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どうやら只事では無い模様

いつもお読み頂きありがとうございます。

 ※※※


 初夏の強くなった日差しがファリスの町を照らしている。今はまだ昼を少し過ぎた時間帯。普段のギルドであればこの時間、冒険者はまず居ないのだが、今日はまだ日中だと言うのに冒険者達がそこそこ居る。普段行っている討伐とは違い、今は殆どの冒険者が魔物の死体を持って帰って来る依頼をしているので、死体の大小によっては早く帰って来る冒険者が居るからである。よって受付の前には手続きの為、若干の行列が出来ていた。


 だが今、受付のネミルの前に出来ている行列は、どうやら何時もの素材や魔石の取引が原因では無い様子。ネミルが受付している冒険者は明らかにイライラしながら、説明を聞いていた。


 その冒険者はネミルの再三の説明を聞いた後、「もういい加減にしろぉ!」と突如ダァン、と机を強く叩いて苛立ちを露わにした。その大きな音と声がギルド内に響き渡る。驚いた冒険者達が何事だ、と一斉にそちらを見る。


「だーかーらー! こちとらツケの支払い期限迫ってんだよ!」


 周りを気にせず怒りをぶつける冒険者。ネミルも事情が事情なだけに、いつもの強気な態度ではなく、申し訳無さそうに対応している。


「事情は分かりますけど、こちらとしてもそれ以上言われてもどうしようも出来ないんです」


「そこを何とかするのがギルドの仕事だろうが! こっちは言われた通り死体運んできてんだぞ!」


「ですから、換金しないって言ってる訳じゃなく……」


「後回しって言ってんだろ? さっきからずっとそう言ってんだからな。でもそれじゃ間に合わねぇんだよ! 何とかしろよ!」


 中々受け入れてくれない。どうしよう、と、ネミルが喚き散らしている冒険者の対応に四苦八苦していると、騒ぎが聞こえたからか、階上からギルド長のラルが「どうした?」と声を掛けながら降りて来た。


「この人が、絶対換金しろって……」


 困った顔でネミルがそう言いかけると、今度はラルに詰め寄る冒険者。


「おいギルド長! 話が違うじゃねーか! 俺ぁちゃんと指示通り、傷1つ付けずに魔物の死体を持って帰って来たんだぞ? なのに何で換金しねぇなんて言うんだ?」


「しねぇって言ってねぇだろ。出来ねぇんだよ」


「何で出来ねぇんだよ!」


「もう硬貨が尽きちまったんだよ!」


 怒鳴る冒険者に更に大声で怒鳴り返すラル。その強い返しにビクッと身体をこわばらせる冒険者。


「お前の言い分は最もだ。だがギルドに金がもう無ぇんだよ。だから出来ねぇんだ。分かったか?」


 ラルの迫力に気圧されやや怖気づく冒険者。だがそれでも何とか反論する。


「じゃ、じゃあどうしろと?」


「素材と魔石はそのままお前のもんだ。それで都合つけたらどうだ?」


 ラルにそう言われハッとする冒険者。


「あ、そ、そっか。その手があったか……」


 換金出来なくてもやり様はある。それに気付かされた冒険者は途端に大人しくなった。その様子にラルは頭をガシガシ掻きながら「分かったらさっさと手続き済ませろ。後ろ詰まってるから」と伝えると、最初の勢いはどこへやら、冒険者は粛々とネミルに手続きを依頼した。


 そこへ、どうやら同じく騒ぎを聞きつけたらしい、奥の倉庫で作業をしていた商人イドリスが顔を覗かせた。


「うーむ、とうとう不満が爆発した様ですなあ」


「ああ……。てか、そっちの返事はまだ?」


「ええ、そうなんです。そちらも?」


「そうなんだよな……」


 騒ぎが落ち着き、いつも通りの喧騒が戻ったギルド内を見ながら、ラルは顎に手をやり考え込む。


「ギルドだけじゃなく、イドリスにまで返事無いって、どう考えても普通じゃねぇ……」


 イドリスも同様に困ったという顔をする。


 ラルは以前、魔物の死体をファリスのギルドに持ち込まず、逆方向へ逃げてしまった2人組について情報提供の依頼で、精霊魔法を使って隣の町へ連絡をしていた。そしてイドリスは硬貨の補充と、素材と魔石の処理の手伝いを寄越して欲しいと言う依頼の為、同様に精霊魔法で隣町の顔馴染みの商人へ精霊魔法を送っている。


 だが、どちらも既に2週間以上経過しているにも関わらず、一向に返事が無いのである。


「何にせよ、このままだとどんどん冒険者の不満は膨らむ一方でしょうね。一応待ってくれる冒険者については、帳簿をつけて後払いにするって事で今は落ち着いていますがね。まあ人手については冒険者に依頼、という手も使えますが、悲しい事に私も硬貨の蓄えが底を尽いておりまして、報酬を支払えないのですよ……」


「ギルドがあんたから手持ち全部調達しちまってるからなあ……。それについては申し訳ない」


「いえいえ。こちらとしても、希少で痛みが殆どない素材と魔石に交換出来ておりますので、寧ろ感謝しているくらいですよ。それより……」


「ああ。デムバックから返事が無い、ってのはちょっと異常だな」


 漸く動き出した行列を眺めながら、2人揃ってうーむ、と唸っていると、ギルドの扉がキィ、と軋みながら開き、ミークが子ども2人を連れて入って来た。冒険者達が一斉にざわざわしだす。ギルド内のむさ苦しい雰囲気に気圧された子ども達2人は、ビクッと身体を強張らせ、シュッとミークの後ろに隠れた。


「あ、怖かった? でも大丈夫だから、あ、丁度良い」


 子ども達に話しかけた後、ミークは呆気に取られた顔をしたラルを見つけ、「すみません。今話出来ますか?」と声を掛けた。


「あ、ああ。時間はある……、ってどうしたそいつ等?」


「隣の町のデムバックから来たって言うんです。ちょっと事情があるみたいで」


「「……」」


 ミークからデムバックという言葉が出てきたのを聞いたラルとイドリスは、たった今その町から連絡がない事を話し合っていた事もあり、互いに顔を見合わせた。


「何か訳ありの様だな。分かった。その子ども達も連れてギルド長室に来てくれ」


 ラルにそう言われミークは「分かりました」と答え、まだ少し怯えた様子の子ども達の背中を優しく押し、「大丈夫だよ。行こうか」と微笑みながら、冒険者達が注目する中、子ども達と共に2階へ上がっていった。


 ※※※


 ギルド長室の長椅子の中央にミーク、それを挟む様に両脇に子ども達。2人はラルを警戒している様で、ぎゅっとミークの服の端を掴みながら怯えた上目遣いでラルを見ている。


 ラルは参ったな、と苦笑いしながら頭をガシガシ掻いて、「俺はお前等の味方だ。心配すんな」とニカっと笑いかけてみるが、その笑顔にビクっと身体を強張らせ、2人はミークの後ろに顔をシュッと隠した。


「……おいおい。俺も流石に傷つくぞ? そんな強面でもねぇ筈なんだがなあ」


 ややショックを受けているラルは、はあ、と小さく溜息を吐く。ミークはその様子にクスリ、と笑いながら、


「2人共大丈夫。この人は怖くないよ。ちゃんと話聞いてくれるから」


 そうミークが2人を優しく諭すと、隠れていたミークの背中から揃ってそーっと顔を覗かせた。


「……でもこの人、ギルド長、なんでしょ?」


 姉のアニタが怯えた声で質問すると、ラルがその言葉に反応し嬉々として自己紹介する。


「おうそうだ。俺はこのファリスのギルド長のラルってんだ。ギルドで一番偉いんだぞ? だからそんなに怯えなくても大丈夫だ」


 すると今度は弟のリンクも恐る恐る「でも……、ギルド長……、悪い人、だもん」と呟く。


 その言葉にラルもミークも「「?」」と呆気に取られ、ミークが「どういう事?」と2人に質問する。


「デムバックでギルド長が……、沢山の女の人に……、悪い事……、したもん」


 絞り出す様な声で答えたリンクの言葉を聞いて、ミークとラルはお互いの顔を見合わせた。そしてミークは弟のリンクをスッと抱き上げ姉のアニタの横に座らせ、真面目な顔で「詳しく聞かせて?」と伝える。


 すると2人は何か思い出したのか、グスグスとすすり泣き始める。ミークは努めて優しく「大丈夫大丈夫。ゆっくりで良いから。ね?」と2人の頭を撫でながらそう言うと、アニタがやや嗚咽しながら話し始める。


「ヒック……。偉い人が来て……、グスッ……、それから、それから町がおかしくなったの……」


「グス……。急に町の男の人達怖くなって……、ヒック……、僕達のお母さんとか、連れて行こうとしたの……」


「「……」」


 たどたどしく話す子ども達の言葉を聞いて、ミークとラルは共に只事では無い、と悟り、それから2人からゆっくり事情を聞く事にした。

感想等頂ければ幸いです。

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