アニタとリンク
更新遅くなり申し訳ございません。
リアルが滅茶苦茶忙しく更に次の展開を書くのに相当悩んでいたので……。
取り急ぎ更新します。
※※※
ミークは先程見つけた幼い子ども2人を抱え空を移動している。ボロを着た幼い姉弟は先程まで泣いていたのだが、今は空を飛ぶという初めての経験にとても興奮していて、メソメソしていたさっきまでとは打って変わってキャッキャと喜んでいる。因みにミークは、風圧で子ども達に余り負荷がかからない様、時速20km程度のゆっくりしたスピードで飛んでいる。
「お姉ちゃん! 僕達鳥さんみたいだね!」
「凄いね! ねえねえ美人のお姉ちゃん、魔法使いなの?」
屈託の無い無邪気な笑顔でそう質問され、ミークは苦笑しながら「私が美人かどうかはともかく、魔法使いじゃないよ」と答える。すると弟の方が「え~? 嘘だぁ」と疑いながら質問する。
「じゃあどうしてお姉ちゃんはお空を飛べるの?」
率直な質問にミークはどう答えようか少し悩んだ後、「そういう力を持ってるから、かな?」と当たり障り無い答えを返す。そして「そろそろ着くよ」と子ども達に伝え、徐々にスピードを緩めながらゆっくりホバリングし、ラミーの居る地表に降り立った。
だがラミーは空から降りて来たミークを見てギョッとする。
ラミーの反応に首を傾げるミークだが、その理由は直ぐ判明する。幼い2人は降り立った途端、辺りの様子を見て揃って顔を強張らせ、ギュッとミークの足を抱きしめた。「どうしたの?」と不思議そう質問するミークに、ラミーは、はあ、と小さく溜息を吐いた。
「ミーク、周りをご覧なさい。コボルトの死体だらけでしょう? 怯えるに決まっているじゃない。せめて見えないところで降ろすべきだったわ」
「あ」
しまった、という顔になるミーク。ラミーの指摘通り、ミークとラミーの居る場所は、先程ニャリルとエイリーがコボルト達を倒した場所で、あちこちに死体が転がっている。因みに2人は少し離れた所で素材と魔石の採取を行っていて、ミークと子ども達が降り立った時、気付いた2人は揃って手を振り、そして再び作業に戻っていた。
やってしまった、どうしよう、とあわあわするミークを見てラミーは若干呆れながら、未だ怯えてミークの足にしがみついて震えている子ども達の視線を合わせる様、腰を落として姿勢を低くし、そして子ども達に優しく話しかけた。
「心配要らないわ。ここの魔物達、もう全部死んでいるから」
微笑みながら話しかけるラミー。2人はそーっとミークの影から顔を覗かせる。
「ほ、本当? 誰が倒したの? ……冒険者の人居ないみたいだけど」
「あ、赤毛のお姉ちゃんのその格好、魔法使い? じゃあ、お姉ちゃんがやっつけたの?」
確かにラミーは魔法使いらしく紺色のローブを身に付けている。ただミークから貰ったチタンとタングステン合金の防具を着けているので普段とは少し違うのだが。そんな子ども達の質問にラミーは「違うわよ」と微笑みながら否定する。
「確かに私は魔法使いだけれども、殆ど手を出していないのよ。あそこで作業している2人がほぼ全て倒したのよ」
ラミがーがそう答えたので2人はニャリルとエイリーを1度振り返って見てみる。だが直ぐ揃って「「嘘だー」」とラミーに向き直り反論した。
「あっちの女の人達、絶対魔法使いじゃない。普通の女が魔物倒せる訳ないよ」
「赤毛のお姉ちゃんが倒したって言うんなら分かるよ」
……こんな幼い子達でも、女性に対してそういう認識なんだ。
ミークはやり取りを聞いていて軽くショックを受けた。一方ラミーは気にする事も無い様子で「まあ信じられないわよね」と呟く。
「とにかく自己紹介するわね。私はラミー。そして君達を連れて来たその黒髪の美人がミーク。あちらで作業してる猫耳獣人がニャリル、尖った耳のエルフがエイリーよ」
「私はアニタ」
「僕はリンク。ラミーお姉ちゃんだって美人だよ」
リンクと名乗った男の子にそう言われ、少し頬を赤らめながら「ありがとう」と微笑むラミー。
「ところで、2人はあんなところで何をしていたのかしら?」
ラミーがそう質問すると、アニタとリンクはお互い一旦顔を見合わせ、そして何かを思い出したかの様、に突然「「うわあああーーん!!」」と揃って大声で泣き始めた。
「え? え? 急にどうしたの?」
「え、えっと。何処か痛いのかな?」
ラミーとミークは子ども達が泣き出した事に驚きあわあわと狼狽えてしまう。もしかして何処か怪我でもしている? そう思ったミークは、子ども達の身体を紅色の左目でスキャンしてみた。
ーー2人の状態を確認します……。姉の体温36.5°、左肘と右膝に微小の裂傷。弟の体温35.9°、足の裏に微小の裂傷あるものの、それ以上の怪我は無し。2人共内臓の損傷その他病原菌も無し。麻痺や毒といった類の感染も見つかりません。ただどちらも栄養失調気味ですーー
「どうやら怪我はしてないみたいだけど」
「そ、そうなの?」
サーチし終わったミークはホッと胸を撫で下ろす。一方何故ミークはこの子達の状態が分かったのかしら? と疑問に思ったラミーだが、またいつもの不思議な力でしょうね、と無理やり言い聞かせる。
とにかく未だわんわん泣いている子ども達をどうすべきか分からず困っている2人。ミークとラミーはとりあえず揃ってしゃがみ、落ち着かせようと子ども達の頭を撫でてみたりしてみた。そして泣き声が聞こえたらしい、ニャリルとエイリーが作業を一旦止め駆け寄ってきた。
「どうかしたかにゃ?」
「急に泣き声聞こえてきたけど」
2人も心配そうな顔で子ども達の視線に合わせる様腰を落とす。ミークとラミーは努めて優しく話しかける。
「どうかした? ゆっくりで良いから話してみて」
「そうね。私達で良ければ聞くわ」
すると子ども達は少し落ち着いたのか、ヒックヒックと嗚咽しながら話し出した。
「グス……、ヒック……、私達……」
「お母さん……グス……、お母さんを……ヒック……、助けて、欲しくて……」
その言葉に4人は顔を見合わせる。
「お母さん、どうしたのかにゃ?」
「助けて欲しい? どういう事?」
「そもそもお母さんは何処に居るのかしら?」
「ていうか、君達何処から来たの?」
それぞれ疑問を口にするミーク達。それに姉のアニタが嗚咽しながら答える。
「グス、私達……、デムバックから……、歩いて、来たの」
「「「デムバックから歩いて?」」にゃ?」
それを聞いたミーク以外の3人は一様に呆気に取られる。
「デムバックって……、あんな離れた場所から? 歩いて? 馬でも相当時間かかるのに……」
エイリーが驚きながらそう口にする。3人の様子を見てミークは場所が気になったので、確認しようとしゃがんだまま空を見上げ衛星にアクセス。そしてAIに指示し、ファリスの隣の町だというデムバックを調べさせた。
ーー衛星より当該場所をサーチします……。ファリスより58.85km離れた場所に、楕円の形状をしており周りを高さ4.6~5.8mの壁に囲まれた、長径1.27km短径0.65kmの町を発見しましたーー
そしてAIは衛星が上空から撮影した映像を、ミークの脳内に映し出した。
「……ふむ。ファリスより広いみたいだね……、って、あの距離を歩いて来たの?」
ミークも場所を知り改めて驚いている。だが他の3人は、ミークが知らない筈のデムバックについて、まるで知っているかの様に語っている事に呆気に取られている。気になったニャリルがミークに質問する。
「ミークってデムバック行った事無いにゃ? 何で知っている風に話すのかにゃ?」
「ああ。さっき見たから」
「さっき見た? ごめんちょっと何言ってるのか分からない」
眉をしかめるエイリーにミークは「ああそっか」と呟く。
「衛星についてはまた追々説明するよ。皆の武器と防具もそこから持ってきたんだし」
またもミークから聞いた事も無い言葉が出てきて、ラミーも呆れ顔になる。
「エイセイ? 持って来た? 本当意味が分からないわ。確かにあの変わった武器と防具、何処から運んで来たのか気になっていたけれども。まあでも……」
「それが……」
「ミークだにゃ……」
3人は揃って無理やり納得しつつ溜息を吐く。そんな彼女達の様子を他所に、ミークは漸く泣き止んだ子ども達の頭をひと撫でしてからすっくと立ち上がった。
「とにかく詳しく話を聞かないとね。予定を変更して、ニャリルとエイリーは途中になってる素材と魔石採取をそのまま続けて。残りはドローンにさせるから。で、採取終わったらそれら全部持って来て。ラミーは2人を見てて。私はこの子達連れてファリスに先に戻る」
「そうね。この子達を作業が終わるまで待たせる訳にもいかないもの……、って、どろーん? って確か、ダンジョンでも使ってたアレの事かしら?」
ラミーの疑問に「そうそう。ここの魔物達の監視にも使ってるからね」と相槌を返した後、ミークは泣き腫らし目が真っ赤になった姉弟を優しく抱え、「また飛ぶよ」と伝えて直ぐ、ふわりとゆっくり空中に浮かび上がり、3人を残してファリスに向かって飛んで行った。
感想等頂ければ幸いです。




