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やらかし過ぎた

ちょっと忙しくて更新がままならない……。

取り急ぎ今日明日で2話投稿します。

 ※※※


 ファリスからも王都からも相当離れている、植物の棲息が全く見受けられない、岩肌が剥き出しの鋭い刃の様な頂の山が多く立ち聳える峡谷の山間。そこはまず人がやって来る事は無い未開の地である。


 麓の平地も殆ど植物が生えていない為、動物どころか魔物さえ居らず、雪は積もっていないものの山間を吹き抜ける風は肌に突き刺さる様な痛みを感じる程凍えている。


 人が寄り付かないのはこの劣悪な環境故。素材として旨味のある魔物や生物が居ないので、わざわざ来る必要が無いのも頷ける。よってここは、人間達が作る地図にさえ載っていない。


 その山間のとある洞窟の傍に、先程ファリスに居た蜘蛛頭と黒い翼の魔族が、共に突然ヒュッと姿を現した。


 途端、蜘蛛頭は四肢が砕けた状態で地面に転がり仰向けになり、息を切らせながらも黒い翼の魔族に礼を言った。


「はあ……、はあ……。済まない。助かった」


「……」


 だが黒い翼持ちはそれに答えず、四肢を折られ立ち上がれない、まるで虫けらの如く転がっている蜘蛛頭を睨めつける。


「私が知りたいのはお前が失敗したかどうかだが、そういう事だな?」


「……そ、その通りだ」


「あそこにはたった1人、人間の雌が居たのが見えたが、あれはどういう事だ?」


「……」


「もしかして……、戦って負けた、のか?」


 まさか、という表情で質問する黒翼の魔族。実際その通りなのだが、蜘蛛頭にも言い分がある。


「魔素が枯渇していたのだ……」


 嘘は言っていない。だがその言葉を聞いて黒翼は怪訝な顔をする。


「魔素が枯渇? お前はあそこのダンジョンに30年間籠もり、体力と魔素両方を回復していたのでは無いのか?」


「そ、そうだが、魔物を全て放出したのだ」


「魔物全てを放出したというのに、お前は負けたのか?」


 蜘蛛頭の言葉に黒翼は「どういう事だ?」と眉を上げるも「ああ成る程」と、直ぐに得心いったという反応をする。


「大方魔物達を子蜘蛛のまま放出したところを狙われたのだろう? お前が瀕死だったのも子蜘蛛に変身していたところを襲われたのでは? それなら理屈が通る。あの雌は魔素を持っていなかった。魔法が使えぬ人間の雌1匹に敗北する魔族など、この世界には存在せぬしな」


「い、いや、違ッ……!」


「言い訳をしたくなる気持ちも分かるが、失敗した事に変わりは無い。しかもたかが人間の雌1匹に遅れを取った。確かにそれは恥ずべき事だ。だがもうそれは過ぎた事。とりあえずお前はお前の仕事をしろ。そこのダンジョンはまだ未踏破だ。人族が来た事も無い。早速潜って魔素を回復し、そして再び魔物達を使役して来い」


 そう言って飛んで行こうとする黒翼に対し、「ま、待て!」と慌てて制する蜘蛛頭。


「まだ何か用か? ああ、お前の身体を治してやらねばな。魔素が無ければ回復出来ぬし。それは失念した」


 そう言って黒翼は手のひらを蜘蛛頭に向ける。するとそこから黒いモヤの様な物が現れ、それが蜘蛛頭の全身を包むと、たちまち逆方向に向いていた四肢が元に戻った。


「もう二度と失敗はするな。お前を救うのはこれが最後だ。魔族であるならその矜持を貫け」


「お、おい待て! 待ってくれ! 話を……!」


「ええい五月蝿い! これ以上私を頼るな! 偶然近くに居てお前の気配を感じ、それが瀕死だったから行っただけなのだ! 只でさえ数少ない魔族、1人たりとも減らす訳にはいかぬからな」


 そう鬱陶しそうに怒鳴り返した後、黒翼はその大きな蝙蝠の様な翼をはためかせ、空へ飛び立って行った。


「……早とちりしおって。あの化け物について一切説明出来なかったではないか。しかもここは確か最果ての地。魔素を回復させねば、私がファリスに戻る事さえ叶わぬ。それどころかここは同族が来る可能性も低い……」


 蜘蛛頭はあの化け物、ミークについて他の魔族に伝えたいと思ったが、今は魔素が枯渇している為転移の魔法陣さえ使う事も出来ない。よって移動もままならない。


 蜘蛛頭は仕方無し、と肩を落とし、黒翼に言われた通り、直ぐ傍にあるダンジョンへ入っていった。


 ※※※


「うわっ、凄い臭い」


 蜘蛛頭の魔族を逃したミークは、悔しいと思いながらもどうしようもないので、仕方無く皆の元へ戻ろうと迷いの森の上空を飛んでいた。だが、森から漂ってくる途轍も無い死臭を感じ、つい手で鼻を覆ってしまう。そして気になって森の上空で一旦ホバリングで停止し、そして紅色の左目で森全体をサーチする。すると、森の中に夥しい魔物の屍があちこちに散らばっているのが分かった。


「この臭いはそういう事か。……ちょっとこれは、洒落にならないな」


 目視で自身が起こした惨状を確認するのは今が初めて。自分の所業とは言え、その生々しさを知って、ミークは空中で浮いたまま顔を曇らせた。


「地球に居た頃の攻撃対象ってドローンやミサイルで、生き物は一切居なかったから、大量に撃墜しても気にならなかった。だけど今回、私これだけの数の生き物を一気に殺したのか……」


 この世界に来て冒険者稼業をしているミーク。当然幾度か魔物を倒してはいる。だがそれとは比較にならない数の死体を、今改めて左目を通して知り、ミークは茫然としてしまった。


「……」


 魔物は人族の敵。しかも今回一斉にファリスに向かって襲撃してきた。倒さねば大事な人々が殺されてしまう。だからこうするしか無かった。だがこれだけの生き物を殺した事実を知ったミークは直ぐに割り切れない様子。空中で留まったまま、少しの間黙ってそれらを見下ろしていた。


「でもこれ全部、早々に何とかしないといけないよね? そうしないと腐って大変な事になる」


 しかもこの約3万匹の魔物の死体全てから、素材や魔石を採取する必要もあるだろう。ミークは後先考えず全てを倒してしまった事を今更ながら後悔する。


 そうして森を眺めていたミークだが、ふう、と一呼吸置いて気を取り直し、現状出来る解決案を探る事にした。


「とりあえず出来る事をしないと。AI、迷いの森全体で死んでいる魔物が、どれだけいてどの範囲に散らばってるか調べて」


 ーー了解。広範囲に渡る為衛星を使用します。空中で待機中の20機のドローンを通信機として使用し衛星に接続……、コネクト完了。次に衛星の望遠機能を利用し森全体をリサーチします……、計測完了。東西19・74km、南北22.88kmに渡って魔物の死体が散乱しているのか確認出来ました。総数29984匹、56種類と判明。


「案外種類は少ないね。じゃあ次に素材と魔石の採取するとして、どれくらい時間かかる?」


 ーー計算します……。ドローン20機と左腕を使用し採取をした場合を計算……、24時間稼働した予測計算にて、最短で208日12時間37分ですーー


「……半年以上かかるのか。こんだけあればそりゃそうだよね」


 だが当然そこまで時間をかける事は出来ない。ミークは顎に手を当てうーん、と悩みながらAIに質問する。


「何か良い方法無い?」


 ーー心配されている事案が、死骸と化した魔物の腐敗化であるならば、まず腐敗しない様処置する事を提案します。衛星にある残り全てのドローンをこちらに投下し作業を行えば、全魔物の腐敗化をもっと早い段階で抑える事は可能です。……計算したところ、作業完了まで約13時間27分14秒、但し環境によりこの予測時間は多少前後しますーー


 AIの回答にミークは驚きながら「そんなに短縮出来んの? じゃあそれでお願い」と伝えると、了解、と即返答があった。


 ーーでは衛星内にあるドローンをピックアップする為左腕を使用します。一旦地表に降りて下さいーー


 了解ー、とミークは返事し、言われた通り森の中でも、やや開けた場所に移動し地面に降り立った。


 ※※※


「「「「……」」」」


 ファリスの入り口で魔物と格闘していたラミー達だったが、突如降り出した白い雨によって、魔物が一方的に蹂躙されていくと、一旦攻撃を止め一方的にその白い光によって蹂躙されていく魔物達をずっと黙って見つめていた。


 暫くして、その白い雨は止むと、今度は迷いの森から夥しい死臭を鼻腔に感じた。彼女達はまさか、その白い雨が迷いの森一帯降り注ぎ、思っていた異常の相当な数を屠っていたなどと、想像だにしていなかったのである。


 彼女達はファリスの入り口で、眼前に迫る魔物達と戦うのに精一杯で森全体は見えていなかった。よってミークが齎したその白い雨はほんの一部だと思っていた。だが、森の方から漂う夥しい死臭に皆違和感を感じ、その正体を確認する為森に入った。その時初めて、4人は白い雨の結果が齎した全容を知ったのである。


 森の中のあちこちに無造作に落ちている魔物達の屍。まだ死して間がない為生暖かい。その生々しさが一層、一方的虐殺の凄まじさを物語っている。


 ラミー達は森中に拡がる血と死の臭いにむせながら、その惨状を見て呆気にとられるしか無かった。


「……あの星落とし、こんな広範囲にまで及んでいたのね」


「これ、ミーク1人によって引き起こされたんだよね? ……、何と言えば良いのか……」


「訳が判らねぇ。理解出来ねぇ……。だがしかし、もしミークがこいつら倒さなかったらと思うと、ゾッとしちまう」


 ラルの独り言にラミーとノライ、サーシェクは皆一様に同意の視線を送る。


「とにかく、何体あるか判んねぇが、これ全部早めに処理しないと、森の中腐敗した死体で大変な事になるぞ」


「そうだな。とりあえず当分の間、警備隊員と冒険者をこの魔物の死体処理に充てないと片付かないだろう」


 サーシェクがそう言うと、ラルは「しかし結構な数だから、下手したら何ヶ月もかかりそうだぞ」と返すと、サーシェクは何も言えず黙って森の奥を見つめる。


 するとその時、急に森の奥の方から、空に向かって何かが飛んでいくのが見えた。


「何だあれ?」


「さあ……。でもきっとまたミークが絡んでるだろうね」


 サーシェクの言葉に皆一斉に頷いた。


 

感想等頂けたら幸いです。

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