デムバックが何かきな臭い
すみません。また書き溜めに入ります。
でも次は直ぐ投稿できそうな気配。
※※※
「ふぃ~、やっと着いたぜ」
「ここまで来りゃあもうこっちのもんだな。ヘヘ。丁度魔物の死体も良い感じに解凍出来てらぁ。これなら問題無く換金出来るだろう」
「だな。だが一応魔物は隠しとこうぜ。どんな奴が居るか分からねぇし」
「そうだな。そうすっか」
そして2人は一旦馬から降り、魔物の死体4つに大きな布を被せた。それから男達は馬の手綱を手に持ちつつ引いてきた荷車を操りながら、隣の町デムバックの入り口の門番の元に向かった。
デムバックの入り口には鎧を身に纏った門番2人が警護していた。そのうちの1人が2人を目視で発見し、訝しげな顔で声を掛けてきた。
「おいお前等、見かけない顔だな」
「そうだろうな。なんたってファリスから遥々やって来たからなあ」
返事を聞いた門番は片眉をピクリと上げる。
「ファリス? あの辺境の町の?」
そう呟くともう1人の門番に目配せし、「ちょっと待ってろ」と男達を待機さえ、門番2人は中に入っていった。その様子を見て2人は同時に顔をしかめる。
「あん? 何で中に入ったんだ?」
「おいもしかして……、ファリスから俺等の事連絡来てたんじゃ……」
その言葉にハッした男。どうする? 門番が戻ってくる前に逃げるべきか? 一瞬そう考えたところで門番2人が戻って来た。
「お前等、そのなりからして冒険者だろ? ランクの証明見せてみろ」
「「……」」
男達2人は顔を見合わせる。どうやら自分達の事は知らないらしい。という事はファリスから連絡があった訳ではないだろう。犯罪者を判別する水晶玉を使う事も無かった事で、2人は恐る恐るながらも、共にメタルランクの証であるメダルを素直に提示した。それを受け取った門番はじっくり確認した後、「本物だな。じゃあ入れ」と、ギギィと軋ませながら、高さ3mはありそうな大きなアーチ状の木製の門が開いた。それを見て2人はホッと安堵の表情を浮かべた。
そして中に入ると直ぐまた、門は軋ませながら閉じられた。2人はそれを確認した後、「おっしゃあ!」「これで漸く気が抜けるぜ!」と飛び上がり、喜びを全身で表した。
「ヘヘ。上手く行ったなぁおい。門番に止められなけりゃあもう大丈夫だろ。とにかく身銭も欲しいし美味いもんも食いてぇから、早速死体を換金しに行こうぜ」
「おう、そうだな」
意気揚々と2人は魔物の死体を換金する為ギルドに向かおうと、町の人間を呼び止め場所を聞こうと辺りをぐるりと見回す。だが、町の様子を見て2人揃って首を傾げる。
「……何だか活気がねぇな? てか人居ねぇ」
「そういや喋ってる声も聞こえねぇな。商店も閉まっちまってる。まだ昼過ぎた位なのに」
不思議に思った2人だが、とりあえずもう少し奥の方へ進んでみようと、カッポカッポ、と馬の蹄の音を響かせ町の奥へと進んでいく。デムバックはファリスより大きな町。その分人も多い筈なのだが、余りの静けさに2人は不気味ささえ感じている。
「俺、この町来たの初めてだが、これが普通なのか?」
「俺も初めてだがこれが日常ってのはちょっとなあ。てか門番にギルドの場所聞けば良かったぜ」
「そうだな。今から戻って聞きに行くか? ……って、おい。あったぞ」
偶然目の前にギルドと書かれた看板が付いてある建物が目に入った2人。その建物は煉瓦造りで5階建て。明らかにファリスのギルドより大きく立派だった。
「おお、流石デムバックだ。町の規模がデケェだけある。ギルドの建物も一丁前だ。じゃあ早速行くぜ」
時間帯を考えれば冒険者は出ずっぱりで居ないだろうが、ギルドなら中には受付嬢は居る筈。町の静けさの理由を知りたい2人は、やや急ぎながら馬を外に繋いでから中に入った。
入り口は両開きの木製だが、かなり堅固で重厚感のある扉。だが2人が引くとキイと軋む音がして簡単に開いた。
中はファリスのギルド前の大広場程広く天井が高い。そして予想通り冒険者は1人も居なかった。
「よし、俺が受付行ってくるから、お前外の素材見張っててくれ」
「おうよ」
漸く素材を換金出来る。ニコニコしながらギルドの受付に向かう男。死体はキラータイガーという、シルバーランクが漸く倒せる位の魔物。それが4体もあるのだから、相当な金になるだろう。
流石ファリスとは違い規模が大きいからか、受付台は6つある。だが受付嬢はどうやら今は1人しか見かけない。しかし昼のこの時間帯であれば、受付嬢が食事に出かけていたり、別の作業をしていたりするのはファリスでもあったので、その点は気にせず、男は受付嬢の元へ歩いて行く。
金を手に入れたら暫くここデムバックでゆっくりしよう。美味い飯にもありつこう。そう、あれこれ思い巡らしながら受付台に肘を置いて「おう。素材と魔石の換金頼むぜ」と声を掛けた。
だが返事が無かった。男は「?」と首を傾げる。受付台越しには確かに受付嬢は居る。だが何だか様子がおかしい。返事をしないどころか男の顔を見さえせず、何処か怯えている様に見える。男は不思議に思いながらも再度「おい、聞こえてんのか? 換金だ換金」とやや強めの声でそう言うと、受付嬢はビクッと身体を強張らせ「わ、分かり……ました」と、要約小さな声ながら返事した。
一体何なんだ? 気になった男は会話でもしてみようと、「おい。他の受付嬢は奥で作業でもしてんのか?」と質問してみる。だが受付嬢は目を逸らしたままその問いには答えない。が、そのままで男に質問を返してきた。
「あ、あの……、そ、素材……、は……?」
「あ? ああ、外に置いてあんだ。もう1人が見張ってる。ちょっと取って来る」
何をそんなに怯えてやがんだ? 男は首を傾げながらも外に待たせている相方の所へ向かおうと、ギルドの外へ出ようとすると、キィ、と徐ろに扉が開き、見知らぬ男が中に入って来た。
「あん? 見ねぇ顔だな? お前冒険者か?」
怪訝な顔をしながら声を掛けられる。男は漸くまともに会話できそうな、出で立ちからして冒険者と思しき、この町の人間に出会い、表情を明るくする。
「ああ。ついさっきファリスから来たばっかだ。外で相方が素材の番してるから、取りに出てきたところだ」
男がそう説明すると、入って来た冒険者らしい男は眉を上げる。
「……そうか。ファリスから来たのか。表の荷車と馬はお前等の、って事か」
「? そうだがどうした? てか、この町ん中何で人が居ねぇんだ?」
男が訝し気に質問するが、入って来たその男は返事をせず、ズカズカとギルドの中に入っていき、そして受付嬢が応対していた受付台の中へ無遠慮に入り、更に彼女の肩を抱き締めた。
キャッ、と小さな悲鳴を上げる受付嬢。
「や、やめて下さい! 今は仕事が……!」
「ああ、そうみたいだな。久々に受付嬢として仕事してたみたいだからなあ。ま、あいつが持って来た素材と魔石の処理終わったらいつも通り……、分かってるよな?」
いやらしくニヤニヤ嗤いながら男がそう聞くも、受付嬢は怯えながらそっぽを向き返事をしない。そしてその様子を呆気に取られて見ている、ファリスから来た男。
「お、おい。何やってんだ? ギルドの受付にそんな事したら……」
そう言うと受付嬢の肩を抱いていた男は、ニヤリと笑った後突然受付嬢を抱え、ポイ、とギルドの広間に放り投げた。
「ギャッ!」
ドン、床に打ち付けられた受付嬢。苦痛の表情を浮かべ放り投げた男をキッと睨む。だがそれに怯む事無く、男は受付カウンターからぴょんと広間に飛び出した。
「やっぱお前使うの止めるわ。気が変わった。おう新入り、この女好きにして良いぜ? 俺等のお古だけどな。今ので骨折してなきゃ良いが」
「……は? 何言ってんだ?」
「デムバックの受付嬢は美人揃いだ。こいつも相当良い女だろ?」
「い、いやいやだから、ギルドの受付嬢にそんな事したら……」
男がずっと呆気に取られながらそう言うと、受付嬢を投げた男は「ガハハハ!」と大声で笑った。
「あーファリスは健全なんだな。普通冒険者は受付嬢に逆らえねぇ。そうすっと仕事斡旋して貰えねぇからな。だがここは普通じゃねぇんだ……。いや、本来こうあるべきだ。立場とか関係なく、女は男に逆らうなんてあっちゃいけねぇ。女は男の所有物。そう思わねぇか?」
扉が開いたまま中々戻って来ない相方が気になったもう1人も、いつの間にか中でのやり取りを覗いていて、開いた口が塞がらない模様。
「どういうこった? こりゃあ……」
※※※
高い塀に囲まれたデムバックの町の直ぐ傍、門番がいる入り口と正反対の場所には、対岸が目視出来ない程に広大な湖が近くにある。魚だけでなく魔物も棲息しており、また、水産物も色々採取出来る為、デムバックで暮らす人々の生活の糧として重要な役割を担ってる。
そして同じくデムバックの入り口と反対側の岸の傍、そこには大きな洞窟がある。湖の畔にあるのだが、それは小高い山の麓の、丁度町とは反対側に面していて全く目立たず、しかも魔物が居る訳でも無い為町の殆どの人はその存在を知らない。
中は大きな鍾乳洞になっており、湿気が多くあちこちに苔が生えている。平たい場所が少なく苔むした匂いと酸素が少ないせいで若干息苦しい。なので魔物どころか動物も居ない様である。
そんな、決して良い環境とは言えないその洞窟の中に、女性ばかりが2~30人、身を潜めていた。彼女達の表情は明るくなく疲労感が漂っている。
その中の1人が外の様子が気になった様で、立ち上がりそっと洞窟の入口から顔を出した。
だがそこで「こら!」と洞窟の外から叱る声が聞こえ、覗いた女性がビクッと身体を強張らせ、そそくさと中に引っ込んだ。
「も、戻って来たのね。ミラリス」
叱られた女性は申し訳無さそうに、外に居るミラリスと呼ばれた、頬にそばかすを散りばめ2つのおさげ3つ編みの中年女性に声をかけた。
「今さっきね。ほら、魚も獲ってきたから。てか私が居ない間は顔だしちゃ駄目って言ったよね?」
そう言ってミラリスと呼ばれた女性は、注意した女性を叱りながら、自身も洞窟の中に入り、腰に下げていた小さな麻袋から、10匹程の魚を取り出した。
ビチビチと床で跳ねる魚達を一斉に女性達が抑え込み、早速調理する為奥へ運んで行った。
「異次元収納、本当便利ね」
「その他にも、特に火の魔石と風の魔石は大助かりよ。ここ日中は暑いから風の魔石があると過ごせるし、火は調理に必須だから」
女性達が口々にそう言いながらミラリスを称えると、「本当そうね」と、称賛の声を気にした様子もなく返事するミラリス。
「でも知っての通り、もう調達出来ないから大事に使わないと。異次元収納袋もこれ1つしかない。もう1つは子ども達に持たせたから」
子ども、という言葉を聞いた面々は途端にシーン、と静かになる。それはミラリスに気を使って一瞬何も言えなくなった様子である。
「ミラリスの子ども達、無事だと言いけど……」
うち1人が口に出すと、ミラリスは努めて明るくニコっと笑顔を作る。
「隠蔽のマントと強化の靴を履かせてるから大丈夫だよ。更に持たせた異次元収納袋には沢山食料入れてあるし。あの子達ああ見えてしっかりしてるから。本当は精霊魔法があれば良かったんだけど、あれはお偉い方々しか使えないしね」
「……本当は、一緒に居たかったわよね」
1人がそう言うと、笑顔だったミラリスの顔がフッと寂し気に変わる。だが直ぐ、口をきゅっと結ぶミラリス。
「いつまでもこんなとこに居られないから仕方無いよ。あの子達に託すしか無かったんだから」
「……私達を守らなきゃいけなかったから、だよね。だから一緒に行けなかった」
「ごめんなさい。私達もミラリスみたいに魔法が使えたら……」
「冒険者みたいに、男達みたいに、力があったら……」
皆が一様に申し訳無さそうに口々に謝罪を述べる。その後、シーン、と洞窟内が静かになってしまった。ピチョン、ピチョン、と鍾乳石から溢れる水滴が洞窟内に響く。だがその沈黙を破ったのはミラリス。
「今更そんな事言っても仕方無いって。私も後悔してないし。ほらほら! 皆辛気臭い顔しないで! ささ、お腹も減ったし、食事にしよう!」
そう皆を急き立て奥に追いやった後、ミラリスはいつもの様に隠蔽のマントを入り口に被せた。この隠蔽のマントは被せた対象の姿を、辺りの風景に対象物を溶け込ませ、見えなくする魔導具である。
ミラリスはデムバックで魔石屋を営んでいた魔法使い。だが、数ヶ月前に突如デムバックにやって来た、とある人物によって町は大きく変貌してしまい、逃亡を余儀なくされたのである。
当時の事を思い出し、ミラリスはふと独り言を呟く。
「あいつだけじゃなくギルド長までもあんな風になるなんて……。いや、町の男共も感化されておかしくなったんだ。残された女の人達が不憫でならないけど、今の私にはどうしようも出来ない」
悔しそうに下唇を噛みながら、ミラリスはじっと対岸にあるデムバックの町の塀を見る。そして直ぐ、ファリスがあるであろう遠方の、迷いの森方面をじっと見つめる。
「アニタ、リンク……。どうか無事で……」
感想等頂ければ幸いです。




