ニャリルとエイリーの挑戦
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ラルの号令とほぼ同時に、3人組は一斉に「おらあ!」と声を上げながら2人に覆い被さる様に飛びかかった。だがそれを見越していたかの様に、ニャリルとエイリーは難なくスッと左右に移動しそれを躱す。
そして間髪入れずニャリルは、右側の男の膝の関節へ、「うにゃ!」と気合を入れ上から思い切り踏みつける様に蹴りを入れた。ゴス、と鈍い嫌な音が響き、そしてその衝撃で男の足は歪に反対方向へ曲がる。
「うぎゃああ! あ、足があああ!」
耐えられずそのまま崩れ落ちる男。更にニャリルは苦痛に歪むその顔に「うらにゃ!」と一声、ドン、と強烈な拳をねじ込む。綺麗に顎に入ったそれのせいでぐにゃりと男の顔が反対方向へ変形する。
そして男は「ぐはあ!」と声を上げながら、ドスン、と泡を吹きながら地面にひれ伏した。
一方のエイリーを顧みてみると、右腕の辺りに何やらふわりと風が湧き上がっている。その風の様なものがエイリーの腕を中心にして、竜巻の様に纏わり付いていく。それからエイリーはその右拳を「ハッ!」と虚空へ向かって打ち出すと、纏わり付いていた風が風圧となって飛んでいき、ニャリルと反対側の男の脇腹にドン、と鈍い音を立てヒットした。
「あ、あがが!?」目に見えない、突然感じた強烈な横腹の衝撃に、男は驚きながらもそのまま数m吹き飛び、ドン、ゴロゴロ、と地面に打ち付けられ気絶した。
「「「「……」」」」
正に一瞬の出来事。ニャリルとエイリーは一方的にやられるだろう、そう思っていた殆どの観客達は、まさかの結果に皆呆気にとられ静まり返る。それは1人残された男も同様で、両側に居た2人が倒された様子を見ても、何が起こったか理解が追いついていない。
「一体……、何が? ……お前等何をした? まさか……、ミークかラミーが、手助けしたのか?」
パンパン、と手を払うニャリルとエイリーは、「そんな訳無いにゃ」「私達しか攻撃してないよ」と、澄ました顔で反論するが、目の前の男は信じる事が出来ない。
「嘘つけ! お前等そんな華奢なのに、そんな機敏に動けてそんな強烈な攻撃出来る訳ねーだろが! 今まで戦いを全く知らないただの女なのに!」
「そう言われても……、ねぇ?」
「困るんだにゃ。実力? としか言えないにゃあ」
余裕なのか、ニャリルはふさふさの茶色い尻尾をふりふり、エイリーは尖った耳をヒクヒクさせながら答える。それを見たからか、男は尚更苛立ちを顕にする。
「じゃ、じゃあそれが本当だとして、ニャリルのその力の強さは何なんだよ! そんな細い腕なのに! エイリーだって魔法使えねぇ筈なのに、魔法みたいな事やったじゃねーか! もしかして、何か武器でも仕込んでやがるのか?」
「いやだから、何も持ってないって」
「何なら身体検査してもいいにゃ」
男は未だ納得いかない様子でキッとラルを睨み付ける。それに気付いたラルは、はあ、と小さく溜息を吐く。
「間違いなく2人は武器持ってねぇよ。てかそもそもお前、武器使えって事前に2人に言ってたじゃねーか。それにミークとラミーも一切手出ししてねぇよ。それは俺が保証する。あの2人がそんなチンケな事する訳ねぇ」
静まり返る闘技場で、大きめの声で話すラルの声が聞こえたラミーとミークは「ゴールドランクに誓って手伝って無いわよ」「私もシルバーランクだけど手を出してない」とこちらも大きめの声で闘技場内に伝えた。
「じゃ、じゃあこいつ等本当に……、実力であの2人のしたってのか?」
「そういう事だな……、まあ正直、俺もびっくりしてるけどな」
ラルの返答に「んな事信じられるかあ!!」と叫び、男はガンガンと自身の両拳を打ち付け気合を入れる。
「もう勘弁ならねぇ。あいつ等がやられたのは舐めてかかったからに違ぇねぇ! 冒険者を舐めてっと痛い目に遭うって事、俺様が教えてやる。本気でいくぞ? 後悔しても遅いぞ? 怒らせたお前等が悪いんだからな!」
怒りを滲ませファイティングポーズを取る男。身長180cm程の巨体で筋骨隆々のその姿、以前のニャリルとエイリーならきっと萎縮してしまっただろう。だが2人は寧ろ強い瞳で男を見返し共に構える。
刹那、男がヒュっと素早くその巨体に似合わないスピードで、ニャリルの直ぐ近くに移動し「おらあ!」と声を上げながら強烈なフックを見舞う。だがそれをニャリルは「うにゃ!」と一旦受け止めたかと思うと、そのまま力を逃し空かした。
「……へっ?」
呆気に取られながらおっとっと、とバランスを崩す男。まさか自身の渾身の一撃を簡単に往なされるとは思っていない。更にその横で何やらヒュウウ、と男の耳に音が入ってくる。何とか身体を立て直した男が嫌な予感がしてそちらを見ると、それは先程同様、エイリーの右腕に纏わり付いている風の音だった。
一体何をする気だ? と思ったのも束の間、エイリーはその風を纏わせた腕で「えい!」と男の鳩尾を思い切りドン、と抉った。
「ぐおおおおお!?」
シックスパックに割れた筋肉の塊の腹に入った一撃。それは想像以上に強烈だった。男は声にならない声を上げ、プルプルとその場で全身を震わせた後、その場に前のめりに崩れ落ち気を失った。
「「「「……」」」」
シーン、と言う音が聞こえそうな程静まり返る闘技場。殆どが思っていた結果と違う成り行きに、観客達はまたも呆気に取られ静かになっている。
一方で最後の1人を倒したニャリルとエイリーは、お互いの顔を見合わせ「やったにゃああーー!!」「よっしゃーー!!」と叫びながら、その場でぴょんと飛び上がり全身で喜びを表した。静かな闘技場に響く2人の喜びの声を聞き、ミークとラミーは共に安堵の表情を浮かべた。
「ね? 大丈夫だったでしょ?」
「フフ。そう言いながらミーク、あなた今凄く安心した顔をしてるわよ。まあ、心配だったのは私もだけれども」
まあね、とちょっと気不味そうに返事しながら、ミークはずっと嬉しそうにしているニャリルとエイリーを暖かい目で見つめた。
※※※
「はいこれ。2人共おめでとう」
ネミルが笑顔でニャリルとエイリーに、冒険者の証明であるウッドランクのメダルを手渡す。2人はその小さなメダルを受け取った後、両手で大事そうに手に持ち、揃って上に掲げてじーっと見つめる。
裏返したり覗き込んだり、少しの間そうやって見つめた後、2人は揃って、
「やったあああーーー!」にゃーーー!」
と、突然ギルド内全体に響く位の大きな歓声を上げた。
その様子をニコニコしながら見つめる、ネミルを始めとする受付嬢達。そして傍にいるミークとラミーも微笑ましく見ている。
「おめでとう。これで一端の冒険者だね」
「にゃ!」「はい!」
ミークの言葉に2人は目に涙を溜め嬉しそうに返事する。ミークも我が事の様に嬉しそうな表情。横に居るラミーも笑顔ではあるが、同時に呆れた様な表情も見え隠れしている。
「しかしたった3週間程度でよくもまあ、ここまで強くなれたわね」
ラミーがそう呟くのを聞いて、ミークは「だって元々ポテンシャルはあったからね」と返す。
「後は戦い方、力の使い方、動き方、そして恐怖心に打ち勝つなどなど、そういう基本的な事を教えれば大丈夫だって確信あったよ。それに……」
「エイリーの、アレよね」
「そうそう。ラミーのお陰。ありがとうね」
ミークがお礼を言うとラミーは照れるのを隠す様に「お礼を言われる筋合いは無いわ」とやや素っ気なく返事する。
「協力したのは私もエイリーのあの能力に興味あったからよ。でもまさか、魔素を使わない魔法があるなんて、ずっと王都で魔法の研究をしていた私でさえ気付かなかったわよ」
「でもこの世界じゃエイリーのあの魔法、日常的に使ってるよね?」
ミークの疑問にラミーは「攻撃に使うなんて思いつきもしないわよ」とやや釈然としない表情で返事する。
「まさか精霊魔法だなんて。でもまあそれが出来るのは、エイリーがエルフだからだけれども」
ラミーの話の通り、エイリーの腕に風を纏わせる攻撃は、実は精霊魔法なのである。
この世界の精霊魔法は、普段通信手段として使用されている。ファリスの町長マルガンが時折遠方にいる辺境伯に連絡をしたり、また、バルバが持って来ていた奴隷紋に、封を開けた証拠として知らせる手段として仕込まれたり、と、この世界のネットワークツールとして利用されている。
精霊とは目には見えない思念体の様なもので、この世界の人々の、精霊に対しての共通認識は、阻害される事無く、距離に関係無く意思疎通が出来るアイテムと言う扱いである。所謂電波の様な扱いである。
ミークはジャミーの店に置いてあった全ての書籍の内容をデータベースに保管しているのだが、今回エイリーとニャリルに対して訓練をする際、獣人とエルフの特徴を調べようとその中から関連資料を探ったところ、エルフは元来森人と呼ばれ、森の中で狩猟をして暮らしていて、更に精霊と意思疎通が出来る唯一の人種で、精霊を狩猟に役立てていた、という文献を見つけたのである。
そこで迷いの森に連れて行って訓練を行った際、エイリーに精霊を呼べるか試して貰ったところ、なんとそれが成功したのである。これを使わない手は無い、とミークは魔法に詳しいラミーに協力を要請し、色々試した結果、精霊特有の風魔法の様な魔法を使える様になったのである。
本来魔法は個人の持つ魔素量により使用出来る量と強弱が変わる。それがこの世界の常識なのだが、精霊魔法は精霊自身の魔素に依るので、当人の魔素保有量は関係無い。よってエイリーは自身が大して魔素を保有していなくても、精霊魔法を使う事が出来たのである。
「でも本来は弓矢みたいな飛び道具に、精霊魔法を付与して威力を増幅させるってのが元々の使い方らしいけどね。他にも精霊に辺りの様子を聞いたりも出来るんだって」
「本当、私みたいにこの世界の固定観念に囚われていたら分からなかった事実だわ」
「でもラミーのお陰で、エイリーの腕に精霊を纏わせ攻撃するって手段が見つかったんだから、やっぱりラミーが居て良かったよ。感謝してる」
「そ、そう……」
率直にミークにお礼を言われたラミーは、はにかみながら顔を赤くする。その様子を見てミークはフフ、と笑う。そして未だキャッキャ喜んでいるニャリルとエイリーに向かって「無事冒険者になれた記念に、2人にプレゼントがあるんだ」と告げた。
それを聞いて2人はピタリとキャッキャを止め、揃って首を傾げる。
「プレゼント?」
「何なのかにゃ?」
「とりあえずちょっとついてきて。あ、ラミーもね」
私も? と驚くラミー。まさか自分にも声がかかるとは思っていなかった。ラミーは2人と顔を見合わせ不思議そうな顔し、そして3人は言われるがまま、ギルドを出て行くミークの後について行った。
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