなさい!」
魔法を行使し続けているラミーも息が切れてくる。更に岩に荷重がかかる。ヴァルドーは「うおおおおお!!」と叫びながら何とか持ち上げるも、今度はドコン、とヴァルドーの足ごと地面がめり込み身動きが取れなくなる。
「ぐおおおおおお!」
「はあ……はあ……。早く、早く押し潰されなさい!」
どんどんヴァルドーが地面にめり込んでいく。ヴァルドーは必死の形相で持ち堪えていた。
だが急にヴァルドーはニヤリと笑い、ポイ、とその巨岩を自身の隣に放り投げる。ドドーン、と地響きと共に地面を陥没させ落ちる巨岩。
「なっ! な、何故?」
「ふふ~ん。この程度で僕が潰れるとでも? 中々良い演技出来てたでしょ? にしても面白い魔法だねー。流石ラミー、君は本当に才能がある。王族じゃないのが勿体ないよ」
「く、くそっ……」
余裕綽々にめり込んだ足を引っ張り出すヴァルドーに、ラミーはガク、と膝から崩れ落ち座り込む。
「魔素も切れた様だね。どうだい? 無駄な抵抗は止めといた方が良い、って理解したかい?」
「くっ……」
縛られたまま地面に膝をついたままでもラミーはヴァルドーを睨みつける。
「ん~。良いねぇその表情。ラミーみたいな美女が抗うその様、ゾクゾクするよ。でも僕と一杯イチャイチャしたらそんな気も無くなると思うよ? さあて、続きは僕の部屋に戻ってからしようか?」
そう言いながらニヤニヤした表情を絶やさず近づいて来るヴァルドー。ラミーは睨みつつもその表情には焦燥の色が浮かび上がる。
そして歩み寄ってきたヴァルドーがラミーの肩に手をかけようとしたその時、ピシュン、と白い光がヴァルドーのその手を貫いた。
「うぎゃあ! な、何だ?」
突然の痛みに驚き一瞬ラミーから距離を取るヴァルドー。更にラミーを拘束していた魔法の糸が、ピシュン、ピシュン、とまたも白い光によって焼き切られ、ラミーは自由の身となりサッと更に距離を取った。
ラミーの様子を見つつヴァルドーは血が滴る手を抑えながら、今度は怒りを含んだ真顔でラミーを見つめる。
「何をした?」
その怒りの表情にラミーはフッと笑いながら「私は何もしていないわ」と答える。
「何もしていない? ならどうして僕の手から血が出ているんだ? どうしてラミーの拘束が解かれているんだ?」
そこでギルドの2階の窓から、ふわっと1人の黒髪の超絶美女が飛び出し、静かにラミーの傍に舞い降りた。
「ラミー、良く頑張った。後は任せて」
「ええお願い。やってみたい事も出来たし、ある程度聞きたい事も聞けたけれど、でもまだ秘密を持っているみたいだから殺しては駄目。王族と言えど人間だから。身動きできない様捕まえて」
「了解」
そう答えた黒髪の美女、ミークはパン、と拳と手を打ち付け、ラミーを自身の後ろへ誘った。
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※因みにエイリーも魔素切れしましたが、それでも体力に影響がないのは「精霊魔法」だからです。




